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カテゴリ:読書
詩人、入江亮太郎氏の詩集は
「入江亮太郎遺稿集」 三好豊一郎・山本定祐編 詩学社 1987年 選詩集「風の姿」 金井直編 思潮社 1991年 が出版されています。 2002年、同人誌に小長井さんの手で掲載された『冬』と言う詩が手元にあるので 引用してみます。 冬 入江亮太郎 冬が来た すべての幻想は秋の日のほこりのように消えていった ひとは 大きかった希望の蔭から近づいて来る明日の顔と向き合わねばならぬ 物の形は明朗なのに ひとばかり陰鬱なのはそのためだ ひとは急いだ 頬に冷たく 日の終わりに触れながら 冬が来た 暗い夢のような葉の蔭に 枇杷の白い花がひらいた わたしの思い出は 沈黙に閉ざされた寂しい蛇のような日々 この国の長い冬 目にしみる冬 かたい心を焼き尽くす炎のような 凍えるひとをぼおぼおとあたためる熾火のような 怒りの声を聞いていた 冬が来た それはあかぎれを彫る金象嵌の果物ナイフ 心をとがらすひき割飯 死んでゆく結核患者 脱走する兵士 引き裂かれた恋 それは柵 スト破り 河や海を埋め立てるやつら どんらんな門 此の世の自由を隔てるコンクリートの長い塀 そいつらだ そいつらこそ冬なのだ 冬が来た 目には泥 耳には枯葉 今人々はもの言う自由さえ奪われようとしているのだ 再び しかし 人々はもはや深く信じていた 真実は重いと それは世界の心が手綱のように結ばれているからだと そしてこれが 最後の冬なのだと この生きている歌を 寒気の下でひび割れる 石のような言葉に わたしは刻もう (『日本ヒューマニズム詩集』三一書房・1952年)より 焼き尽くす→尽くすは旧字体 ひき割飯→ひきは、石+展と書きます 戦後、戦争賛歌の協力詩を書いたとして、激しく糾弾された高村光太郎の、 「冬が来た」を踏まえて書かれていることは、明らかでしょう。 そして、敗戦直後の占領軍による言論統制に対する抵抗も。 今の時代も、この詩と共通項が多いことに気づかされます。 昭和という激動の時代の苦難を、ご夫妻で文学と共に寄り添い生き抜かれて 詩人亡き後も、その痕をたどるかのように次々とご本を出された、まるで道行きを完遂されているかのような、残された妻の生き様に胸が熱くなります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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