お婆ちゃんの後姿
昨日の夕方、帰宅途中のバスに揺られながら本を読んでいたら、猫背の見知らぬお婆ちゃんがふいに横から話しかけてきた。『あなたは、毎日このバスに乗るの?』『いえ、毎日というわけではありませんが、たまには乗りますョ♪』ガーコはニコやかにこう答えた。『よく見かけるのよねぇ、あなたのこと・・・この前は駅前の横断歩道を渡っていたでしょう?』『そうでしたか?』『それに、この前はバスから降りてたものねぇ?』『え?』『あと、郵便局で立ち止まってたでしょう?』『???』ガーコの笑顔は徐々に引きつっていく。そして次の停留所が近づくと、お婆ちゃんは慌ててチャイムボタンの在りかを探し始めた。ガーコはすかさず『ここにありますョ?』と教えてあげる。すると、お婆ちゃんはニッコリと優しそうに微笑んだ。『ありがとう。最近、急に目が悪くなってきてね、物がよく見えないの。ホホホ・・・それじゃぁ、またね。』お婆ちゃんがバスから降りていくのを見届けたあと、ガーコはおもむろに窓の外へ目をやった。お婆ちゃんの手提げ袋が、やせ細った右腕からぶら下がって、左右に大きく揺れている。≪きっと人違いなんだろうなぁ。≫ガーコはそう思いながら、お婆ちゃんの後姿をぼんやりと見送ったのだった。