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カテゴリ:半生
大学院生だが、救急指定病院に就職しているから、救急日には夜中まで勤務、その後は自宅待機(呼ばれたらすぐ行く)ことになっている。その日そろそろ帰ろうかと思っていたら、頭痛の患者を見て欲しいとの依頼。50歳台の女性で、今日の昼間に洗濯物を干していたら突然殴られたようにガーンと頭が痛くなり、数回嘔吐している。近くの医師に診察を受け、風邪ひきと診断された。頭痛薬をもらったがあまり効かないので、夜になって不安になり、来院したという。 このような話を聞いたら、絶対にくも膜下出血を疑わなければならない。命にかかわる病気。原因は主に動脈瘤の破裂で、手術の対象。血圧は180/100mmHg、降圧剤と強い鎮痛剤を投与した。本人をやさしくCT室に誘った(移動式ベッドに載せて...)。CTではハッキリした出血が見当たらない。その頃その病院のCTは今の高解像度のCTではなかった。出血量の少ないくも膜下出血は脳外科医でも見逃すことがあるという。臨床論文でもマイナーリーク(チョッとした漏れ)の表現で紹介され(1987年)、日本語でもこの年に紹介されていた。 そこで、 腰椎から髄液検査を行うこととした。血圧が下がっていることを確認、頭痛もかなり軽減していることも確認。ご家族に必要性と危険性について説明して慎重に患者さんから髄液のサンプルを頂いた。 髄液には血液がうすく混入しており、やはりくも膜下出血だと思った。 すぐに大学に電話、くも膜下出血だから、搬送させて欲しいとお願いした。すると、 ”あのマイナーリークの日本語の論文が出てから、空振り(くも膜下出血の誤診)が多い。髄液検査はブラディータップ(深く刺して血を出させた)ではないか? アンギオ(脳血管撮影をして動脈瘤があったら送って欲しい” ときた。”僕は手術は上手くないですが、髄液検査を含め病棟の基本的な手技は(もうーさんざんやってきましたから)先生以上に上手くできると思います”っていいたかったが、確かにおっしゃることはそれなりに正しいし、ケンカしてる場合ではない。いまの僕ならさっさと他の施設に送るか、しばらく待ってからセルジンガー法で血管撮影をするだろう。でもその頃はまだ3年目。そんなこともできない。 困っていると、ベテラン外科のDrSが一緒に血管撮影やろうと言って下さった。院長先生も機械はあるからここでやれることなら、してあげたらというお墨つきをくださった。 その頃僕らができるのは直接法といって首の動脈や上腕の動脈に直接短い管をいれて撮影する方法だった。再び十分に鎮静鎮痛処置を行ってから検査開始。幸い1番初めの首の動脈からの撮影で2個の動脈瘤が見つかった。”動脈瘤確認しました、すぐに連れて行きますから手配をお願いします”と大学に電話。搬送中も出血が起こるかもしれないので患者さんに付き添っていった。家に帰ったら4時だった。明日は大学で朝から実験だが、達成感はあった。患者さんは手術の後、後遺症なく元気に退院した。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.08.23 12:46:17
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