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テーマ:仕事しごとシゴト(23727)
カテゴリ:半生
苦学生のような生活を送る僕にノルマがきた。
”キミ、あの症例で論文書きや。発表したし、資料はあるやろ?” (僕を脳外科に誘ってくださった)助教授からご指令のあったあの症例について記載しておく。 瞼の腫れを主な症状として来院した小さな子供。CTを撮ると目の上、横から頭の中、側頭部の筋肉に伸展する大きな腫瘍がみられた。骨も溶けていて、手術に入る前の診断としては悪性の腫瘍が考えられるというものだった。手術は麻酔初期から助教授とDrHと僕とでかかった。柔らかく、見るからに悪性のような腫瘍を露出した。僕らはその一部を採取し、病理医に提出した。大きな腫瘍なので、その広がりを確認しながら順次摘出していると、返事が返ってきた。 ”横紋筋肉腫(悪性)です”と。 病理医の先生は裁判官のようなもので、腫瘍を顕微鏡で観察して悪性、良性の区別を教えてくださる医師である。病理の判断は非常に重い意味を持つ。・・・となると、眼球を含めて顔の約4分の一をゴッソリとってしまわないと完全にな治療にはならないのだ。手術前に説明はしていたものの、最悪の事態になったと思っていたら。 ”どうも、感じがおかしいわ。これで目まで取らな あかんの? なあH、腫瘍だけ取って終わりにしょう。”と助教授。 ”そうですね、境界がはっきりしているようですし”とDrH。悪性の判断がでてるのに、腫瘍だけ取って終わりとなった。手術の後に助教授がおっしゃった。 ”病理の所見はとても大事や。でも現場で腫瘍の顔をよくみること(肉眼所見)も大事や。永久標本で悪性やったら、もう一回手術させてもらお。それでええやろ?” 最終的に帰ってきた報告は良性の腫瘍だった。術前診断も術中病理も悪性だったのに。 臨床で使う病理には主に術中迅速病理と永久標本の病理がある。手術中の標本は凍結切片を用いるため、悪性と良性の区別が付き難い場合もあるのだ。今回の腫瘍は比較的稀な伸展形式を取っていた。それにしても経験のある臨床医の判断というのは凄い。助教授の判断のおかげで、あの可愛い子は目を失わずにすんだ。さすが伊達に助教授をやってないなあと感心したのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.08.25 20:39:28
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