国立能楽堂の2月企画公演は復曲。定刻に出れば狂言から観られたのだが、予想通りというか、定刻には出られず、会場に着いたときにはタッチの差で始まってしまっていた。もちろん、(主義に基づいて<当たり前)会場には入らず、近所の茶屋で茶を飲もうと思うと、これまた店舗閉鎖(ここにあった本店が別の場所に移るらしい)。ダブルショックであった。
そもそも、ここ2週間ほど、驚くような仕事に忙殺されている。朝令暮改ではないが、様々な自体が出来して手直しに次ぐ手直しで、授業以外の時間はほとんどお抱え仕事をやっている。
……そんな話は止めてっと。
復曲狂言の方は涙をのんだが、能「鵜羽」。これが思いの外面白かった。中世日本紀に基づく設定で、龍女が干満の宝珠によって奇瑞を見せる舞。現在の五番立でいうと切能にあたる感じの曲。最後の舞事はあれこれ盛り込んでとても贅沢、能「海士」の[早舞]に<クツロギ>の小書が付いて、さらに[舞働]が入る感じ?あと露ノ拍子で使う太鼓の音などもあった。どうしてこの曲が途絶えたのだろうか。面白いのに。海岸の奇瑞が舞台上に浮かび、トランス状態に陥り思わず涙がこぼれる舞台だった。可哀想とか惜別ではなく、こういう華やかなもので涙が浮かぶのは珍しい。まさに“何事のおはしますかは”であった。
この龍女は豊玉姫であるが、シテ方・ワキ方はトヨタマヒメ、狂言方はトヨタマビメと呼んでいた。私などはトヨタマビメと呼ぶ方が耳慣れた感じであるが、連濁しない方が普通なのだろうか。