宝生会別会は「実盛」「定家」「葵上<梓之出>」の3番。極めて目を引く曲というわけではないが、地味な感じで宝生らしい気もする(意味不明)。
さて、「実盛」。白髪であることを懸念して、髪を黒く染めて戦に臨んだ老武者である。木曾義仲と平家の闘いという中での出来事で、『平家物語』の展開の本筋ではないのかもしれないが、こういう美意識がある話もなかなか捨てがたい。老いが恥であったという点は、忘れてはいけないな、と思わせられる。人間、美しく年をとりたいものだとわかってはいるけれども、なかなかそうはいかない。
シテは寺井良雄さん。見事な白髪(本当に輝くばかりの整った白髪である)のシテが演じる「実盛」というのも(もちろん地毛は見えない)、なかなか興味深い。スッキリとした宝生らしい地味な、だが味わいのある「実盛」だったように思う。先日の片山九郎右衛門さんの「実盛」も実際の体格では考えられないスケールを感じさせ、素晴らしい「実盛」が続いた。
ところで、「定家」シテ三川淳雄さんは、今回で舞い納めらしい。確かに来年の予定表にお名前が挙がっていない。残念である。