本山美彦のブログ消された伝統の復権より引用。ここのところ、金融不安も一段落なのだが、来るべきクラッシュに備える意味でも、アラートを発しつづける本山先生のサイトを注視しておくべきだろう。米国が国債の引き受け手として、中国を見出したのが運の尽きだった、と語られる日が来るような気がする。面子を重んじる国だから米国も大変だと思う。そしてわが国は肩の荷が軽くなってほっとすべきなんだと思う。カオス時代の到来であり、もはや米国に十全なハンドリングはできない。とにかく、プレーヤーが多すぎる。日本としては、アジア主義で行くしかない。岡倉天心あたりから再スタートだ。もちろん頭山満だって忘れてはいけない。
(引用はじめ)
野崎日記(202) 新しい世界秩序(19)パックス・サイノ・アメリカーナの予兆(1)
09年6月1日、ガイトナー米財務長官が訪中した。訪中目的は、建前として、「安定し、均衡のとれた持続可能な成長に向けた両国の経済関係強化」についての協議ということであった(09年5月12日の米財務省の声明)が、実際には米国債購入要請であったことは想像に難くない。
09年5月13日、同長官は、「金融機関救済のための新プログラム構想」(1)を発表したが、そこでは、資金調達がキーワードになっていた。しかし、09年5月7日の30年国債(2)入札は、応募者数が激減し、入札価格も下落した。ガイトナーの訪中は緊急事態であった。
09年2月13日の30年国債入札も不調であった。このときもヒラリー・クリントン国務長官が北京に飛んだ。09年2月20日~22日のことである。その後、中国の米国債買いは弾みがついた。。そして、09年6月1日のガイトナーの訪中である。
09年2月になぜ財務長官ではなく国務長官を国債購入依頼のために派遣したのかといえば、中国政府がヒラリーの夫のビル・クリントンになみなみならぬ梃子入れをしていた実績があるからである。ビル・クリントン政権は中国政府からの献金を受けていたと騒がれたこともある(http://www.pbs.org/newshour/bb/congress/jan-june98/china_5-19.html)(「原田武夫の『国際政治経済塾』、http://money.mag2.com/invest/kokusai/2009/05/post_113.html)。
本来なら急激に価値低下するはずのドルが暴落しない最大の要因は、中国による異様なほどの米国債買いである。
1 中国政府による米国債購入停止への米国政府の怯え
中国人民銀行(中国の中央銀行、以下、PBOCと表記する))が09年4月11日に発表した09年3月末の外貨準備高は、前年同期比16.14%増の1兆9537億ドル(約196兆円)だった。ちなみに、日本の外貨準備は、09年5月末時点で、1兆240億120万ドルであった(http://www.mof.go.jp/1c006.htm;
http://www.asahi.com/world/china/news/TKY200904110189.html)…
…オバマ次期政権は、複数年にわたり財政赤字が1兆ドルを超えるとの見通しを示したが、それを覚悟して未曾有の資金散布政策を実行中である。08会計年度(08年9月に終了)は単年度で過去最高となる4547億ドルの財政赤字となった。09年はその4倍にはなると推測できる。
財務省は、09年3月18日、政府債を3000億ドル程度、さらに、 政府系住宅金融機関(GSE)のファニー・メイ(連邦住宅抵当金庫)やフレディ・マック(連邦住宅金融抵当公庫)が支払い保証している不動産担保証券を7500億ドル程度購入する予定であると発表した。
このように、これから本格化する増発国債が消化できるのかどうかがオバマ政権の最大の懸念事項であることは明白である。
中国は、08年9月に5850億ドルと日本(5732億ドル)を抜いて保有額でトップに立っ以来、米国債買いに弾みがついている。
しかし、今後の中国は、大口の買い手として期待できないのではないか、あるい
は、中国が米国債の保有比率を落とし、すべく、一部を売却するのではないかというのが米国の当局者の懸念でもあった。しか、09年1月の米国からの資本流出が1489億ドルと、月別流出額において記録的な数値を示した。追い打ちwかけるように、09年3月、温家宝首相は、ドル資産の安全性に不安を覚えていると米国政府を牽制した。これは、ガイトナー長官が就任前の1月に議会の公聴会で、中国政府が人民元を元安方向に操作しているようだと発言したことへの中国政府の反発でもあった。
中国の金融専門雑誌『チャイナ・グローバル・ファイナンス』(China Global Finance)編集長などは、「財務省債(Treasury Bonds)価値の大暴落につながる米国の将来の財政赤字を管理し、削減する米国政府の能力に世界は疑問を持っている。中国の一流学者たちは、中国は米国債投資において決定的な打撃を受けるであろう。この被害を最小化することが基本的な課題である」と書いた。
この記事を紹介した『エポック・タイムズ』は、06年末から08年半ばまでに外貨準備からの投資で出した損失額が800億ドルであったこと、この数年間で初めて、09年1月の外貨準備が300億ドル減少したことをあげ、今後、中国からの資本流出が続き、中国の外貨準備は減少傾向を示すであろうと警告した
(http://theepochtimes.com/n2/content/view/14369/)。
PBOCの周小川総裁も、09年4月に米国のドルに替えて、IMFが発行する通貨を基軸通貨にすべきであるとの激しい発言をした
(http://www.ctrisks.com/files/common/Macro_Risk_Report_May_2009.pdf)。
09年4月12日付の『ニューヨーク・タイムズ』は、08年11月に400億ドルも米国債を積み増したような、ひたすらドルを貯め込む政策を、中国は撤回する気配があると伝えた。09年1月と2月に中国政府が米国債を売ったという情報がその判断の根拠である(誤報であることが後日分かった)…
…これは、中国政府が人民元安を作り出して輸出を強引に伸ばそうとしていることの現れである。ここには、かつての、いわゆる「ポールソン」効果が働かなくなった状況を読み取ることができる。
ガイトナーの訪中は就任後初めてであるが、子ブッシュ政権下のポールソン財務長官は、何度も訪中して中国政府に人民元切り上げ圧力をかけてきた。そしてそれはつねに実現されてきた。これが「ポールソン」効果と呼ばれているものである。
ポールソンが訪中したときの中国の輸出伸張は順調であった。したがって、ポールソンの人民元切り上げ要請に部分的に応える余裕が中国にはあった。しかし、いまやそうした状況にはない。輸出税還付という政策手段だけでは、この世界不況下で輸出の減退を防ぐことはできなくなっているのである。そして、それを容認せざるを得ないほど米国は中国を当てにしているのである。
首都経貿大学公共管理学部の張智新・副教授は、「中国と米国が世界金融危機に共同で対応し、経済刺激のための巨額の資金を米政府が投入し続けている現在、中国という最大の債権者の安定を図ることが米国の現実的な選択である」、「中国は米国による人民元切り上げ圧力に対処する術を身につけてきたし、米国も人民元切り上げ圧力を加えるようなことはしないであろう」と言い切った。
中国商務部研究院の梅新育・研究員も、「ガイトナー長官の訪中目的は、米国の経済刺激プランへの中国の支持をとり付けることであり」、人民元切り上げ圧力を加えることではないと張・副教授と同じことをいった。
中国による対米貿易黒字の解消は、為替レートを動かすことによってではなく、米国が対中輸出を禁じているハイテク分野の対中輸出を解禁することによって実現されるべきだと、上海財経大学現代金融研究センターの奚君羊・副主任は、現在の対共産圏輸出抑制の米国の政策を批判している(「人民網日本語版」2009年6月1日、
http://j.people.com.cn/94476/6668847.html…
…中国の外貨準備は2兆ドル近くある。ドルが大幅に下落してしまえば、中国の受ける打撃は巨大なものになる。その意味で、中国が今後も米国債を買い増しするのか否かに世界の注目が集まっているのは確かである…
…各国の米国債保有状況
米国債の購入地図はこの数年間で大きく塗り替えられた。中国の躍進はいうまでもないが、米国の運命共同体である英国の後退、オフショアの金融機関の存在感の増大、意外なことに米国の忠実な僕(しもべ)であるはずの日本が麻生首相訪米前までは米国債購入を減らしていた、また急速に台頭してきた新興国、とくにブラジルが重要な購買者としてのし上がってきたのである。
各国別で09年2月時点での米国債保有上位5か国・地域は以下の通りである。括弧内は、前年同期比である(資料は、Major Foreign Holders of US Treasury Securities ,
http://www.treas.gov/tic/mfh.txt)。
1位は、いうまでもなく中国で7442億ドル(前年同期比52.8%増)。
2位は日本で6619億ドル(+13.5%)。じつは日本は05年から06年に減少させたのであるが、08年中に少し買い増した。しかし、それでも絶対額において05年水準に戻っていない。
3位にカリブ諸島に登録されている金融機関。金融機関が購入者として急浮上した。1891億ドルという額は、対前年比82.0%という激増ぶりである。このオフショア的金融が急浮上したことにはかなり複雑な意味がありそうである。
4位は石油輸出国で 1817億ドル (+24.4%)。個別の国の名前を出さずに石油主出国といて一括されている理由は、政治的な意味がある。中東の複雑な政治状況の下で、特定の国の突出を公表すたくないという米政府の思惑を示すものである。オイル・ショックのときのキッシンジャー外交の産物である。膨大なオイルダラーで米国債を大量に買ってくれることになっらサウジアラビアの名前を出したくなかったからであると思われる。
そして5位ブラジルの1308億ドル (-10.8%)。その他が1兆2543億ドル (+24.3%)。
合計3兆1620億ドル (+28.0%)である。全体として、対前年比28%も増えたという数値だけを見るかぎり、通常いわれているようなドル忌避はないと受けとってしまいかねない。しかし、そうではない。少数の国が、強い政治的な思惑から買い増していることと、オフショア市場を利用した巨大な投資集団による急激な米国債購入の増加が、ドル忌避はないとの印象を与えているだけのことである。中国、カリブ、ブラジルがドル崩壊を食い止めている3つの勢力である(09年3月にはロシアが急浮上して、ブラジルを抜くことになる)。08年9月に、日本が中国に首位の座を譲って以来、わずか半年で、米国債の保有額で、823億ドル(約8兆円)の大差がついたのである
(http://blogs.yahoo.co.jp/yada7215/51439197.html)。
(貼り付け終わり)