|
カテゴリ:闘魂
紺谷典子「平成経済20年史」(幻冬舎新書)読了。ここでは余韻覚めやらぬうちに、印象に残ったエピソードを。
まず、氏のスタンスだが、つぎのような記述に表れている。 (P238) …きっかけは、平成9年、米国を訪れた橋本首相の、コロンビア大学での発言である。大学での講演後、フロアから質問があった。「過去20年、円に対するドルの価値は半分近くまで下がったが、日本はそれでも米国債を持ち続けるのか」… …カンター氏とやりあったときや、ドルが大きく下落しているのに、米国が放置していたときだ…外貨準備は、米国債でなく金で持つこともできた。しかし、それでは、米国経済に大きな影響が出ないだろうか… …解せないのは、日本のマスコミが「失言」と決めつけて、「不用意」「軽率」「うっかり」と批判的だったことだ… …しかし、首相の発言を、蔵相や官僚が即座に否定するのは、かえって国際信用を失う行為ではないのか。米国を恐れ、迎合する大蔵省の姿勢が、くっきり見えた瞬間だった。橋本発言を知って、大蔵省次官が激怒したとの報道さえあった… ●あくまで抜粋なので、「事件」の詳細は、本書を読んでください。 (P245) かねて大蔵族として知られる小泉首相は、財務省と二人三脚で、財政構造改革に邁進する。すなわち緊縮財政と増税である。森政権は、意図せざる緊縮財政であったかもしれないが、小泉政権は、はっきりと「財政構造改革」と宣言した。橋本元首相が「間違っていた」と反省の弁を述べた財政構造改革だが、小泉首相の耳には届かなかったのであろう… …財政構造改革は、しぶとく何度でも現れる。そして、日本経済は、再び、三度、叩きのめされることになる… …しかし、改革政権は、政策の誤りを認めようとしない。不良債権が増加したのは、銀行が隠していたものを暴きだしたからだと主張した。経済が改善しているのに不良債権が増えたのであれば、そうであろう。しかし、経済の悪化は火を見るより明らかだった。それでも、竹中経済相は、不良債権の増加が政策のせいだと認めようとしなかった… …その竹中氏が、改造内閣で金融大臣を兼務することになり、金融界には緊張と動揺が広がっていた。就任直後、竹中金融相は、不良債権の抜本処理のためのプロジェクトチームを立ち上げると発表、そのメンバーにハードランディング論者である木村剛氏を加えた… ●この辺り、菅首相の発言とオーバーラップして来る。子供手当ても見直すらしいので、アンチ官僚という意味でも、新党日本のベーシックインカムに合流せざるを得ない。 (P292) 実は、平成15年春以降、日本は、総額32兆円を超える空前の為替介入を行っていた。多いときには、1日のドル買いが1兆数千億円に及んでいる。世界の常識を大きく外れた、あまりに巨額の介入である。 日本経済の支えは輸出だけ、怖いのは円高だ。円高が輸出の勢いを殺げば、日本経済は、唯一の牽引力を失う。小泉政権の命運がつきてはならなかった。財政構造改革をかかげる小泉政権が、経済悪化に足をとられるのは、財務省にとっても望ましくない。 前代未聞の巨額介入は、小泉改革政権の裏技だ。財務省は介入枠を使い切ると、保有する米国債を日銀に売って、その資金で、さらにドルを買った。介入の司令塔である溝口財務官は、国際市場から、ミスター・ドルの異名を奉られた… ●この話はよく聞く話だが、わけがわからない。半端ではないのだ。国富をこのように垂れ流して、ほんと、もったいない…。 (P359) しかし、小泉首相の関心は「民の竈」にはなかった。「郵政民営化」の実現にだけ注がれていたのである。経済悪化は、小泉改革の当然の帰結であった… …必要だが営利追求の「民にはできない」ことがあるからこそ、どこの国にも政府が存在し、公的な行政サービスを行い、その経費として国民は税を負担している… …まず議論すべきは「どこでも」「過疎地でも」「小口でも」同じようにサービスを受けられること…が、つまりユニバーサル・サービスが国民にとって「必要かどうか」の点である。必要であるというのが国民の結論なら、次に議論すべきは、それをどういう形で提供すれば、国民負担がもっとも小さくて済むかである… …この事実を発見した関岡英之氏は、「米国側から見れば、郵政民営化イコール日米保険摩擦なのです」と語っている。米国は、簡保を郵便事業から切り離して完全民営化し、全株を市場で売却せよ、と要求しており、小泉・竹中案は、このラインに完璧に沿ったものである… …米国が自国の利益を追求するのは当然のことであり、何も隠すべきことはないのだろう。後ろ暗いなどとは思っていないから、堂々と文書を公開したのである。 問題は、証拠を突きつけられるまで嘘をつき、隠蔽しようとした小泉首相と竹中大臣である。やはり後ろ暗いところがあるのだろう。そうでなければ、なぜ隠そうとするのだ… …米国の要求は、財務省・金融庁にとっても望ましい。巨大な2つの金融機関が監督下に置かれ、権限が拡大するだけでなく、天下り先が増えることでもあるからだ… ●お馴染みの年次改革要望書である。B層にはぴんと来ないんだろうなあ。 (P385) 郵政民営化は、わが国の政治史の汚点である…参議院の郵政特別委員会の採決の直前、反対派の議員が全員、賛成派の議員と入れ替えられた。これは国会法違反である。100時間以上協議した、と小泉首相は言うが、何万時間協議しても、採決の直前にメンバーを入れ替えるなら、何の意味もない… ●信じられないことである。これはほんまか。国民を愚弄するのもはなはだしい。なお、新書なので、紙面も限られていて、参考文献の記載がまったくない。残念だが、やむを得まい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
June 13, 2010 12:54:27 AM
コメント(0) | コメントを書く |