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●金子勝「新・反グローバリズム 金融資本主義を超えて」(岩波書店)を読む。結局、米国の経済は立ち直るのに時間がかかりそうだ。ウォーエコノミーへの警戒は解いてはならない。我々としては、新興国に全力でシフトするしかあるまい。TITANIC号の沈没である。以下、引用だけ。
(P84) …現在のアメリカも、かつての日本と同じ道をたどっているように見える。2008年3月にベアスターンズが破綻しているにもかかわらず、厳格な不良債権査定もないまま公的資金注入をためらって、JPモルガンチェース銀行に救済合併させて処理した。奇妙な楽観論が流されて株価が上昇したが、危機は着実に進行していった。不良債権問題を甘く見て、ポールソン前財務長官とバーナンキFRB議長は銀行への流動性供給でしのげると考えた。しかし、この初期段階の政策の誤りが、住宅バブル崩壊を大きくした。 2008年9月に入って、連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)が再国有化され、9月15日にリーマンブラザースが経営破綻し、ついでアメリカ保険最大手AIGも事実上、政府管理下に置かれた。慌てて金融安定化法が作られ議会を通過して、7000億ドルの公的資金枠の一部投入が始まった。にもかかわらず、2009年に入って再び金融不安が高まった。オバマ政権は、金融機関に公的資金をさらに注入するとともに、7870億ドルの巨額の景気対策をとった。その間にFRBはゼロ金利に続いて、最大3000億ドル規模(09年後半期)の長期国債購入による流動性供給を開始した。 そして、2009年5月7日に、ガイトナー財務長官とバーナンキFRB議長は、アメリカ金融大手19社に関するストレス・テスト(銀行検査)の結果を公表し、金融機関はこれで万全であることを強調した。このテストは、さまざまなマクロ経済指標の仮定を置いたうえで、概算でコア自己比率規制つまり有形株主資本比率(総資産に占める普通株資本の割合)が一定基準を満たせるかどうかを求めている… …アメリカや欧州は、G20で新たな国際金融ルールとして、これまで自己資本比率規制ではなく新たに、この有形株主資本比率による規制を導入しよう…しかしストレス・テストに際して、シティグループがアメリカ政府から注入された公的資金を普通株に変えて、当面をしのいだ…実質「国有化」された銀行ほど「健全」な銀行ということにもなりかねない。逆に、自己資本の中で普通株の占める比率が低い日本の銀行は、公的資金を返済したにもかかわらず「不健全」ということになってしまう… …だが、問題はそれだけにとどまらない…証券化商品があまりに複雑すぎて損失そのものが見積もれないことに、世界金融危機の困難性の本質があるからだ。実際、ストレス・テストも、仮想上のモデルによる計算にすぎない。そのために、アメリカ政府とIMFの損失推計も大きく食い違っている… (P87) …実際、ストレス・テストは、金融当局による銀行決算のごまかしの黙認が前提になっている。これは一種の「粉飾」でできている… (P89) …ストレス・テストは、楽観的な仮定だけが根本的な問題なのではない… …日本の不良債権処理問題の場合、目に見える担保不動産の損失評価の意図的なごまかしであった。今回のアメリカの金融危機が違う点は、(1)証券化手法が進んであまりに複雑な証券化商品が生まれ、(2)しかもFRBやSECの監督が及ばないSIVやヘッジファンドなど「影の銀行システム」を使って相対取引されているために、不良債権の損失を正確に評価できないことにある… …リーマン・ショック以降、ABS(資産担保証券)、あるいはCDOやCDSといった金融デリバティブ商品などの証券化商品の発行はほとんどなくなってしまった。そうした状況下で…時価会計主義適用が緩和され、同じ格付けの証券化商品でも、金融機関ごとに損失評価がばらばらな状態になっている…体力のない銀行ほど損失の見積もりを低く抑える傾向が出てきて…この問題が実は日本の不良債権処理の最大の問題の一つだった。どこにどれだけ、不良債権が眠っているか分からないために、カウンターパーティ・リスクを温存させて金融不安を長引かせる…いまやアメリカ当局も、同じ失敗に陥っている… …たしかに、景気が回復して不良債権の資産価格が戻ってくれば、損失のごまかしも消えてしまうので、当局者のこれまでの政策的失敗もなかったことになる。それゆえ、景気がよくなってしまえば、問題が消えるという甘い希望を持ちたくなる。そこで、アメリカ政府およびFRBが不良債権化した証券化商品を買い取る、あるいはそれを担保とした融資を行うようになっている… (P93) …だが、現在のオバマ政権は、本来とは別の道に向かっている。バブル崩壊の初期段階で失敗したバーナンキFRB議長とガイトナー財務長官は、方向転換できずに、ただ政策的失敗の先送りを続けている。それは、政府とFRBが金融機関の会計粉飾を黙認しつつ、救済融資、公的資金注入、毒入り証券化商品の買取などを続けて、不良資産の”ずるずる処理”を続ける道である…実際、住宅ローンや商業用不動産ローンや消費者ローンの債務不履行の増加によって損失が拡大するたびに、利益の多くをその処理に当てていかなければいけない… ●処方箋として、グリーンニューディールというバブルを起こす以外になくなるという。ちなみに、インフレを人為的に起こすとスタグフレーションになるとも。偶には、まともな本も読まないと現実を見失いそうになる。金子氏は、貴重な指南役であるし、岩波だから誰も文句をいえまい。 追記: とあるブログの、岩上安身氏による菊池英博氏のインタビューを見ていた。ふと思ったが、構造改革で国富が外国に流出するメカニズムがわかっていないと思い至った。IMFが押し付ける構造改革も同様の結果をもたらすので、グローバリストに共通するやり方だという。結果だけでなくメカニズムについてしっかりと理解した上でないと構造改革の総括にはならない。メディアは確信犯的なグローバリストだが、政治家は国富流出を知らないらしい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
June 20, 2010 09:47:29 PM
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