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カテゴリ:闘魂
植草一秀「日本の独立」(飛鳥新社)を読む。官僚制の淵源とメディアの過去を引き合いにし、それらが現代に引き継がれ、まぎれもなく自分たちの生活に関わる、自分たちの問題であることが論じられている。清濁併せ呑む政治のあり方は、大久保利通を始祖とするものであり、綺羅星のような人士たちが敗者として、歴史の渦に飲み込まれていった様を植草氏は、透徹した視線で書き留めている。ここではさきの戦争で大本営発表に終始したメディアに触れた点を確認しておく。
(引用はじめ) …これらの人々もすべて間違った国家運営の犠牲者である。しかし、留意しなければならないのは、戦前、戦中にわたって、戦争遂行の世論が形成され、戦争反対の意志を表明すれば、非国民として拷問の対象とされた事実が存在することである。 メディアは権力への協力機関と化し、虚偽の情報によって世論を間違った方向に誘導した。大多数の国民は真実を知らされぬまま、マスメディアの情報工作に誘導されて、戦争礼賛、体制肯定の道を歩むことを強制された。 驚くべきことは、実はこの古色蒼然とした構造が、大戦終了から65年の時空を超えて、いまも日本に厳然と存在し続けていることである。2010年9月に実施された民主党代表選でも、この基本構図がいまだに厳然と存在し続けていることが改めて確認された。 マスメディアが虚偽の情報を流布して国民世論を特定の方向に無理やり誘導する。こうした卑劣で不正な情報操作が、現代社会にも依然として存在し続けている。重要なことは、その背後に米国の意志が見え隠れしていることだ… (引用終わり) このあと副島隆彦「属国・日本論」より引用があり、ここでは孫引きはしないけれども、副島氏の「政治の流れを大きく背後で動かしているのは、軍事力とそのための軍資金である」という指摘を取り上げ、明治維新をもっと巨視的に取り上げるべきとしている。すなわち、植草氏曰く、「主役は英国公使ハリー・パークス、外交官アーネスト・サトウであり、武器商人トマス・グラバーであった。彼らが維新の志士と接触し、説得し、海外へ渡航させ、彼らに討幕の表の主役を担わせたのである。異国を打ち払う攘夷が、知らぬ間に異国に絡め取られ、異国の手の中に乗せられたとの側面を否定することはできない」。 (引用はじめ) …背後にあったのは、1900年代前半の英国から米国への世界覇権の移行である。アジア太平洋での権益拡大を狙う米国は日英同盟の存在を邪魔と考えるようになった。米国は日英同盟の廃棄を誘導するとともに、日本を対米戦争に進むように画策した。 世界の地政学を理解する者が日本の為政者であったなら、日本が無謀な冒険主義に突き進むことを自己抑制できたのかもしれない。しかし、日本は冷静な判断を失い、「大東亜共栄圏構想」に突き進む、無謀な拡張主義に走った。その結果が日本の焦土化であった。 その意味で、世界のバランス・オブ・パワーを正確に読み取る力、その現実を踏まえる冷徹なリアリズムが不可欠である… …第二次大戦に日本は負けるべくして負けた。世界の情勢を的確に判断する洞察力を失い、軽薄な精神主義に走って多くの国民のかけがえのない命を犠牲にした。為政者の能力、見識が国民の運命を左右するすることを私たちはしっかりと認識しておかねばならない。 広島、長崎の原爆投下を受けて日本は無条件降伏を受け入れた。多くの国民は終戦の瞬間まで、日本の勝利を信じ切っていた。その最大の理由は、日本の報道機関が日本の劣勢をまったく伝えず、ほとんどの国民が、日本が戦争で優位に立っていると信じていたためである。 真実の情報が公開されていたなら、終戦ははるかに早い段階で決断されたはずである。数十万、数百万の命が失われずに済んだはずである。それほど、真実を伝えることの意味は重い… (引用終わり) このあと憂国の士として植草氏は、春名幹男氏の「秘密のファイル―CIAの対日工作」によりながら、戦後の逆コースを引き合いに出し、菅直人政権の「逆コース」を論じていく。 とまあ、以上、今日まで読んだところで、強く共感した点を紹介した。本書の最初の方で、小泉・竹中政権(レジーム)の悪業を暴いている。資料的な価値も高いと思われるし、こういう形で、一世を風靡した権力者の評価が下されていく、他でもない「現場」に立ち会えたのは僥倖だと思う。 悪さをするとめぐりめぐって、自らの身に降りかかってくるという意味で、自らの身の処し方は常日頃からよく考えて行動すべきだ。 本書に見られるような氏の高潔な精神は大いに称揚されていいだろう。渾身の力がこもっていて、音楽や絵画など良質の作品に接したときのように非常に気分がいい。命がけの力作である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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