●阿修羅より
「日本における政府紙幣導入の論議」(ウィキペディア)を引用する。
日本における政府紙幣導入の論議
近年、一部の経済学者ないし政治家が、ケインズ主義の立場などから、政府紙幣を発行すべきと主張している。これをセイニアーリッジ(Seigniorage、通貨発行特権の意)政策という。政府紙幣の発行や、中央銀行による国債引受には、財政政策的な意味と金融政策的な意味の、二重の意味がある。政府紙幣発行の意義 [編集]財政政策的意味政府紙幣発行賛成論者達の見解では、現在の日本経済不振の根本原因を「有効需要の不足」、特に「内需の不足」と考える。国内の生産能力(供給)に対し、国内の消費や投資(需要)が足りないのである。国内総生産=消費+投資+政府支出+(輸出-輸入)近年では日本経済は慢性的なデフレーション(デフレ)が発生しデフレスパイラルが進行している。そのため国内に数十兆円規模のデフレギャップ(供給と需要の差)が存在するとされる。
そこでこの需要不足を日本政府が積極的財政政策を行い、公共投資などの政府支出、つまり政府による有効需要の創出で補う必要がある。それにより経済成長を図り、税収の自然増により、財政の健全化を行うのである。しかしそのための財源として国債を発行すれば政府の債務が累積し、その償還や利払いのために財政を圧迫してしまう。そこで考えられたのが政府紙幣の発行である。政府紙幣は国債と違い償還が不要で利子が付かず債務にならない利点があるからである。
金融政策的意味
またこれは通貨供給量を増大させる手段でもある。現在のデフレ下の日本においては、「実質利子率=名目利子率-期待インフレ率」というフィッシャー方程式に基づき、実質金利が高いので、消費や投資が減少し、貯蓄が増加する。日本国内の過剰貯蓄は100兆円単位の規模とされる。また実質金利が高いと世界中で円が買われて円高になるので純輸出(純輸出はGDPの要素)が減少する。
そこで通貨供給量を増やし、期待インフレ率を上げて、実質金利を下げることで、貯蓄が減少し、消費や投資が増加する。またインフレリスクヘッジのために預金から土地建物などの不動産や株式に資産形態が移るので、それらの価格が上昇し資産効果により消費や投資が活発になる。また実質金利が下がると円安になるので純輸出が増加する。
政府紙幣の他に財源として、中央銀行に国債を直接引き受けさせる方法も提唱されている。この方法は名目上は利子が付くし償還が必要になる。しかしこの場合、借主は日本政府であり、貸主は日本銀行である。日銀は日本政府が株式の大半を所有する日本政府の子会社である。利子は日本政府から日銀に支払われるが、日銀の剰余利益は法定準備金と配当を除いて「国庫納付金」という形で約9割は再び国庫に返納されるので実質的には無利子である。償還に関してはロールオーバー(借り替え)を行えばよいし、償還期限の無い永久債を新設し発行するという方法も提唱されている。国債の日銀引受も実質的に政府紙幣の発行と同じ効果がある。
これらに対し、裏づけのない政府紙幣を無制限に発行すれば猛烈なインフレーション(ハイパーインフレーション)を発生させる危険性があるとする論がある。しかし政府紙幣発行賛成論者で「無制限に発行せよ」という者は誰もいないので、この論は前提が空想的であり暴論といえる。日本銀行券といえど仮に無制限に発行すれば価値が暴落するのである。裏づけに関しては、日本銀行券も政府発行紙幣も共に不換紙幣であり究極的には国家の信用を裏づけとしているので何ら問題は無い。なお日本では硬貨は政府発行であるが、これは国庫の預金を(裏づけとして)引き当てた上で発行している。
日本国内にはデフレギャップが存在するので、政府紙幣を発行してもデフレギャップが解消されるまではディマンド・プル・インフレになることはないとされる。政府紙幣は物価上昇率を見ながら徐々に慎重に発行するとしている。またインフレターゲットを行い、物価上昇率が高くなった時には政府紙幣の発行を抑え増税するとしている。
流通紙幣が二種類になると不便であるとする論に対しては、発行した政府紙幣(超高額紙幣一枚でよい)を日銀の政府口座(国庫)に入金し、出金する時には日本銀行券を使うという方法が提唱されている。この方法なら流通紙幣が二種類になることはない。さらに実際に政府紙幣を発行するのではなく、必要な額面分の貨幣発行権を日銀に買い取らせ、代価として小切手か日本銀行券を政府が受け取るという方法も提唱されている。
1997 - 2004年
1997年の消費税増税に伴う日本経済の景気減速への対策として、日本の特定の経済学者が、1998年以降、政府紙幣を発行し財政支出として活用すべきとの主張をした。国債発行は債務として残る上に利子が付くという弱点があるので政府紙幣で財政支出を増やそうという、ケインジアン的な経済政策である。
大蔵省官僚であった榊原英資・慶應義塾大学教授(当時。その後は早稲田大学客員教授等)は、『中央公論』2002年7月号に「〈日本が構造的デフレを乗り切るために〉政府紙幣の発行で過剰債務を一掃せよ」という論文を書いた。ただし榊原は政府紙幣の発行は「一回限りということを政治レベルで明確に確認する必要がある」と指摘し、あくまで緊急避難的な政策であるとしていた。
2003年4月16日に、日本政府の財務大臣の諮問機関である関税・外国為替等審議会の専門部会は、ノーベル経済学賞受賞者の経済学者スティグリッツを呼び、日本の政策への意見を聞いたがスティグリッツは「政府紙幣の発行を提言したい、緩やかに政府紙幣を市場に出せばハイパーインフレを引き起こすことはないし、国債では債務を借り替える必要があるが、政府紙幣ならそうする必要がないという利点がある。また会計上政府の債務の一部として計上されることはないし、国家としての格付けも下がらない」と利点を主張し政府紙幣発行を薦める主旨の発言をしている[10]。
同様に財務省の高橋洋一は、2004年に日本政府内で政府紙幣の発行を提案し、その準備の文書を作成している(「政府紙幣発行の財政金融上の位置づけ」)。高橋によれば[11]、日銀券とは別に財務省が政府紙幣を発行し国民に配るというもので、当時の竹中平蔵大臣にこの政府紙幣の発行をデフレ対策の切り札として提案していた。また法律では貨幣の発行権は政府にあるので、法改正なしに政府の判断で政府紙幣の発行ができると主張した(貨幣の形態に関する定義は無いので、貨幣は硬貨とは限らず、紙幣という形態の貨幣が発行できるという理屈)。
しかし、政府紙幣の発行はいずれも個人的な提言のみで終わった。
2008年以降
2008年から2009年にかけて深刻化した景気後退期において、元金融担当大臣であった渡辺喜美が麻生太郎首相に対して政府紙幣の発行を提言した[12]。政策提言書の末尾には「(政府紙幣発行などの)提言が速やかかつ真摯に検討、審議されない場合、政治家としての義命により自民党を離党する」としていたが、そのほかの政策提言全てが無視されたことから離党した。
高橋洋一は今度も政府紙幣発行を景気浮揚策として主張しており、それによれば現状のデフレーション(デフレ)と円高を是正する手段として25兆円の政府紙幣を発行することで、物価は1%から2%上昇し、為替は1ドル120 円ほどの円安になるという。フィリップス曲線の理論からすれば、インフレーションが起きると失業が減るし雇用の確保をすることになり、インフレーションを起こす(インフレターゲット)ためには、政府紙幣発行が最も簡便な手法であるとの主張である。高橋はまた国民一人当たり20万円の政府紙幣を配布することも提案している。だが、高橋は政府紙幣発行をリフレ政策のひとつの手段であるとして理解し、政府紙幣ですべてをまかなうか、金融緩和で75兆円のマネーを供給しようか、どちらでもかまわないと2009年には主張している[13]。
なお日本で発行する為には通貨法の改正が必要となるなどの意見もあるが[1][14][15]、東洋大学教授職に就いていた高橋洋一は、政府は通貨法で記念事業として1万円までの通貨(記念貨幣)を発行できるので、記念紙幣[16]であれば法改正は必要ないとしている[17][18]。また2月6日には政府紙幣など経済対策の新たな財源を探るとする「政府紙幣・無利子国債発行を検討する議員連盟」が自由民主党内に発足するなど、赤字国債発行や増税によらない財源のひとつとして政府紙幣の発行が必要であるとの動きもある。それによれば2009年春までに意見をまとめ、次期総選挙の経済対策の目玉にする意向であるというものであった[19]。
麻生内閣の経済関係閣僚であった中川昭一財務大臣、与謝野馨経財大臣(いずれも当時)をはじめとして政府紙幣のアイディアに対して否定的な見解を示した。日本銀行券を発行しさらに政府紙幣を発行すると円の信用が著しく低下し、インフレーションとともに大幅な円安が進行するためとしている。これは政府と銀行が大量発行すると通貨供給量が激増し通貨の大幅な供給過剰に陥り、収束不能の高インフレが発生する危険性があるためであるとしている。また、この円安はある程度の円高是正であれば景気対策として有効性もあるが、これを超えることは日本の通貨としての価値が下がることであるため、輸出には有利な反面、原料の輸入価格の上昇も意味するため、結果的に高インフレ発生を意味する。
政府紙幣発行の提言に対し政治家からの批判的な意見としては、中川昭一が「日銀券を二つ作るようなもので、中央銀行がある中では、世界中にこういうものを使っているところはないと聞いている。あまりに次元の違う問題を喚起する可能性がある」として慎重な姿勢を示している[20]。また2009年2月5日に自民党の各派閥の総会では、伊吹文明が「政府紙幣はマリファナだ。有権者に吸わせて、いい気分にして票を取ろうという意図でやってはいけない」と批判したほか、高村正彦は「中央銀行が一元管理をすることが大切だと言うことは歴史上人類が学んできた知恵。安易に例外を認めるべきではない」と発言するなど、政府紙幣発行には否定的な意見が出されている。
こうした中、2009 年3月11日、麻生太郎首相は政府紙幣の発行を検討対象とする意向を表明した[21]。ただし、その後政府紙幣導入に関する議論は前進が見られていなかった上、第45回衆議院議員総選挙で麻生の自由民主党が政権与党の地位を喪失したため、事実上検討することは白紙になった。
現在は日本銀行の私的独占形態に鑑み、あらゆる組織枠組みに捉われず、政府紙幣から地域通貨及び独自紙幣通貨の運用が模索されている。
2011年3月25日には、郡上市議会が東日本大震災の復興財源として政府紙幣発行を求める内容を含む国への意見書を全会一致にて可決した[22]。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BF%E5%BA%9C%E7%B4%99%E5%B9%A3