枯葉色グッドバイ
最近、樋口有介の作品をよく読んでいる。今日紹介するのも、樋口有介の「枯葉色グッドバイ」(文藝春秋)だ。 東京は大田区のマンションで両親と娘の3人が惨殺されるという事件が起きた。助かったのは、たまたま家を開けていた長女だけ。その少女坂下美亜は、学校への出席率も悪く、外泊を繰り返すような不良少女だった。そして、今度は、美亜の友達の大間幹江代々木公園で殺される。多摩川署の女性刑事吹石夕子は、元刑事で、今は代々木公園でホームレスとなっている椎葉明郎を日当2000円で雇い、事件の調査に当たる。ホームレス探偵と言う設定がなんとも面白い。一方美亜の方も、犯人は伯父に違いないから調べてくれと椎葉に依頼する。彼女の周りには、何か大きな問題があるようだ。○「枯葉色グッドバイ」( 樋口有介:文藝春秋) この椎葉の容貌を文中から引用すると、「髭面の蓬髪にきたないレインコート、レインコートの下にはオレンジ色の上着がのぞき、首にはタオルまで巻いている。火星人でも辟易しそうな風体で、加えてホームレス臭まで臭う」といったぐあいで、なかなかすさまじい。 この作品は、ミステリーとしてはちょっと異色だろう。例えば、事件A,B,Cが起こったとしよう。通常のミステリーは、一見関係なさそうなこれらの事件が、ストーリーが進むにつれて、だんだんと関係が明らかになっていき、一つの真実にたどりつくといったパターンが多いのではないだろうか。しかし、この作品は、いかにも関係ありそうな事件が、だんだんと独立性を帯びてきて、通常のミステリーの逆パターンなのである。だから、最後の種明かしになって、ここまでの話は、いったいなんだったんだという感じが残ってしまう。しかし、考えて見れば、前者のパターンはいかにもご都合主義であり、実際の事件はあんがいこの作品のように、紆余曲折の果てに、やっと真実にたどりくものなのであろう。 この作品の最大の魅力は、なんといっても椎葉を中心として、独特のテンポのある会話が交わされていることである。このあたりは、同じ作者の「柚木草平シリーズ」と共通している。シニカルでちょっとコミカルでウィットに富んだテンポの良い会話は、抜群に面白い。○応援クリックお願いします。 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら