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カテゴリ:車・バイク
この図はレーシンカーなどのダブルウイッシュボーンサスペンションの前輪の中心断面です。
図や画像ををクリックすれば拡大されます 先日の、キングピンオフセットの説明では、文章だけの説明で多分わかりにくかったと思うので、図を描いてみました。 タイヤが垂直に立っていれば、このようにトレッドの幅が地面に接触していることになり、現在の車にはほぼキングピンは存在しませんが、このように仮想キングピン角度が存在していて、そのキングピン角度の延長線が地面と交わる位置が、ハンドルを切った時にタイヤが転動する中心となります。 この図では4.7mmトレッドの中心よりも、タイヤの転舵位置が外に在ります。この状態のことをネガティブオフセットと呼びます。 一応念のために言っておきますが、前や後ろから見た時にタイヤがハの字になるようなタイヤの取り付けは、ネガティブキャンバーと言って、このキングピンのネガティブオフセットとは関係がありません。 蛇足ながら、F1などでフロントタイヤがネガティブキャンバーになっているのが見られますが、それは限界的コーナーリング時のタイヤの変形が、接地面積を減少させるようなタイヤの性格がある場合、仕方なくネガティブキャンバーにして対処しているもので、理想で言えばサスペンションジオメトリーを走行中に変更して、横Gに応じてキャンバー角だけを変更したいところだと思いますが、アクティブサスペンションが禁じられていて出来ないのかもしれません。 本題ですが、この図のように、トレッドの中心より外にタイヤの転動する中心があるという事は、直進中も常にタイヤの転がる抵抗によってトーインになろうとしているし、ブレーキを掛けた時には、力関係としてボディー側にブレーキ抵抗の中心が来ますから、フロントサス全体として見ればトーイン傾向に僅かに動くことになり(ゴムのロッド端ブッシュの弾性分だけそのように動く)、車としては安定的変化となる。(トーインは直進性が上がり安定すると一般的には言われます。) またエアーが減った時に車がやや傾いても、このオフセット分だけは接地圧中心位置がまだ転動中心の内側となることで、安定していることになります。 この図は前から見た右前輪の断面図ですが、このタイヤがパンクした時のことを考えると、それでも右側にハンドルを取られなくするにはネガティブオフセットの量がやや足りないと思いますが、車を5年間乗ってもフロントタイヤがパンクすることの確立が殆ど無いような昨今の道路事情を考えれば、パンクした時の安全性のために変更不能な、過剰なジオメトリーを採用する事への是非が、エンジニアの間では問われることでしょう。 その部分を考えれば、超ロープロファイルタイヤは、パンクによるライドハイトの変化が非常に少ないため、ジオメトリーの変化も少なく、ハンドルを取られるような外力も掛かりにくいので、乗り心地はともかく運動性と応答性、対パンク時の操縦安全性は上がると言えるでしょう。 下の画像は、このフロントサスペンションを設計した時のフォーミュラカーのレンダリング画像です。 (某工業大学のフォーミュラプロジェクトに招かれて、フォーミュラ・レーシングカーの設計と3Dモデリングなどについて教えた時に急いでサンプルとして設計したものです) このキングピンオフセットのことを書いていて、ふと思ったことがあるので以下に記します・・・。 昔から行われていた、「トーインを少しだけつけておく」という事の目的をあらためて考えてみると、ステアリング系の組み付け遊び、特にステアリングギアボックスにはバックラッシがある為、、トーインゼロではニュートラル位置の直進時には、どうしてもふらつきが発生するために、両前輪にトーインをわずかにつけることでその不安定さを隠していたのではないか?また、強くブレーキングすると、テンションロッドのゴムブッシュが少し撓み、アライメントがトーアウトになってしまうとその状態でのハンドリングでは、荷重のかかる側(外側)のタイヤがトーアウトからトーインに切り替わることで唐突にハンドリング方向へに曲がる印象を与えるが、それは一般には不安定な挙動と捉えられる為、そうならない様にしてあるという事もあるのではないだろうかと思えて来た。 特にフロントサスペンションの形式がローコストで容積効率の高いストラット式が多く採用されるようになった頃、ワイドなタイヤを使おうとした車では、キングピンオフセットをネガティブにするということはサスペンションとしては作りにくい方向であったし、そうした設計思想が広く普及していない時代でも、トーインやトーアウトにせずに真っすぐ転がるようにセットする方が、タイヤも長持ちするし、走行抵抗も少ないので良いことは解っていたはずだが、直進時のふらつきや、ブレーキをかけるとトーアウトになろうとする力が働くため、カウンター措置としてトーインをつけることが常識と化したのではないか?(少なくともハンドリング特性はマイルドになって行く) 直進ふらつきと、ブレーキを強くかけるとトーアウトになってしまうという事さえなければ本当は、トーインをつけなくてもキャスタ角だけで十分直進性は確保できるはずなのです。(電動式パワーアシストステアリングがついていることで得られる直進性もあるのではないか?、また私のDJデミオのハンドルのニュートラル位置の遊びの少なさは、トーインによるふらつき防止を必要としていない様にも感じる。) そう考えれば、現在の車ではネガティブオフセットされたキングピン角度を持つのだし、タイヤの寿命や省燃費を考えると、わざわざ普通の状態でトーインをつける必要はないのではないかと思えて来たのだが、如何だろう?実際私はTE47トレノに乗っていた時は曲がり易さを求めて自分でトーインを調節してゼロにセットしていたが何の問題も感じることは無かったのだ。 現在のネガティブオフセットされたフロントジオメトリでは、ブレーキング時にはトーインとなるような応力が働き、たとえトーインをゼロにセットしていても強くブレーキをかけた時、実際は若干トーインになってしまうはずです。 それと、タイロッドエンドがアップライトに取り付く部分のナックルアームの角度を、上から見て進行方向とは平行でなくすることによって、ハンドルを切った時に、イン側のホイールは大きく角度を変え、アウト側のホイールは少し小さく角度を変えるように設計されているのですが、(アッカーマン・ジャントウ式)それによって、内輪差による曲がり易さを作り出して無駄なスリップアングルが付かない様にしますが、つまりそのハンドリング時の動きはトーアウトにして行くことを示します。 トーインセットアップからからトーアウトセットアップへの接近は曲がり易さを増すことになり、ハンドリングをクイックにすると言えるのです。問題はトーインゼロがどの程度ニュートラル位置での直進安定性に影響を与えるかと言うことだけですから、実際やってみる他ないと思います。 今度の整備で私はDJデミオのトーインをゼロに調整してもらって見よう。きっとタイヤの損耗も減り、走行抵抗が減少してわずかながら燃費も良くなるかもしれませんよね、もともとDJデミオのハンドルに遊びは殆ど無いのですから良いのじゃないでしょうか・・・・笑 追記 今後の一般車を考えれば、トーインをあえてつけることは無くなるでしょう。理由は、無駄な抵抗となる要素は排除されることと、ステアリング系の部品の加工精度も高まって、バックラッシが殆ど無いステアリング系を作れるようななり、パワーステアリングの技術を応用すれば直進でのふらつきは無くせるだけでなく、レーンキープ自動制御が多くの車に取り付けられる時代も目前であり、すべての車はネガティブオフセットされたキングピン角度を与えられて、トーアウトを抑制する必要がなくなってしまうためで、ハンドリングの落ち着きと言った味付けも電子制御でドライバーに気づかれない様にサポートするようになると考えられるからです。 そうした時代はもうすぐ目の前であり、これまで黙認されていたタイヤ直径とオフセットの変更などがもたらすキングピンオフセットの変化が、車の安全運用の視点からみれば後退とみなされ、今よりも厳しく制限されるようになるかもしれませんね。 この記事を書くことで、私自身キングピンオフセットを意図せず結果的に変更することになってしまうパーツの使用がもたらすリスクを再考させられる結果となりました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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