4月27日産経新聞正論欄、西尾幹二論文への意見~2
考えてもみてほしい。首相の開口一番の河野談話踏襲は得意の計画発言だったが、国内はだませても、中国サイドはしっかり見ていて安倍くみしやすしと判断し、米議会利用のホンダ決議案へとつながった。安倍氏の誤算である。しかも米国マスコミに火がついての追撃は誤算を超えて、国難ですらある。 おっしゃっていることの意味がよく分りません。安部総理は河野談話の踏襲で誰を騙そうとしたのでしょうか。保守派でしょうか。それとも謝罪賠償請求派でしょうか。中国は安倍氏のどの点をくみしやすしと判断したのでしょう。そしてホンダ決議案との因果関係は。語気荒く断定している割には根拠が薄弱です。 それから、米下院の国際関係委員会が、日本非難の決議を採択したのは、確か昨年の9月13日だったと思います。その当時の首相は確か小泉純一郎氏ですね。安倍総理の誤算を言う前に、「ウルトラ国家主義者安倍晋三」の虚構を撒き散らし、福田総理実現を図り、日米離反を画策した、メディアや左翼の工作という目に見える大きな流れを無視してよいのでしょうか。 最初に首相のなすべきは「日本軍が20万人の女性に性奴隷を強要した事実はない」と明確に、後からつけ入れられる余地のない言葉で宣言し、河野衆議院議長更迭へ動き出すことであった。 安倍総理に誤算があったとすれば、それは日本国内での慰安婦論議が、過去のつくる会を中心とした言論活動も含めて「強制連行があったのか否か」「軍の関与の程度は」といった議論に終始していたのに対して、米国における議論の主軸となっていたのは戦時下における「慰安婦制度」そのものを問題にしていることです。 つまり女衒が介在したとか、親が身売りしたとかいったことはてんで問題ではなく、はじめから「戦争」「兵隊」「売春」「異民族」をリンクして人権問題化しているのであって、「日本軍が20万人の女性に性奴隷を強要した事実はない」という反論は殆ど意味を持ちません。また、一部には総理発言が日本人の慰安婦を黙殺しかねないものと批判する向きもありますが、問題は「慰安婦」そのものなのです。 安倍総理が二十世紀という時代が世界中で人権が抑圧された時代であった背景を述べたことはそうした問いに答えるためのものでした。安倍総理も当然米国占領下におけるGI相手の慰安所についての認識は持っていますが、そのことを首脳会談で公式に発言することは、中国などの日米離反の工作にまんまと乗っかることであり、公式の場での発言は避けたものと理解しています。 さて、河野衆議院議長の更迭ですが、内閣総理大臣には、国会の議長に関する人事権はありません。首相にあるのは解散権だけで、議長人事はあくまでも国会マターです。憲法学の常識だと思いますが。まさか三権分立をご存じないわけではないでしょう。 しかるに「狭義の強制と広義の強制の区別」というような、再び国内向けにしか通じない用語を用い、「米議会で決議がなされても謝罪はしない」などと強がったかと思うと、翌日には「謝罪」の意を表明するなど、オドオド右顧左眄(さべん)する姿勢は国民としては見るに耐えられなかった。 そしてついに訪米前の4月21日に米誌「ニューズウィーク」のインタビューに答えて、首相は河野談話よりむしろはっきり軍の関与を含め日本に強制した責任があった、と後戻りできない謝罪発言まで公言した。「当時の慰安婦の方々に人間として心から同情するし、そういう状態に置かれたことに対し、日本の首相として大変申しわけないと思っている。20世紀は人権が世界各地で侵害された世紀だが、日本にも責任があり、例外ではない。慰安婦として彼女たちが非常に苦しい思いをしたことに責任を感じている」 私はこの安倍総理の発言は、許容できるぎりぎりのものだと思います。苦しい答弁とも言えます。日本国内の保守派の議論にも精一杯配慮し国家としての対面を最低限守ろうとした発言です。 例えば、「遺憾に思う」「私は…謝罪したい」という表現を用いれば明確な謝罪でしょうが、「心から同情する」「状態に置かれたことに対し…申し訳ない」「世界中で行われた人権侵害に対して…日本にも責任の一端がある」という表現は、相当慎重に言葉を選んでいると感じませんか。 ブッシュ大統領が安倍首相の「謝罪を受け入れる」と、謝罪という言葉を引っ張り出し、新聞各紙もこぞって「謝罪」「謝罪」と書いたのはご愛嬌ですが、それこそ安倍総理とブッシュ大統領に「密約」があったとは考えられませんか。安倍総理はぎりぎりの線で発言し、米国はそれを「謝罪」と認識して、これ以上日米首脳間での外交問題の俎上には載せないという密約です。下院での決議は上がるでしょう。しかし米国政府としては日本政府に圧力をかけませんよという「密約」です。こんなことは、外交交渉の場で再三行われてきていることですけれど、真相はわかりません。慰安婦問題は首脳会談で話題にしなかったという話もあります。また、首脳会談後、この問題を質問したのは他ならぬ日本のマスコミだという情報もあり確認中です。 ≪通じない「事なかれ主義」≫ とりあえず頭を下げておけば何とかなるという日本的な事なかれ主義はもう国際社会で通らないことをこの「保守の星」が知らなかったというのだろうか。総理公認であるからには、今後、元慰安婦の賠償訴訟、過去のレイプ・センターの犯人訴追を求める狂気じみた国連のマクドゥーガル報告(1998年8月採択)に対しても反論できなくなっただけでなく、首相退陣後にもとてつもない災難がこの国に降りかかるであろう。 まさに「預言者」西尾幹二の真骨頂ですね。少なくとも、安倍総理は自身の発言がどの程度の反発を持って迎えられるのか、予想される外交的影響について、当然のことながら織り込み済みですよ。 米国は核と拉致で手のひらを返した。6カ国協議は北朝鮮の勝利である。米中もまんざらではない。彼らの次の狙いは日本の永久非核化である。米国への一層の隷属である。経済、司法、教育の米国化は着々と進み、小泉政権以来、加速されている。安倍内閣は皇室を危うくした小泉内閣の直系である。自民党は真の保守政党ではすでにない。私は安倍政権で憲法改正をやってもらいたくない。不安だからである。保守の本当の声を結集できる胆力を持った首相の出現を待つ。(にしお かんじ)(2007/04/27 05:14) 「彼ら」とは一体誰でしょう。米国でしょうか。中国でしょうか。米中双方でしょうか。まさか中国は米国への一層の隷属は望まないでしょう。 経済、司法、教育の米国化については同感です。その国の政治風土や伝統を度外視した単なる制度の移殖では、拒絶反応を起し、結局土台である国家生命が危うくなります。だからこそ制度設計には根本の哲学が必要です。 小泉総理は女系天皇容認を打ち出しましたが、この問題を現在ストップしているのは他ならぬ安倍総理と、側近議員たちです。夫婦別姓も、ジェンダーフリーも、民法改正も、人権擁護法案も、外国人参政権も、みな安倍政権あって踏みとどまっています。山崎、加藤、福田政権だったらどうでしょう。保守は気勢を上げるでしょうが、着々と外堀、内堀と埋められたことでしょうね。 自民党が真の保守政党でないなんてことは、三十年以上も前から分っていた事です。「天皇なんてネクタイだ」と語った国民運動本部長。建国記念の日奉祝式典から「橿原神宮遥拝」「天皇陛下万歳」を削除させた自民党、宮澤談話、河野談話、文芸春秋誌への事前検閲、外務省による教科書検定への介入、中国の国際社会復帰へと天皇を政治利用したご訪中問題、北朝鮮への米支援…。そんな自民党を保守回帰させようとしているのが安倍総理です。 さて、冒頭西尾先生は、山崎、加藤、福田待望論を述べられました。そうすれば保守は結集したと。そして結語は安倍総理への不安を述べた後、「本当の保守の声を結集できる胆力を持った政治家」を熱望しておられますが、はて、胆力を持った政治家とは山崎、加藤、福田氏のことなのでしょうか。 私には、この三氏が憲法改正を実現できるとは思いませんが。いずれにせよ、安倍総理は自身の脆弱な政治基盤を痛感しつつ、退陣後も自民党がかつて歩んだ道へ後退しないようレールを引こうとしていると思いますが。 最後に、こうした文章を「正論」欄に掲載した産経新聞社には一言苦言を呈しておきます。もっとも、産経新聞としては総理訪米中に掲載したことが、せめてもの配慮であったのかもしれませんが、そのことが一層西尾幹二先生を怒らせていることでしょう。まあしかし、この内容では安倍総理は西尾先生を訴えようがありません。