カテゴリ:虚言癖系
子どもの頃、同級生におもちゃ屋さんの娘がいた。小学校3年生くらいの時、家の近所に引っ越してきた転入生で、長い髪の可愛らしい少女だったことと、非常に大きな家に住んでいたことがあいまって、「あの子のうちは、とてもお金持ちらしい」と、あこがれの目で見られていた。
大人になって思い返してみると、その家は間口が広いというだけで(家の前に、小型のトラックなら、6台くらい並んで停車できる駐車場を持っていた)、家自体はみすぼらしかった。「おもちゃ屋」というのも微妙なところで、実際は、おはじきとか、リリアンとか、塗り絵とか、縄跳びとか、そういった、駄菓子屋さんや、文房具屋さんで売るような商品の、問屋さんだか、卸屋さんだったのではないかと思う。要するに、大きな駐車場の幅と同じだけある家の大部分は、倉庫兼仕分けのスペースだったのだ。 そう言えば、大人たちは、彼女の家を「お金持ち」とみなしてはいなかったのだが、次から次へと新しい「おもちゃ」を見せてくれる彼女は、私たち同級生にとっては、転入してきた当初、とんでもない「お嬢様」に見えたものだ。彼女自身、早く友達を作りたかったのだろう。気前よく、雑多な品々を家から持ち出しては、教室で触らせてくれるのだった。 そのうち、「発売前の製品を、人に見せてはいけないことになっている」とか言う理由で、彼女は学校におもちゃを持ってこなくなった。そろそろ転校生の物珍しさも失せた頃だったから、おもちゃも見られないとなると、世間は薄情なもので、彼女は次第に、目立たない存在になっていった。 そんなある日の授業中、彼女は突然すっくと立ち上がり、一瞬、白目を剥いたかと思うと、くたくたと床に倒れた。教室内は大騒ぎだ。担任の若い女の先生はきゃーっと叫んだきり、黒板前で硬直しているし、倒れた彼女の周囲の席の女の子も、きゃーっ、きーっと騒ぎ出すし、男の子たちはぼんやり、きょろきょろするか、わー、とか、おー、とか、無意味にどよめいている。 あれは、夏のことだったのだろうか。彼女のギンガムチェックの、サッカー生地のワンピースと、ワンピースの裾からのぞいている白いレースのペチコート、色黒のか細い足を縁取る、レースの真っ白なソックスが、薄汚れた茶色い床の上で、お花みたいに綺麗だなと感じた記憶がある。 騒ぎを聞きつけた、お隣のベテランおばあさん先生がのっしのっしとやって来て、事態は収束した。その先生は、教室内を見渡すと、若い同僚を一喝しシャキッとさせ、ふらふらと頭を振りながら、身体を起こし始めていたおもちゃ屋の彼女の上にかがみ込んだ。そして、抱きかかえるようにして、保健室へと連れて行ったのだった。 家の人が迎えに来て、彼女はそのまま早退することになった。担任がランドセルに彼女の持ち物を詰め、迎えの人に渡しに行くのを見て、私たちは彼女がもう、二度と戻ってこないのではないか、と噂し合った。中には泣き出す子もいた。子どもにとってはそれほど、ドラマチックな出来事だったのだ。 ~つづいちゃったりして~ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2004年05月29日 19時54分57秒
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