カテゴリ:分類不能系
もう、5年くらい前になると思うが、ウチから一番近いターミナル駅の前に、若いお坊さんがいた。
何色というのだろう、あれは。黄土色にちょっとオレンジを混ぜたような、タイのお坊さんが着ているような色の衣を身につけていて、手には、あれも何て言うのか名前は知らないが、ドンブリみたいなお椀を持って、こんもりと大きな笠をかぶって、うにゅーにゅーと念仏を唱えていた。 朝、出がけに彼を見かけ、夕方帰って来たときも見かけ、夜ちょっと遅くなっても、3度に1度は彼を見かけたから、どうやらそのお坊さんは、ウチの近所の駅前で、一日8時間以上「勤務」しているらしかった。 長いこと、毎日彼を見ていたので、そのお坊さんの姿は、駅の光景と一体化してしまい、そのうち余り注意して見なくなった。ところがある日、そのお坊さんをまじまじと見る機会がやってきた。 その人はかなり長身で、笠の下から一度のぞく顔は若々しく、20代半ばと思われた。姿勢のいい人で、いつもしゃん!と立っているのだが、その日に限って、ジュースの自動販売機にもたれかかるようにしていた。どうしたのか、と通りすがりに見ると、何と笠の下の顔が土気色。脂汗を流しているようだったから、どうも、病気らしかった。 そんなに具合が悪くても、こんなところに立って修行しなくちゃいけないの???? と、仏教に対して憤りを感じた私、気になって振り返ったとき、彼の更なる異変に気がついた。衣も足袋も、ナニもかもがボロボロ…… 最初、そのお坊さんが立ち始めた頃は、装束はすべてぴっかぴかに綺麗だった。その後、あまり気にして見なくなって以来、どうもその衣装は、一度も手入れされたことが無いらしいのだ。黄土色プラスオレンジ系の衣は、裾の方がほつれて、フサ付きカーテンみたいになっているし、真っ白だった足袋は黒っぽくなり、破れて親指などがはみ出していた。 こういうのも修行なのかなぁ、と、その時はそのくらいにしか思わず、その日を境に、ウチの近所の駅前から姿を消してしまった彼のことも、それほど気にせず、そのうち忘れてしまった。 昨年のことだったが、某巨大ターミナル駅の改札を出てしばらく行った広場のようなところで、みょーなものを見てしまった。その駅にも托鉢僧が立っていて、むにゅーむにゅーとやっているのだが、その人の側に、ぼろぼろのふろ〜な方が立っており、二人で楽しそうに談笑しているのだ。 えええ? その後、知ったのだが、お坊さんの衣装を借りるか買うかして、托鉢僧に扮装。それでもって喜捨を貰うふろ〜な方もいるらしい。コスプレ系ふろ〜である。それで納得がいった。ウチの近所のあの若い坊さんも、あれは駆け出しのふろ〜だったのだ。だから衣装が、どんどんボロくなってしまったのだ。 そうしてみると、あのように苦しそうにしていた彼には、帰る場所がなかったのだ。お寺に帰れば、看病してもらえるんだから、と、大して気にも留めていなかったが、その後、どうなったのだろうか。 と、ちょっと心配していたが、先日、奇遇にもまた彼に出会った。衣を新調して、ウチの駅に帰ってきたのだ。今度は黒っぽい袈裟を来ており、あれだったらこれからのシーズン、寒くもないし、汚れも目立たない。彼も黄土色系は、汚れが目立つと学習したのだろう(って違うよ)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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