カテゴリ:オタク系
お気に入りのスパゲッティ専門店がある。値段はそれほど安くないけど、お味はなかなかのものだし、一人で行っても気兼ねなく座れる大テーブルがあるのが、私としては非常にありがたい。
今日も大テーブルの隅っこに座って、シーフード系スパゲッティを食べていると、私の正面に中年のサラリーマン男性がやって来て座った。正面と言ってもテーブルが大きいから、圧迫感がないのがこの店の良いところだ。 やがて、その男性の所にもトマトソース系の(そのくらいは見える距離なの)スパゲッティがやってきた。するとその男性は、ネクタイをワイシャツのボタンとボタンの穴に丁寧に挿入した。なるほど、ネクタイが汚れないようにね。でも、ワイシャツに赤い点々が飛ぶ方が、目立つと思うんだけど、と思ったら、男性はやおら、ながっぽそい布を、アタッシェケースから取り出した。 その布を、ワイシャツの襟元に差し込む。だったら、ネクタイの折り込みは、必要なかったんじゃ、と思いつつ、その布を見て仰天。日本手ぬぐいである。今どき、日本手ぬぐいを持ち歩いているのか、この人は。それもスパゲッティを食べるために? 更に更に、その手ぬぐいのガラがすごい。カッパである。あの、アタマの皿に水が入ってるヤツ。しかもカッパが茄子と戯れている図だ。カッパはキュウリじゃなかったっけ??? というどうでも良いような疑問を抱くところが、私のちょっと変質的な所であるが、カッパと茄子の手ぬぐいを襟元に丁寧に差し込み、お腹のところまでひらっと広げたその男性が次にしたことは、粉チーズのビンを手に取ることだった。 そのスパゲッティ屋は、自分チのスパゲッティに非常に自信を持っているらしく、通常、粉チーズは提供していない。粉チーズが必要なスパゲッティは、最も美味しい量をすでにかけて出しているし、粉チーズなしで味わって貰いたいスパゲッティもあるから、ということだった。 が、サービス業である。粉チーズいっぱい、が好きなお客もいる。と言うわけで、「粉チーズ」と請求すると、うやうやしくチーズのビンを持ってきてくれるのである。それも、普通のレストランでテーブルに置いてあるような、スーパーでも買える市販の粉チーズではなく、クリスタルのビンに入れた、自家製のかなり上等のチーズを。 上等のチーズであるから、ビンの穴は極めて小さい。ちょっと頭のおかしいバーテンダーみたいに、ガンガンガンガンシェイクしても、皿の上にはぽっちりしかチーズが出てこない。そんな穴である。 私も大のチーズ好きなので、いつもその店では粉チーズを請求するが、狂ったようにビンを振り回すのが躊躇われて、少々のチーズで我慢しているのである。が、その男性、やおらビンのフタを取った。そして「どばっ」と音が聞こえるような勢いで、粉チーズの約半分を皿に注いだ。 うわっ 気の小さい私は、それを目撃しただけで動転してしまった。ふ、ふたが……こ、こなちーずがは、はんぶん…… しかも良く見ると、その人は粉チーズを一箇所に山盛りにしている。盛り塩の要領である。ふつう、まんべんなくスパゲッティ全体にかけないか??? あっけにとられた私は、そのおじさんがスパゲッティを食べる様子を盗み見していたのだが、彼はフォークにスパゲッティをまきまきっとすると、それを盛りチーズの所に移動させる。そして、表面と裏面をチーズに押しつけ、おもむろに口に運ぶ、ということを繰り返していた。つまり、スパゲッティへのチーズの付け方は、カツにパン粉をつける方法に準ずる、というような感じである。 おじさんのスパゲッティはトマトソース系だから、非常に粘着質。粉チーズの衣も大層良くくっついており、盛りチーズの山は見る見る小さくなっていった。 もしかしたら、再度粉チーズのビンのフタをあけ、残り全部を皿の上に盛るのかもしれない…… と思った途端、ヘンに気の小さい私は、おじさんの前に座っているのが苦痛になり、早々に退散したのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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