カテゴリ:非常識系
友達、と言うほどの仲ではないが、知人と呼ぶには抵抗がある程度の、親しい付き合いをしている女性がいる。その人は明るくて、気配り抜群の常識派だ。
ある時、彼女ともう一人別の知人と、とある盛り場で待ち合わせをした。待ち合わせ場所に行くと、几帳面な彼女は、病的に早く到着する癖のある私よりも、更に早く現場に到着していた。 「うわー、待たせちゃったみたいでごめん~」と言うと、彼女はにこやかに微笑んで、「ううん、友達と遊んでたから早く来ちゃっただけ」と言った。友達、と言ったときに、ちょっと振り返るような様子をしたので、彼女の背後を見ると、なんだかうすぐら~い感じのオンナが、そっぽを向いて立っていた。 これがその「友達」だろうか? そのオンナが何の返事もしないので、知人と私の間にもみょ~な沈黙が流れた。が、そこは気配りのヒトである。彼女は、背後でムスッとしているオンナを、高校時代からの友人だと紹介してくれた。「あ、どうもこんにちは」と言う私の方を、しかし、そのオンナは見ようともしない。会釈と取れないこともない、軽い頭頂部の運動のようなものが見られたが、それっきりである。 もう一人の知人は、ちょっと遅れるゴメン、という電話がさっき入ったところだ、と彼女は言った。それから、待ち合わせ場所に来るまで、ムスッとした友人とショッピングを楽しんでいたことを話してくれた。「○○でバーゲンやってたの。ほら、見て。かわいいでしょ!」と、彼女はインテリア小物などを袋から引っ張り出して見せてくれる。そして「ね、××ちゃんも、おそろいで買ったのよね」と友人を振り返った。 盛り場のど真ん中で、きれいに包装された買い物を、開いて見せたくなど、たぶん、なかったと思う。あえてそうしたのは、仏頂面の友人を会話に誘い込むためと、にぎやかにおしゃべりすることで、その友人の異常さを、私の目から隠そうと試みていたのではないだろうか。 が、彼女の努力を無視して、そのオンナは相変わらずそっぽを向いている。その割に、その場を立ち去ろうとしないのだ。その日はちょっとしたパーティのようなものに出席する予定だったので、もしかしてこの仏頂面もついて来るのかも。と、ちょっとウンザリした時、そのオンナが言った。「帰る」 そして私の方を振り返りもせず、猛然とダッシュして走り去ってしまった。陸上選手のような良い走りっぷりだったが、休日の午後早いうちの盛り場での、ヒールでのダッシュは異様だった。 「なに、あれ?」と、しかし、私は言えなかった。気配りの知人が、何ごとも無かったかのように、まったく別の話を始めた様子に、訊かれたくないという気持ちがありありと出ていたから。 そのとき私は、そのオンナがひどく非常識な人間なのだろうと判断したのだが、遅れてきた知人に後日聞いたところ、どうやら精神が不安定な人らしかった。もともと、あまり明るい方ではなく、交友関係も狭かったが、精神を病んでから、友達は気配りの知人だけになってしまったのだそうだ。 私に対する敵意にも似た不機嫌な態度は、もしかしたら嫉妬だったのかもしれない。自分にとってはたった一人の友人には、その人なりの幅広い交友関係がある。その事実を象徴していたのが、私の存在だったかもしれない。それが、彼女の精神状態をより不安定にしたのかも…… いずれにせよ、その場にいるのに、まるで見えていないかのように振る舞われるというのは、相手が精神を病んでいようがいまいが、非常に不愉快な体験であることは確か。と言うわけで、心の狭い私は、その人の病気に同情を寄せる気には、ぜーんぜんなれないのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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