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元・経営コンサルタントの投資日記

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2008/06/04
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カテゴリ:M&A
 
BCE_ANG_130_072_RGB.gif

今回はカナダの事例。けど英語が難しく、簡単に。また生兵法怪我の下にならないようにしたいと思いますが、素人の疑問という感じで。

カナダのケベック高裁?は5月22日、昨年夏に合意した、カナダオンタリオ州教員年金基金や米投資ファンドのプロビデンス・エクイティ・パートナー、マディソン・ディアボーン・パートナーズなどと共同でBCE(Bell Canada Enterprises:カナダ最大の通信会社ベルカナダが中核会社)を米ドルベース約530億ドル(1ドル104円で5.5兆円!買収総額ベース)となる、史上最高のバイアウト案件(LBO)の成立を却下したと報じられた。

BCEは最高裁に控訴を予定し、6月17日に最高裁がヒアリングを行う予定されています(Canada's top court to hear BCE appealとロイターは表現)。

これはBCEの取締役会が07年6月末、買収案に同意し、9月には株主も承認した後の出来事であり、なぜ裁判所でひっくり返されるのか、という点が特に米国系のWeb新聞では話題となっている(ブルームバーグNYTなど)。

 

そもそも、この買収合意に不満を抱いたのは、「ステークホルダー」の一角である債権者です。

BCEは大企業であり、資金調達は社債等資本市場からの調達が主となっているらしい。そこにさらに、LBOを組む際のレバレッジ(借入金)が巨額となることが判明し、既存発行済み社債の格付けが下落し、価値が下落してしまった。

スタンダード・アンド・プアーズは「BBB」から「BB+」とし、ムーディーズもBaa3として、「投資適格」よりワンランク下の格付けとした。これらの格付けは投機的要素を一部含むとされています。したがって、BCE債権者の持つ債権の価値が下落してしまったことが債権者の糾弾の本となった。

BCEの債権保有者は今回のLBOが自分たちの利益を考慮していないため、売却企業の取締役会は債権者の利益も考慮しなければならないとして訴訟を起こしたようだ。

高裁では、今回のディールが「すべての利害関係者に対して公平で妥当ではない」という判決となった模様です(the plan of arrangement is not fair and not reasonable)。

このディールによる借入金(デット)の増大はデフォルトの危険性があると(投資適格と比較し、現在の格付けはジャンクボンド並みであり、18倍もデフォルト確率が高くなるという)。

しかも、債権者の権利は信託契約書に定められており、これには債務者と債権者の間で合意された融資条件(コベナンツ)が記されているという(詳細は不明)。

 

米国では「ボードメンバーは株主の価値の極大化を図ることが第一の義務だ」という米国的概念が隣国カナダで通用しないのかということで話題となっているようです。基本的に高い株価で買収するということは高いレバレッジを利かせる必要性が生じます。

ケベック高裁の判決を受けて、BCEの株価は急落し、債権価格は急騰した模様。

さらに本件のデットプロバイダー(資金供給者)であるCitiグループやドイツ銀行はファイナンス条件の見直しに入ったといわれています。特にCitグループはクリアチャネルコミュニケーションズというラジオ局がファンドにバイアウトされる案件に違約金を払ってファイナンスコミットメントをキャンセルしたいきさつがあります。

本件はBCEの株を1株C$42.75で合意されていますが、株価を引き下げれば借入金調達額も少なくなって案件が前に進むようですが、そうすれば今度は既存株主から訴えかねられません

米国においてもLBOにした後、実際デフォルトしてしまった事例が数多くあります(裁判で差止めがあったわけではなく、バイアウトした後で業況変化などにより、あえなくデフォルトとなったという感じ)。この前もカーライルの出資した金融会社がサブプライムのあおりを受けてデフォルトしました。

米国では株主持分のリターンへのプレッシャーが厳しく、どうしてもレバレッジを多くする傾向があるため、債務者の期限の利益に対するハードルも高くなる傾向が強いそうです(日本よりメザニンとかシニアとかシニアでも担保あり・なしとか条件の違う借り入れをより多層化したりする)。言い換えれば様々なリスクのとり手がいることにもなりますが、ふつうの事業会社でもデフォルトやチャプターイレブン(会社更生と民事再生の間ぐらいの経営破たん)に追い込みやすくなっています。

 

日本でも仮にこういった会社をLBOする際に経営者は株価のみならず債権価格も考慮しなければならないのでしょうか??? 「著しく企業価値を損ねる」 などという曖昧な言い回しがありますが、仮にこの言葉が適用されると、下落した社債価値を含めたデットと株価プレミアムの足し算を企業価値として毀損を比較するのかな?

念のためにポッカコーポレーションやワールドを調べましたが、ポッカは非公開後銀行借り入れだけのようで、ワールドには多少社債が残っていますが、償還が進んでいるようですし、論点だった記憶もありません。

会社側の判断の機軸が複雑だと取締役の責任が増加して大変だなあ(もっとも実際のディールでも「価格以外の面も考慮した総合的判断」ということで結論出したりすることありますが、価格が最重要ファクターであるのは間違いありませんし)。

例えば会社側は単なる「格付け」であって(すなわちデフォルトは単に可能性の問題であって)、この計画を推進すれば十分返済可能だ、と主張すれば、それをそれ以上その時点で疑うのはなかなか難しそうな気がしないでもありません。

サブプライムの時も格付け各社は「満期保有を前提とした格付け」であり、債権の評価とはまた違うといったコメントで言い逃れしていましたし、社債のコベナンツ次第かもしれませんが、格付けがどこまで水戸黄門の印籠の役割を果たすのか、という点でカナダ最高裁がどういった判断を下すのか今後も見ていきたいと思います。

 

とはいえ

5兆円を超える史上最大のLBO案件なのですが、この案件から得られる教訓は、借入限度額が50万円程度の消費者金融のポケットティッシュに記載されていることと同じぐらい基本的なことでしょうか。

「借り入れは計画的に!」。






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Last updated  2008/06/04 01:21:11 AM
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