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テーマ:株式投資日記(20516)
カテゴリ:M&A
ご参考(これまでの経緯)
カナダ、オタワ6月20日現地時間、カナダ最高裁はBCE(Bell Canada Enterprises)の控訴を満場一致により支持する声明を発表したと報道された。詳しい判決文は後日発表されるらしく、判決にいたるロジックは現時点では不明です。 (先に結論だけ言い渡して、理由は後日発表というのはあちらの制度なのでしょうか。当該バイアウトの契約期限が6月30日なので、その契約に配慮したということでしょうか。とりあえず、当事者間は話が進みそうです) 事実だけ簡単におさらいしますと(ロイターのこの記事がわかりやすい) BCE;カナダ最大に通信会社で54千人の従業員を擁します。昨年7月にカナダのオンタリオ州教員年金基金および米国のプライベートエクイティファンドが中心となり1株C$42.75でバイアウト(非公開化)を提案し、取締役会、株主の承認を得た。カナダの制度では株主と裁判所の両方の承認が必要とのことでした。 ケベック州の下級裁判所では、このディールが否認されました。債権保有者の利害を考慮に入れていないという理由でした(バイアウトによる債務増加で社債格付けが下落し、社債価値が18%下落している)。会社側はこれを不服とし、最高裁へ上告しました。 争点は、BCEの取締役会は買収の際、その忠実義務が株主のみか社債保有者又は他のステークホルダーにも及ぶのかという点でした。 会社側は株主以外の利害関係者を考慮に入れることは、相容れない利益相反を引き起こす;原文「in a position of irreconcilable conflict」と反論しました。 特に、カナダでは2004年に最高裁はPeoples Department Stores VS Wiseのケースで、「boards of directors have a duty to what is the best interest of the corporation which isn't the same as what's is the best interest of shareholders.」(取締役は企業の最大限の利益に従う義務があり、それは株主の利益の極大化と同意義ではない)という判例があったからでした。 BCE側は、Peoples Departmentのケースは破綻企業の買収ケースであり、BCEは正常企業でありその範囲が及ばないと主張していました。 社債権者は公式にはノーコメントとのことですが、今後は流通性のある社債においても「チェンジ・オブ・コントロール」(経営者や経営支配者が変更になると無効・取り消し等になる契約条項)を入れるべきだ、など自らの権利の保護に対する主張が強まることが予想され、強いては企業の資金調達コストに影響を及ぼす可能性も出てきましょう。
私が読んで興味深いのは、売却企業の取締役の義務が 「the long-interest of the company」 「the best interest of the company」 「the best interest of shareholders」 の3通りで表現されており、最終的には、「the best interest of shareholders」で落ち着いたのですが、6月17日に最高裁はBCEからヒアリングをし、裁判官は、現取締役は多額の負債を背負って再出発する会社から、「売り逃げ」 になってしまわないかに関心があるような質問をしていました(非公開化以後、経営陣が総入れ替えされる場合、新会社の運営には責任がなくなるから)。 本件バイアウトプランでは、現CEOは更迭されるのですが、後任CEOには競合他社からスカウトし、現在のBCEの電話事業部門の最高執行役のコープ氏を据えることになっており、一応経営、運営の継続性が見れると判断した可能性があります(私見です)。
これで、株主側の「勝利」となり、一件落着の様に思えますが、昨年のディール合意以降、サブプライム問題の勃発という事態の急変で、銀行団の融資余力が心配されています(融資実行されてもスプレッドなどの条件変更も心配)。 FTによると、銀行団は現時点では当初の合意に沿ってディールが終了することを期待していると報道されていますが、NYTでは懐疑的な見通しを述べています。 さらに、BCEはカナダの競合他社(特に携帯部門)は競争力がないため、積極的な設備投資やマーケティングが必要であり、キャッシュフローを借金返済ばかりに使用していてよいのか、といった感じです。一方、ディールが破談になると、オンタリオ州教育年金が被害をこうむる(既に高い株価で7%近くBCEの株を保有)とし、いずれにせよ難しい選択だといわれています。
BCE側が非公開化に踏み切るために、何を最優先するのか、株主だけを優先してもいいのか、しかし、他の者の利益も考慮に入れると利益相反になるというのは納得感がある(日本では利益相反とう概念そのものがあまり議論されず、曖昧だと思う)し、結局は新経営陣が一番厳しい舵取りを任されることは間違いないはずです(しかし、彼らにはものすごいインセンティブがかけられているのだとおもう)。 06年以降の強気のバイアウト案件の数々は、あと2から3年後でその巧拙の結果が出てくるとおもいますので、現状は見守るほかないかもしれません。 しかし、失敗した例は結構強調される。米国の半導体メーカー、フリースケール(自動車用に強い)はフランスのファンドに買収されましたが、買収後に就任したCEOが業績不振を理由に退任しました。情報筋によると短期的な利益を追求するファンドと長期的な競争力のために研究開発費をふんだんに使いたい会社側との意見が合わなかったことが主因であるといわれ、「ほれ見たことか」という論調が見られます。 一方、成功した案件というのはそれほど紹介されない(又は存在しない?。 試合にも勝負にも勝つにはバイアウト後の経営成績によるのでしょうか。
日経新聞では本件はほとんど取り上げられませんでした。企業支配を考える上で参考になるとおもったのですが・・・。 それどころかTCI VS CSXの件で、TCIの属性批判をにおわす側面だけが取り上げられ、何が具体的な争点かや問題の背景には触れられず、恣意性を感じてしまいました(こういう結論を読ませたいのか読みたいと世間が感じているのか)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008/06/22 05:46:11 PM
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