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カテゴリ:M&A
「リーマンショック」から1週間経過した。早くも米国本土のリーマンブラザーズの投資銀行部門他の主要部門を英銀バークレイズが買収する許可を米国連邦破産裁判所が承認したと発表された。17日に買収合意して、20日に裁判所が許可を出すのは異例の早さとのこと。 バークレイズは続いてロンドンの欧州部門の買収にも色気を出していると言う(欧州部門には野村證券も名乗り出ている模様)。そして、リーマンのニューヨーク、ロンドンに次ぐ世界3位の規模を誇り、あの六本木ヒルズに入居する日本法人のスポンサー選定もスタートした。 その日本法人のスポンサー候補には三菱UFJや三井住友グループが名乗り挙げているという(両行とも現状否定している)。 公的資金か債務免除があれば、こんなおいしい買い物はない、ということだろう。言い換えればそれだけリスクある買収「だった」と言うことにもなる。
ポイントは英銀バークレイズ。同銀が「手を引いた」から今回のショックが起こった直接の原因だったのが、「手のひら返し」のように名乗りを上げ、米国では裁判所が即許可を出した、では債権者はたまったものではない。「手を引く前」に想定していた買収価格ぐらいは出してもらわないと、「火事場泥棒」に見えてしまう。 一応、破たん前も熱心に興味を示していたが価格が折り合わなかったので「手を引いた」のでしょう。
ちなみに破綻した企業の売買許可を裁判所が出す、というロジックは、日本の場合は法的整理になる摘要要件に資金繰りと実質的あるいは表面的な債務超過である、と言うのがあり、債務超過ならば株主はその権利を失権しているはずだという前提に基づくもの(注:ただし、現実の上場企業は1期程度債務超過でも上場廃止にならないので、上場ルールと裁判所の解釈とダブルスタンダードになっている点が問題視されることもある)。
そしてもう一つのポイントは三井住友G。同Gはつい先日、話題のバークレイズに1060億円の増資に応じたばかり。そのときの資本提携の前提はバークレイズの持つ、アフリカ、アジア基盤への参加であったはずだ。しかしながら、日本のリーマンを三井住友が買収することにより、米国の(もっと言えば欧州の)リーマンの母体と連携できればぐっとバリューが上がる。 三井住友Gにとっても、投資銀行の強化は銀証(銀行と証券)の一体化という大義名分が成り立つし(私は銀証分離論者だが)、なんと言っても(バークレイズへの)投資効果がすぐに発揮できて自慢できる(みずほCBのメリルへの投資との違いが浮き彫りで商売上手を印象付けれる)。 三井住友Gには大和証券SMBCという合弁企業があるが、これとあわせるとメガバンクでの証券業務はダントツになる可能性もある。 リーマン日本法人にも本国米国のスポンサーとの近い地位にあることをアピールできれば強力な武器になる。非常においしい位置にいる。
「火星人と地球人」にたとえた三菱UFJも可能性があるようだ。MUFG内の投資銀行部門のトップは確かモルガンスタンレーからヘッドハントしたと聞いており、それ以降、「外資並み」の投資銀行部門を育成中とか。グループ内に既に火星人がいたことになるが、それでも買収に踏み切るとちょっと衝撃的だ(先日、旧東京銀行の子会社だったユニオンバンのTOBを発表したばかり)。
あまりにも早い破たん処理だと(どうせ投資銀行の資産は人材で、彼らの健在なうちに決めないと事業劣化が生じる、という大義名分で通すのだろう)、債権者はなんなのだ、とも思う(この場合のスキームはスポンサーのほしいところだけ事業譲渡して、残りは特別清算にでもするのだろう。スポンサーが払った金額だけを債権者に弁済することになる。債権者は普通の場合以上に泣き寝入り)。
ある日本の上場したブティックのM&Aアドバイザー企業の幹部いわく「敵対的買収が来たら、『辞任する』と言えばそれでいいんだ。どうせ人次第だから、この商売は」。 それにしても、自らの資本勘定もやっと一息ついたばかりのバークレイズ銀、このドタバタ劇の中よく拾いにいったなあ。ABNアムロ銀買収失敗が利いているのかなあ。
一方のHSBC。こちらは9月のリーマンショックのさなか、18日韓国外換銀の買収を撤回した、と発表した。あまり詳しく知らないが、韓国外換銀は韓国版東京銀行のような銀行。 この銀行の買収は、株主があのローンスターである。昨年9月からHSBCとローンスターで合意になり、次にHSBCが韓国の当局に買収許可をもらうのに半年程度かかり、その後、ローンスターが合意後と経済情勢が違うということで価格の吊り上げがあった。 そして今回の騒ぎの中、HSBCは買収当初と資産状況が大きく異なる可能性があるため買収を撤回してしまった。 HSBCはその「物言う株主」ナイトビンケから、アジア地域への経営資源の集中と米国個人金融からの撤退をしつこく訴えられている。韓国外換銀の買収はその戦略に沿っている。リーマンの危機やメリルリンチの危機の際もスポンサー候補に名が挙がっていたが、決して前に出ることはなかった。
ナイトビンケはHSBCの上位株主40位のうちの3/4程度の理解を得ていると言うこともあり、HSBCの経営判断も慎重になっているのだろう。でも、これまでの怒涛のM&A戦略からすればやや意外な判断だ。 英銀1位のHSBCと同3位のバークレイズ(2位はRBS、ロイヤルバンクオブスコットランド、現在サブプライム病気療養中)の選択は違ったものとなった。
と同時にモルガンスタンレーまでも流動性確保のための商業銀行合併(ワコビアと。ただし、この場合格の違いから言って、「モルスタを救済合併」と言うにはなかなか感じられない)に走る米国証券業界。 10年ちょっと前、「ウインブルドン現象」というたとえがあり、英国で金融自由化を敢行した結果、自国の金融機関はほとんど存在感がなく、米国勢に圧倒されたが、金融センターの座を維持し続けたロンドンをテニスの全英オープンをたとえて皮肉っていた。 しかし、それから今、シティ、メリル、リーマン、そしてモルスタまでもが瀕死の重症状態で、HSBCやバークレイズと言った英国勢が息を吹き返している(もっとも英国勢も無傷ではなく、結構痛んでいるが)。 金融版イングリッシュインベンション(ロック界ではありましたね)が到来するのでしょうか?
なお、蛇足ながら、サブプライム不良債権の買取に際し、日本の茂木金融相は日本の不良債権処理の経験を生かして、要請があれば喜んで米国政府に協力すると述べ、特に公的資本の注入についての知見を生かしたいとのことだ。 正直、何で日本に何もしてくれなかった(強いて言えばハゲタカをつれてきただけの)米国の金融不況に協力してやらんといけないのだ、と思いつつ、自民党総裁候補者がアホみたいに「総合経済対策」といっているのを聞き、米国金融不況に協力する以上の「総合経済対策」も存在しないのでは? とも思う複雑な心境。
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