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テーマ:株式投資日記(20511)
カテゴリ:M&A
英国の銀行に公的資金が入りますね。しかし今日の話題は日本のこれ。 昨年後半から言われていた投資ファンドによる大東建託の買収は大きく後退した。日経産業新聞には「ユニゾンなど投資家連合、全株取得を断念、大東建託、非公開化困難に」と6日付で報道されている。 ロイターでも3日に「経済環境の劇的な変化により現時点では困難」と報道された。
話の原点は創業者である多田勝美会長が保有する同社株式約30%(資産管理会社持分を含む)を事業引退とともに売却するということが発端。誰が買うのか、という点でゴールドマンサックス、モルガンスタンレー&リーマンブラザーズ、森トラスト&ユニゾンキャピタル&エートスキャピタル&オリックス他数社連合(以下ファンド連合と称す)が入札。ファンド連合が「経営陣の賛同を前提に全株取得できれば1株7,500円で買う」と最高額を提示した。この時点で時価総額は何と9,300億円! これが07年12月のこと。この後、案件は迷走する。この入札はファンド連合と多田氏の間で行われ、ファンド連合は会社を抜きにオーナーに対して直接全株取得条件の提案を行った。 しかし、大東建託の経営陣(多田氏を除く)はファンドによる非公開化に難色を示す。いわく、「東証一部上場企業」の箔が営業上大きな武器だから、というもの。そうこうしているうちに、べアースターンズ破綻など金融情勢が大きく変化したため、ファンド連合は買収価格を1株6,200円に引き下げたと言われている。 4月には一応経営陣は「資本政策を検討中」というコメントを発表し、「やるのか」という向きになった。 5月25日の日経ヴェリタスには、中村直人弁護士のコメントとして、主旨は非公開化をやる気もないのに、思わせぶりなコメントを残し続けると、風説の流布や相場操縦扱いされるリスクがある、と警告していた。 背景にはオーナーである会長から、真剣に考えないとクビにする(次の総会までに過半数を買い占めて役員全員を解任すると迫ったそうだ)という「モノ言う株主ぶり」で迫られており、本意ではないファンドへの株式売却の検討だったということがあったのだろう。 最終的に株価は7000円前後に落ち着いて提案されたと言われている。
しかし、その後LBOファイナンスを検討する銀行が相次いで離脱、ついに今日に至ってしまった。結局はMBO・非公開化・ファンドによる買収も銀行次第だったという結論。
以下は勝手な推測です。勝率が芳しくない私のブログなので、気休め程度に。
まずは、案件のストラクチャー。ロイターによると、ファンド連合が1400億円のエクイティに対し、6000億円のブリッジローンと2000億円の長期借入金で買収する、会社は本社ビルや手元現預金などでブリッジローンの一部を返済する、という構図になっている。 こんな感じだろう(実際はこんな単純ではないだろう。メザニンとかもあったのではないか。これだとファンドは1400億円を数社で出資することになります。以下金額単位は億円)。 ただし、株式購入に9300億円というのは1株7500円の水準なので、仮に7000円だったなら、株式購入費は8700億円程度で、その分ブリッジローンが600億円少なくなる算段である。 ブリッジローンというのは、つなぎ融資なのでしょうが、株式購入のための一時立替金のようなイメージです。 一方大東建託は 有価証券報告書から簡易的に抽出するとこんな感じ。無借金経営で利益率が高く(営業利益率10%以上ですね)、CFも安定的でファンド好みの会社といえる。 仮に非公開化するとなれば、SPCと大東建託が合併する。するとSPCの8000億円にも上る借入金は大東建託の債務となる。これが会社資産を担保とするLBOの基本的な構図。 合併後Day1はこんな感じ(少し自信がないが)。 (本社を1600億円に評価替え。理由は後述します。) しかしながら、CF(EBITDA)はざっくり700億円で8000億円の償還はどう考えても無理がある(EBITDAの11倍! LBOファイナンスは5~6倍程度が一般的と言われており、5倍とすれば借入金の上限が3500億円(6倍なら4200億円)であり、その場合ブリッジローンを4500億円合併時点か、合併後可及的速やかに返済する必要に迫られる。
ではどうやって返済するかとなると、上記BSでお気づきの通り、現預金の取り崩し、有価証券売却、本社売却となろう(え?これって「会社を食い物にしている」のかって議論は今回は字数の関係上やりませんが、換金性の高い余剰資産を持っていると同じことが言えると思います)。
仮に現預金から500億円、有価証券1000億円、本社を約1600億円(品川イーストワンタワー、レンタブル面積25千坪(延べ床35,875坪の7割)、家賃月坪40千円、空室率5%、経費率35%、キャップレート4.5%で計試算。本来はエンジニアリングDDをやってDCFで評価すると思う)、それと1年間の営業CFを約500億円蓄積できると最大限3600億円はねん出できる。株価が7000円、CF倍率が5~6の間の攻防だったのかもしれない。 (Bはブリッジローンの略、CFはEBITDAを指す) 銀行の与信姿勢を信号色で表しています。CF倍率が5倍を超えるというのは昨今の金融環境を考えれば結構きつそう。
ロイターによると、本社売却が進まず、結果的に資産売却後のCF倍率が高くなるためみずほCBが融資団から下りて、ジ・エンドとなったという感じ。
経営陣の意思決定がずれ込んだため、サブプライム大ショックのあおりを受け、本社や有価証券の時価が大きく下がり(3600億円もねん出できなかったといことだろうか)、決着付けられなかったということになってしまう。 会社側のアドバイザーであるGCAは「フェアバリュー」が7000円前後であるとアドバイスしていたらしく、もし、6200円で経営陣がファンド連合の買収提案に賛同表明を出すと「善管注意義務違反」となってしまいかねない。 しかし過去の株価推移をみると6200円でも十分だったかもしれない(純利益400億円の15倍(PER15倍)で6000億円ですからね。これにコントロールプレミアム30%を加えても7800億円ですから)。 MBO・非公開化に対する世間の目が厳しくなったということなのでしょうか。GCAの評価方法もそういった「目」を気にしていたのかもしれない(ワールドは非公開化後すぐ業績改善した などがあったし)。
ファンドによる日本最大の非公開化案件は、経営陣の意思決定のスピードの遅さが命取りとなってしまった(と思う)。これは結果論かもしれないが、中村弁護士の言うように、仮にオーナーが経営陣を提訴したらどうなるのだろう(昨年12月に提案されて、4月ごろまでにTOB仕掛ければ、有価証券も本社も想定価格で売れたかもしれない)。
安定的な財務体質とCFを見込んだ典型的なレバレッジド・バイ・アウトは不安定な金融事情の前にあえなくついえてしまった(本社売却も結局はローンがつかなかったのでは?最近の不動産ファンドバブル崩壊の波に呑まれた)。 この場合、仮に成功していたら・・・。ファンド側は1400億円の出資で、9300億円の企業を買収したことになり、文字通り借金という「テコ」の原理を働かせることに成功する。 買収後は、1400億円の出資に400億円の当期利益+34億円の減価償却費というリターンを得る(正確には金利がかかるのでもう少し減りますが)とする。ざっくり400億円とすれば、400/1400=28.6%になる。仮に5年間投資した場合、2000億円の利益が蓄積され、投資額の倍以上になる。しかしすべては机上の計算に終わった。 すべては推測です(勝率は高くない推測)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008/10/09 12:11:23 AM
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