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カテゴリ:M&A
(出所:ブルームバーグの記事より) 11月7日に両社から発表されたプレスリリース「パナソニック株式会社および三洋電機株式会社の資本・業務提携に関する協議開始のお知らせ」 これによると、パナソニックは三洋電機と「子会社化を前提とする資本・業務提携の成立に向けた精力的な協議」を行うことが大きな目的であり、M&Aで言うと、「基本合意の成立」ということである。しかしながら冒頭の写真のとおり、ほぼ決まったかのようなツーショットで、記者会見の席上にはお花まであって、本当に結婚式のように見えた。
両社のM&Aには素人でも明らかなシナジーが一杯転がっている。 白物家電が得意なパナソニックと苦手な三洋電機。二次電池、太陽電池の得意な三洋電機と後追いのパナソニック。 両社を組み合わせれば、開発コスト、製造コストなど大きく削減できるとともに、三洋電機のもつ技術をパナソニックの販売網に乗せるというクロスセリングも可能(例えば三洋の太陽電池を旧松下電工の持つ住設部門で拡販するとか)など、いくらでも考えられる。
それだけに、なぜ、と思うのが、「HOW MUCH?」が全く触れられていなかった。これだけの「シナジー」が見込めるのだから、結構いい値段が出せるんじゃないか? と思っても仕方がない。しかし、昨年売却に失敗した赤字の半導体子会社などコーポレートガバナンス(創業家の影響)に起因する「負の遺産」も多い。
クレディスイスのアナリストは、総額8620億円で、そのうち70%が優先株を普通株転換した場合の金融3社(三井住友銀、大和証券SMBC、ゴールドマンサックス証券)の取り分で、残りの評価を株価に換算すれば140円だと言っている。 これはNYT、ブルームバーグ、ロイターの3つの英文報道で見た記事で、8日の注意深い日経新聞には記載がなかった。 一応、日興シティグループのアナリストレポートでは、三洋の時価総額に20~30%のプレミアムが乗せられ、これが100%買収の場合の評価で、後はパナがどれだけ今現在支配権を得たいかで決まる、とし、上記8620億円の可能性は低いと考えている。 ちなみに10月末時点の時価総額は2600億円程度であり、仮に30%プレミアムの場合では3380億円ということになる。 8620億円とは報道が起こる前の株価(約140~145円)を金融3社が保有する優先株を普通株に転換し、転換後の発行済み株式総数で掛け合わせると8620億円近い金額になると言うもの。普通株に転換後は金融3社は三洋の70%の普通株の保有者になる条件があらかじめ設定してあったというもの。 つまり、日興側は今の市場は優先株の希薄化効果を織り込んでおり、全て合わせて3380億円相当と言っているのに対し、クレディスイスの計算だと、市場株価とは別に優先株が存在し、それを今の株価で計算して価値を出すべきと言うもの。
なんと今の株価をどう読むかで、株式価値が3000億円から9000億円と3倍も違うことになる。
企業価値の原則から言えば、株数に関係なく、企業価値=時価総額+負債+-ネット現金であらわされるべきであり、日興側に分がありそう(所詮、企業の利益の何倍をその企業の価値とみなすのか、ということであり、三洋の稼ぐ能力が一定である以上、株数に関係なく価値の総額が決まる。その総額をいくらの株数で割るのかということ)。
しかし、当事者にはコトはそんなに簡単じゃない。金融三社の取得価格は3000億円と言われており、日興説で言えば、優先株は「原価割れ」で一般株主の株価はもっと低いことになる。ちなみに11月7日の終値は203円である。 これは2社の主張で簡易的に計算したものであり、一般株主の取り分(株価)は一般株主/発行済み株式総数で単純に割り算をしたもの。 価格インディケーションがなかったので月曜日の価格がどうなるか?
パナソニックの側に立てば、「負の遺産もてんこ盛り」(特に創業家をどのように扱うかと言うのは、パナの立場になれば「神様のように丁重な」取り扱いが必須であるが、三洋やパナの一般株主他から見れば、「かかわりたくない」存在のはずで負のシナジー)であり、なおかつ、おいそれと高い金額を出してしまうと、「金融三社」の投資時点からのシナリオどおりの展開で面白くない、という立場は理解できる(けどそれ以上にソーラーやリチウムイオンの事業などはおいしいはず)。
三洋電機の立場はどうだろう。事実上「まな板の鯉」の状態が継続していたものの、社長は何を根拠に握手に応じたのだろうか? もちろん、従業員のことなどを考えると「雇用とブランドの継続」を約束したとされるパナソニック側に折れるのも不思議ではないが、冒頭のとおり2社の声明文には「両社の相互協力による製造コストや開発コストの削減が期待でき」ると記載がある。 この価格根拠をある程度つけて、「優先交渉権」を付与した、と言うぐらいの位置づけで、握手はやりすぎなんじゃないか? 価格交渉が難航するのなら、入札にすることは十分フェアーだろう。パナ以外にも三菱電機やLG電子(韓国)、ハイアール(中国)辺りに声をかけ、その結果出てきた価格と買収先がパナがベストだったと言うのが一番フェアーだ(LGとハイアールはゼネラルエレクトロニクスの家電部門の買収に名乗りを上げたが、金融危機のため取りやめたらしい)。 GEは入札をしていたらしいが、なぜ三洋は出来ないのだ。このままだと、パナに決定した後の価格の算定やスキームの選定などが非常に難しく、パナが「全株主やステークホルダーにとってベストの選択」と言えるのか、今からロジックを十分練らないと説明責任が苦しい。日興式、クレディ式のいずれにしても株価は乱高下をしてしまう(パナ側はスキームについては未決定と主張中で優先株だけを買収する案もあるが、その場合でもその価格が普通株に大きく影響を与えるのは必須)。 たまたま、パナしか入札者がいなかった、という結果ならいいのだが、初めから「パナありき」での出来レースと見られかねない。
金融三社の本件における立ち位置 (日経新聞の報道等より) 三井住友銀行は三洋のメインバンクでパナのそれでもある。かつ、パナには頭取自ら社外取締役になっているという間柄。 大和証券SMBCはその名が示すとおり、三井住友銀行の証券部門も担う会社。事実上親戚のようなもの。 ゴールドマンサックスも三井住友銀行とは親密なのは周知のとおり。 業績と将来性に不安のある大口融資先でもある三洋電機を自らの「庭」の中で収めたいという気持ちはわかるが、それは三洋電機の株主としてのそれとは大いに利益相反しており、銀行の企業支配の弊害がモロに出ているとはいえないだろうか?(最もパナはとても銀行の影響力が及ばない企業であるが)
もし仮に、ハイアールやLG電子が買収してもパナが買収しても三洋の運命は同じだと思うのだが(むしろ日本企業の技術をより評価して生かしてくれるのはどっちだろう?)
今日の記事とは関係ないが、これまでの一連の三洋の報道に金融三社をあまり評価しない論調が多いような気がするが(ファンドの論理など多数あり、その典型例がこの三洋電機のこれまでの記事には多かった)、あの時点で三洋に救いの手を差し伸べたのは金融機関であり、リスクをとった姿勢を評価すべきである。 (かたくなになっている強烈なオーナーがいて、それがボトルネックになっている企業を積極的に買収するということは、ダイエー・西武鉄道などを見ていても、事業会社はなかなか手が出せないでいる) 特に証券会社2社は融資取引などのしがらみなく、純粋な投資としてリスクをとりにいっている。あの時点ではパナもシャープも日立もリスクを取れなかっただろう(彼らも業容の建て直しに必死だったはずで、一旦投資会社が不採算事業の清算の一部を請け負ったともいえる)。 事業会社の取れないリスクをとっているという点にもファンドというか金融資本主義には存在価値があり、貸し渋りのときだけ批判され、儲けすぎだと批判するのは片手落ちだ。
以上、つれづれに書いたのでまとまりがない文章だが、
1.一番重要な価格については後回しで、現時点で決定したかのような演出はパナびいき過ぎる(マスコミは特に) 2.銀行の企業支配の利益相反性について改めて問題視する姿勢がほしい(価格を重視しなければならない株主の本分を欠いている)。グローバル経済のこの世に、高度成長経済時代のM&A(銀行主導型M&A)は時代遅れ 3.三洋も銀行におびえず、堂々と交渉し、入札に持っていくぐらいの強気さが今後はほしい 4.優先株の出資時点でリスクをとった金融機関を評価する姿勢もほしい。彼らがリスクをとったので(協力企業を含めて)何人の雇用が救われたのか、と言う点を含めた議論も出来るはずだ(しかし、いくらで売れるのかは金融会社の株主にも少なからず影響があるはずだ)。 しかし、そのリスクがリターンとなって結果が出ないと今後はこういったリスクをとる人すらいなくなってしまうのではないか(小さい案件ならあるだろうが)、と言う気持ちもある。リターンは結果論だが、報道はフェアにやってほしいなあ。 (追記) 9日付の日経で少し、価格がわからないまま会見に臨むことについての三洋の内情が述べられていますね。だとすれば、やっぱりあの結婚披露宴のような演出や速報ベースの記事に買収価格やなぜパナが決定的なのかについてほとんどタッチされていないことが恣意的に感じるなあ。 特に日経は自分の記事でこういったことに触れず、退社したOBなどをコラムニストとして言及させるなどという手段を使っている。
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Last updated
2008/11/09 11:39:27 AM
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