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2008/12/15
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カテゴリ:M&A

 

 05bell-inline1-650.jpg

先週、ついにBCEの非公開化が撤回されることになったようです。

ご参考

株主 VS 債権者  BCE、ベル・カナダ (6月4日)

株主 VS 債権者 その2 BCE(ベルカナダ)、カナダ最高裁の決定 試合に勝って勝負に負ける?(6月22日)

さてこのディール、カナダのオンタリオ州教職員年金基金がプライベート・エクイティファンド2社と組んでカナダ第一位の通信会社カナダベルを非公開化してしまおう、という案件で、2007年7月に買収者側とBCEが合意に達していました。

合意当時は約500億カナダドルで、「当時の」カナダドルレートでは5.5兆円にも上るため、世界最大のバイアウト案件(LBO案件)だ言われていました。

その後、BCE側の社債権者が、「今バイアウトされると、新たにBCEが背負う借入金の額が大きすぎて社債格付けが下落し、強いては社債の価値が下落するので、債権者の利益にならない」という主旨で、裁判を起こし、ケベック高裁では債権者側の勝利に終わりました。

このことは北米で、「株主価値を最大化したにもかかわらず、それを裁判所がひっくり返すとは何事だ。取締役の忠実義務とはどうなるのだ」と大きな波紋を投げかけました。

会社側は急いでカナダ最高裁裁判所に控訴し、最高裁は第一審をひっくり返し、バイアウト案件はGOされることになりました。これが08年6月。

ただし、この時点では、LBOの主幹事をつとめる銀行も体力低下が著しく(あのシティとドイツ銀)、条項の見直しなどを含めた結果、会社側はバイアウト終了時点まで 「自主的に」 配当を見送る、などLBOに賛成した既存株主から見れば玉虫色の決着に終わっていました。

その後すんなり行くのかな、と思いきや、最近、監査法人であるKPMGがバイアウト後のBCEの債務支払い能力に難がある、と指摘し、これが決め手となって案件が崩壊した、と言うのがこれまでの話です。

何でも買収者と会社側の合意契約の一項に、「監査法人のCFテストに合格すること」がLBOの条件だったとのことです。CFテストのことをロイターの原文では「solvency opinion」と記載されています。

 

こういった独立性のある第三者からの solvency opinion をもらうことは日本ではほとんど例がないと思います。米国でも07年度のバイアウトで13%しかこういった例がなかったそうです。

日本では銀行側がしっかり審査しますので(法的なオピニオンはもらいますが、基本的に貸付金を流動化することが盛んではない商習慣がありますので、返済能力の有無の審査は多分欧米より厳しい)、たとえ監査法人の「返済能力のお墨付き」があったとしても自分たちで再度審査するでしょうし、それ以上経営陣も気にかけないはずです。

 

しかし、結局KPMGの最後通牒で、BCEの既存株主以外は安堵したのではないでしょうか?(要するにやるべきではなかった案件)

なんと言っても「100年に一度の大不況」の真っ只中(いや、入り口に過ぎないかも)です。

経営者側も、「果たして過大な借入金を背負って大丈夫か」、ファンド側も「結構きつそうだな」と思っていたに違いありません。

そして何より銀行側がホッとしているはずです。ローンを転売するマーケットは崩壊していますし、保有し続けて、BCEの業況に異変があれば、即引当金を積まなければならない、などいいことは何一つありません。

株主側は、BCEのTOB期待で買った人たちが損をしますが、まあ、バイアウト発表前からの株主ならいざ知らず、発表後の投資家はいわば、投機ですので、自業自得って感じかな。

 

なぜ、バイアウトすると借金が増えるのか、について、これはRe-Capとも言われていますが、以下の図を見てください。

仮に買収対象企業のBSが左の図のように、なっていて、株式時価総額が簿価と同じで50であったとします。買収者側のバイアウトファンドは対象企業を60と評価して(つまり約20%のプレミアムを株主につけます)でTOBをかけて賛同されたとします。

買収者側は、買収目的専門会社(SPC)を作って、そこで買収を行います。このSPCのBSは右図のようになっていて、ここでも借入金調達をします。要するにファンド側は30しか実際に出資しないのです。

 

図1.gif

 

買収後、SPCと対象企業は合併します。合併後(順合併の場合)のBSは下の図のとおりです。

図2.gif

要するに、合併前の対象会社の50の資本のうち、20は借入金に入れ替わっています。この20は旧株主に還元したことになります。したがってRe-Cap(Re-capitalization、資本再構築)と言います。

 

ただし、対象企業の収益力、キャッシュフローは変わりませんので、稼ぎが変わらないのに、借金が30も増加するので、社債の返済能力が低下すると言われることは、理屈としてはあっています。

 

したがって、LBO(この買収主体が既存経営者の時には、MBOと言われる)はCFが十分な水準で安定的であること、LBO前の借入金の水準が少ないことが望ましいと言えます。BCEも通信会社であり、基本的にはCFが安定しているはずなのですが、記事等によると競合とのせめぎあいや携帯の普及等で楽観できないようなことが記載されていました。また、前回のエントリーでも申し上げたように、目先の収益力予測は保守的に見積もらざるを得ず、KPMGさんも厳しい見方をされたようです。

 

ビジネスウイーク12月4日号「Private Equity's Year from Hell」

によりますと、今年に入って08年10月7日時点までに、39件の米国のLBO後の企業が経営破たんしてしまっていると記載があります(分母も相当あると思いますが)。

(ただし、仮に破綻してもファンド側は損をしないようなケースもあると糾弾しています。例えば、買収後一定期間経過後、借入金でもって特別配当を実施させる。配当額は当初のエクイティ出資額と同じであったとする。そうしますと、実損はありません。日本では、銀行がそんな資金使途に金を貸すことはちょっと考えにくく、特別配当スキームは難しそうです)

同誌では 「The Model is Broken」 とPEファンドの終焉を物語っています。日本だと破たん前に銀行からファンドに追加出資しろなどといわれそうです。

今のところ日本では破綻にいたった例はなさそうですが、今後はわかりませんし、いずれにせよ過剰レバレッジの修正時期にあることは間違いなさそうです。

 

日本でのポイントは レバレッジのかけすぎ、と言うより、過剰資本や過剰現金を溜め込むことの是非にあると思うのですが、MBO、LBOと言うのはそれらを解決する手段の一つとして機能していました。物言う株主も敵対的買収者の主張も同じことです。全てが否定されるようなことがあると、株式市場の活性化になりませんし、リスクテイクする意義がなくなってしまう閉塞感を感じます(まあ、今この時点では、目先の業績回復が何より大事なのですが)。






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Last updated  2008/12/15 06:22:26 AM
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