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のらりくらりと行きたい

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2010年02月20日
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テーマ:海外生活(7772)
カテゴリ:仕事
私は不安になっていた。
きっと大丈夫だと思う自分と何かが起きるんじゃないかと思う自分が静かに私の中で闘っていた。
しばらくは仕事を続け手が空いたときに思い切ってそのドアの前に立った。
一瞬躊躇した後に思い切ってドアに手をかけた。

動いて、、、ないよね? やっぱり考えすぎだったのかも。
馬鹿馬鹿しい。

それは自ら動くはずの無い物体のはずであった。私が自分でそこに置いたのだ。
確かドアを開けてそれをそこに置いたのは8時45分だったと思う。コーヒーを淹れるときに後ろにある掛け時計を見るのが毎日の習慣で、コーヒーカップを手にしてそのままドアの所に行ったのだから間違いないはずだ。
ドアを開けて一番上の棚の端っこにそれを私は置いた。後で取り出しやすいように手前に置いてみたのだが、少し考えた後、私はそれを小さい容器の後ろに押し込んだ。
きっと誰にも見られたくなかったからだ。
その無機質に動かない物体は正確には無機質ではなく有機質だった。
上の方は赤くでドロドロしている。
見た人はきっと息を呑んで立ちすくむのかもしれない。

赤くてドロドロした所を触ってみたい衝動に駆られつつ、私はそれから目を離さずにドアを閉めた。それは突然ダークメタリックな無機質のドアの向こうに消えてしまった。
それが動いてない事にホッとした私は再び仕事に戻った。
それの事を頭から消さねば。やるべき仕事がたくさんあるのだ。

私はまるで無意識のうちにそれを忘れる努力を最大限にしていたかのようにいつもにも増して仕事に没頭していた。
実際仕事をしているうちはそれの鮮やかな赤い色も触ったらまだ柔らかそうな感覚も少なくとも私の脳裏には一度も浮かんでこなかった。
それでも駄目なのだ。
ふと時間が気になって時計を見上げた瞬間に、コーヒーカップを手にする瞬間に、次の仕事の内容を確認する為にパソコンのスクリーンを見る瞬間に、そしてトイレに行って鏡の中の自分の顔を見る瞬間に、それはまるであの無機質なドアの向こうから私のことを引っ張っているように私の意識の中に入り込んでくる。

確かに時計を見たはずなのにその時間は覚えていない。
クライアントを待つまでに15分ほど時間が空いてしまった。
正確な時間は覚えていないが、まだ午前中だったのは覚えている。それをドアの向こうから取り出すにはまだ時間が早すぎると思ったからだ。
それでもまるでドアに吸い寄せられるように私はフラフラと歩いていった。また不安な気持ちになっていたからだ。
それはしかるべき時が来るまでドアのあちら側に置いておこうと私が決めたはずだった。

別に取り出す訳じゃない。ちゃんとそれがそこにあるか確認するだけだから。

誰にということではなく自分のために心の中で言い訳をして私はドアをそっと開けてみた。
後になって思い出してもその後の行動が良かったのか悪かったのか、それともどういう行動をとっても結局何も変わらなかったのではないか。私には分からない。

ドアの向こうの一番上の棚の端の方にあるそれは確かに少し動いていたように思う。
まるでそれは意思を持っているように思えた。
確か、、、、、。あの小さい容器の後ろに見えないように置いたはずだった。
それは今、確かに容器の後ろからドロドロとした赤い顔をこっそり覗かせていた。
まるで私の驚いた顔を見るために少しだけずれてみました、と言いたげだった。
それを取り出してしまいたい衝動にかられつつも、私はかろうじて思いとどまった。

まだ、、、早すぎる、、、、、。

手は無意識にそれをつかんでいたので仕方なく私はそれを3段目の棚に置き換えることにした。1段目に置いて動いてしまったのだからもっと安全な所におくべきだと考えたのだ。
2段目にはすでに半分くらいしか液体の入っていない瓶のようなものがゴロゴロと無秩序に並んでいる。
それをこの液体の横に置く事はためらわれた。ドアを再び閉めた後に真っ暗になるその空間でゴロゴロ並んだ瓶の横にそれがあるという状態は、それにとってふさわしくない気がしたからだ。
3段目なら大丈夫だろう。きっと1段目よりも安全でそれも安心するに違いない。
もしそれに考える意思というものがあったとしたら。
3段目の発泡スチロールで出来た四角い箱のようなものの後ろが、それの新たな安置場所となった。箱の後ろにすっかり見えないように置いた時に赤いドロドロの下にピンク色の何かが見えたが私はそのままドアを閉じることにした。
あまり関わっていては仕事にならない。

が、すでにそのピンク色は私の脳の奥不覚に鮮明な映像となって焼きついていた。
動くはずのないそれ。赤いドロドロの下にかくされた少し淡いピンク色。ドアを開けた私をこっそり覗くように動いていたそれ。

結局私はまたドアの前に居た。
確かに動いたそれを見たときから、とり憑かれるのは予感していた。
そしてドアに手をかけた時から中で何かが起こっている事も確かに予感していた。

それは1段目に戻っていた。


私は悲鳴をあげないように口を両手で押さえていた。
1段目の端っこの方、最初に置いた場所にそれは戻っていた。
違っていたのはそれはもう小さい容器の後ろには隠れていなかったという事だ。それは容器の前でものすごい存在感を出していた。

目を逸らす事も出きずにいた私は更なる恐怖を味わう事になる。
赤いドロドロがこぼれ落ちたりしないように透明の蓋がしてある。その蓋の端の部分に赤いものが付いていた。
それは間違いなく中に収まっていなければならないはずの赤いドロドロだった。

まだそれを取り出すべき時ではないと理性では分かっていたものの私はもう我慢が出来なくなっていた。本能の部分で充分な危険を察知していたから。
それは間違いなく危険な状態だった。
有機質だが自分では動けないはずのそれは1段目に戻っている。そして確かに綺麗に収まっていたはずだった赤いドロドロ。
右手でドアの取っ手をつかんだまま、私は左手でそれを取り出していた。
そして今度は心臓が止まりそうになった。

蓋のふちに付着していた赤いドロドロが手に付いたからではない。
透明な蓋の下の赤いドロドロはちょうど4分の1ほどがえぐれていた。

下に見える柔らかそうなピンク色を目にした瞬間、私はまるで自分の体をえぐられたような感覚に陥った。
不安は予感であった。そしてその予感はついに現実となったのだ。

そして、私はそれを手にしたままゆっくりと振り返ることにした。

後ろに誰か居る。
それも、、、多分一人ではない。
私はきっと叫ぶ事になるだろう。恐怖と怒りを込めて。







コレが本日、権造が体験した一部始終である。
んで、権造は振り返った。んで思いっきり叫んだ。

『ちょっとぉぉぉぉ~~っ!!!誰だよっ!!人のモノに勝手に触るなっ!!!』
『だって~~。欲しかったんだもん。』
『んで、誰よ??勝手に人のモンを食ったのはっ!!』
『ソーリー。ゴンゾウ。ちょっと味見しただけだってば~。』
『、、、、、(怒)、、、、っつか先にことわれよ!ちゃんと!!』
『だから謝ってるじゃない~。でも美味しかったよ。もうちょっとチョーダイ。』
『こーーーれーーーはーーさーー!!昨日、ここ造の誕生日に作造が買ったイチゴムースの残りの1個なんだよぅ~(泣)ランチ食べてからゆっくり食べようと思ってたのにぃ!!』
『ソーリーソーリー、そんなに怒んないでよ。』
『っつかオマエらっ!!冷蔵庫の中もうちょっと片付けようよ!いつのか分かんないテイクアウトの箱だとか、飲みかけのコーラだとかちゃんと捨てようよっ!!!』

ちなみに、、。このイチゴムース、蓋の上にはマジックで『ゴンゾウ』と書いておいたのだ。
同僚よ、、、食うなよ。

こんな風に我がサロンは、冷蔵庫に大事な一品を仕舞っておくといいようの無い不安に襲われる職場である。ちなみにこの食う同僚達、逆の立場になると確実に権造の5倍は怒る面々である。。


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最終更新日  2010年02月20日 15時41分14秒
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