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穏やかな爆弾

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カテゴリ:声がなくなるまで
ばあちゃんが、ボケました。



まだ僕が東京で働いていた頃に
「痴呆の兆候」があると
両親から聞かされていました。
しかし去年の夏に、心臓弁膜症から来る合併症を患い
暫く寝たきりの入院生活が続いた所為で
ボケの症状が、悪化してしまったようです。



要介護認定・3。



僕が郷里に戻った時には
既に、痴呆老人のグループホームに入所していました。

「素人に出来る事なんて、たかが知れているし
 介護者にならざるを得ない母の負担を考慮した。」

これは父の判断でしたが・・僕もその意見に賛成です。



お見舞いに行くと、ばあちゃんは
陽の光が沢山入る白い個室のベットの上に
ちょこんと座ってました。
随分と細くなった体の輪郭が、少し痛々しく思えます。



「最近のことはあんまり覚えてないの。
 よくご近所さんが、お見舞いに来てくれるんだけど
 思い出すのに時間が掛かったり
 全く違う人と勘違いしてたりするの・・。」

そんな母の話を聞かされていた僕は

「七年近く家を空けていた自分の事なんか
 忘れてしまっているのじゃないか」

なんて危惧を持っていたので

「ばあちゃん。僕、誰か分かる?」の問に

「わかるよぅ。」

そう言いながら嬉しそうに微笑んでくれた時は
正直、涙が出そうになりました。



一年振りに会ったばあちゃんの顔半分には
内出血の痕が見られました。
一人でトイレに歩いて行って、派手に転んだとのことです。

自分の頭の中では、若い頃と同じように
普通に歩ける。何でも一人で出来ると思っていても
実際、身体の方が着いて行かず、何もないところでも転倒。

75歳以上の後期高齢者には
よく見られる行動だそうで・・
ウチのばあちゃんも、その洗礼を受けてしまった模様です。
それでも、打ち所が悪ければ
死に至ってたかもしれないことなので
運が良かったのだと思います。

ばあちゃんは、その話が出るたびに

「お父さんが、守ってくれたんだねぇ。」

と亡き祖父の遺影を見ながら、何度も繰り返します。



確かに、祖父はずっとウチのばあちゃんを
守り続けて来たました。

太平洋戦争の海兵として戦地に赴いた祖父は
戦艦が撃沈され、海の藻屑と消えました。
今でも、その遺体は何処かの海底で
眠りについております。
戦災未亡人となったばあちゃんは、二人の子供を抱えながら
戦後の混乱期を、強く生き抜いてきたそうです。
そして女で一つの、不安定な経済力を支えてきたのは
亡き祖母が残し続けている「恩給」
そして、現在。
月々の高額な医療費や、施設の入居費用なども
全て恩給と年金が賄っています。

表層的に見れば、たかが金銭的なことなのですが
僕には、ばあちゃんの背中をそっと支える
祖父の姿が見える気がするのです。



幸いにも、ウチのばあちゃんは痴呆進行状況が
穏やかな様です。
多少の斑はあるものの・・。
徘徊や興奮、不潔行動などの症状はまだ見られず
今は、安定した日々を送っています。

子供の頃は、人格が崩壊してゆく
痴呆って病に恐怖を抱き
テレビで関連の番組を見る度に
こうなる前に、誰か殺してくれ・・などと
少々、過激な事を考えたりしましたが

いざ、なだらかな坂を下るようにボケてゆく
ばあちゃんの姿を見ていると
こんな感じの人生の終末なら・・
それも悪くないのかもと思えました。



・・ばあちゃん。今、50歳なんですって。

ホントは86歳なのに。。

本当の歳を教えてあげると

「そんなに、歳は取ってないよぅ。」

と笑います。

そして、話してくれるのは

いつも少女の頃に見た風景。

そこには既に他界した、父や母、兄弟達もいて
畑仕事に精を出したり、祭りの準備に忙しかったり
楽しい日々を過ごしている様子・・。



そう・・ばあちゃんは今、思い出の中に生きているのです。



重い病気を患って、苦しみ抜いたり
空ろな世界や己の人生を呪い憎悪に塗れたり
孤独の中で、触れられない誰かの背中を探したり・・
そんな悲しい気分で、人生の終着へ向かう人々に比べると

懐かしい人々に再開して、懐かしい風景の中にいながら
人生の帳を迎えようとしている
ウチのばあちゃんは
随分と幸せなんじゃないのかと思います。



願わくば・・これ以上、痴呆が悪化しないように。

そして・・穏やかな気分で、最期を迎えられるように。

僕は祈り続けて止みません。





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Last updated  Apr 22, 2004 03:57:30 PM
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