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穏やかな爆弾

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カテゴリ:声がなくなるまで
※ 連作です。前編を読んでない方は こちら からどうぞ。




「・・今、なんて?」

「痛風です。」

「つ・・痛風?
 痛風って・・あの
 おじさんとかが罹る病気ですよね。
 なんで三十路前の僕がそんな病気に・・。
 は!まさか!ウチの父が痛風を患っているのですが
 もしかして遺伝なんて・・。」

「しますよ。」

「呪わしきは血か!?血なのか!?」

「いえいえ・・血液検査の結果を診るにそれだけではないようです。」

「は・・はい!?」

老医師曰く。
一昔前は、中年男性特有の病気のように思われていたようですが
最近では女性や、若い年齢の人たちにも
多くその症例が見られるようです。

痛風にかかる要因。

 ・遺伝的要因
 ・食物的要因(肥満・プリン体の大量摂取)
 ・飲酒
 ・ストレス
 ・激しい運動
 ・その他の要因。

なんてことでしょう。

確実に三つ以上は、当てはまっちゃってますね・・僕。

しかも・・面倒な事に、この高尿酸血症という病は
なんでも、一度発作が出てしまうと
完全に治すことが出来ない不治の病だそうで・・。
死ぬまで尿酸値を下げる薬を飲み続けないといけないそうです。

しかし、発症してもピンピンしている
うちのオヤジの姿を見てますから
取り敢えず、今日明日に死んでしまうような
怖い病気ではなかったので少し安心致しました。

未知の恐怖から開放され、安堵のため息を漏らす僕。

その落ち着いた表情を見て取ったのか
老医師は「安心するのはまだ早い」と
眼鏡の端をキラリと輝かせ、返す刀で撫で僕を斬りにします。

「まぐろさんはお酒好きでしょ?どのくらい飲まれますか?」

ちょうどこの時期。
仕事を辞める辞めないなど、色々考える事が多すぎて
お酒を飲まないと満足に眠れない日々が続いていました。
いつもなら、睡眠前に缶チューハイ2・3本を
寝酒にしていたのですが・・。
この数週間は、量・質ともに呆れるほど
摂取していたのは確かです。

「とにかく、飲み過ぎです。
 痛風の直接的な原因となる尿酸値の値が常人の3倍はありますね。」

「さ・・三倍・・。」

「その他にも、肝臓の数値もとんでもないことになってますよ。
 このまま、今の生活を続けるとどうなるか
 教えてあげましょうか?」

「・・は、はい。」


「肝炎」

「ぐふ!」



「肝硬変」

「げふ!」



「肝癌」

「ぐはっ!!」



「・・死にますね。このままだと。」

仮にも命を預かるお医者さんが「死ぬ」なんて
軽々しく口に出しても良いものなのでしょうか?
しかし、白衣という名の権威を羽織った死神に死の宣告をされるのは
想像を絶するほどの恐怖でした。

「せ・・先生!助かる手立てを~!!」



老医師のアドバイスは

 とにかく、お酒を断つこと・・。

 そして脂系の食べ物を極力減らすこと・・。

 大切なのはこの二点だそうです。

この瞬間から、僕の涙ぐましい努力の日々が始まりました。

お酒は好きですが、飲まないと耐えられないほど
溺れてはいないので、禁酒は全く問題なかったのですが
(と言ってもストレスは溜まる一方でしたけど)
困ったのは、食事制限です。
元来、肉食獣の様な生活を続けてきた僕にとっては
お肉を食べられない現実は、何にもまして苦痛であります。
焼肉屋の前なんて通る度に、厨房に闖入したい衝動に駆られました。

しかし、こと命に関わる事となれば
背に腹は帰られず
インパラのように草をもしゃもしゃ食べて
空腹を紛らわせる生活が一週間も続きました。

月日は流れ・・。

再検査の日がやって参りました。

げっそりとこけた頬を携え、血液検査の結果を待つ僕の目には
待合室の人の波が、肉屋さんに見えました。
ああ・・食べたい。
肉を食べたい。
もはや、カリバニストとなんら遜色がありません。

待つこと数分。

看護婦さんに呼ばれ、食欲魔人の妄想を切り離し
前回見てもらった老医師の待つ診察室へと向かいます。

結果・・。

数値は正常値に!!

やった~~!!

我慢した甲斐がありました。

早速、老医師にこの1週間。
断食僧の様な生活を送ってきた事を報告します。

「先生!先生の仰った通り!
 あれ以来、肉も酒も、一切断ちました!!
 そのお陰ですね!!」

てっきり誉めてもらえると思っていた僕は
老医師が次に発した科白に愕然とするのでありました。

「君・・。

 やり過ぎ・・。」

「はっ!?」

「そこまでしなくても良いんだよ。
 数値も急を要するほどの値じゃないんだし・・。
 週に2度ほど休肝日を設けて
 肉類も少し減らす程度で充分だから・・。」

「さ、さ、先に言え~!!」

そんなこんなで・・。

痛風と言う、世間的にはとても不名誉な
不治の病を患ってしまった僕でした。
幸いにも、その日以来
顕著な発作は出ていません。
実家に帰って、食生活が安定したおかげでしょうか?
引っ越しのゴタゴタで、薬を飲まなくなってしまったのですが・・。

出来るなら、あの一日が間違いであってくれたらなぁと思う
今日この頃です。





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Last updated  Oct 13, 2004 11:19:15 PM
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