夕闇のピアノリサイタル第6章「少年の勇気」
~僕はピアノの上に乱雑に置かれてあった埃の被ったベートーヴェンの楽譜を手に取った。ピアノソナタ月光第1楽章嬰ハ短調を完璧にマスターした僕の目前に開けたのは、思春期の少年にとっても不思議な変二長調のメヌエット風の素敵な夢の世界だった『そうだ!僕達の夢の世界に歪んだ大人が入って来れないように僕は夢の扉に鍵を掛けてしまおう!そう、メヌエットっていう、甘い魔法の鍵でね。夢の扉の鍵、僕は誰にも渡さないよ!そう、僕達が子供の内に、僕等の夢を叶えたいからね.....。』19××年、とても暑かった、ある思春期の夕方僕は夕闇の空に、離れ離れになったあいつを想い埃塗れに成っていた僕の分身のピアノを優しく拭いた。まるであいつが僕の涙を拭いてくれたかのように僕に弾いて貰えなくて寂しかったピアノの涙僕は愛おしさで胸一杯にして拭ってあげたんだ。僕とあいつの第2楽章が、今、始まった.....。~『ある夏の夕方、久々にピアノの前に座れた僕はムーンライトソナタの第二楽章の楽譜を広げ変二長調の音階の練習を両手で始めたんだ。そう、僕の蒸し暑い部屋に降り続ける蝉時雨に負けぬように僕にしか歌えない歌を、僕の白い指だけで歌おうとしたんだ。その瞬間、僕に信じられない暴力が襲いかかったんだ。僕が僕の心壊すだけの下らない学校に行くのやめちゃったから酒乱で冷酷な親父はキレたんだろうな。きっと.....。でも僕は例えみてくれは中性ぽいとか言われても負けずギライだったし、理不尽な理由で殴る蹴るされたら僕は勿論腹が立ってさかなり反撃してたらもう少々の肉体の痛みは痛みと想わなく成ったんだ。「・・・、お前なんかそんな事する資格ない生きるに値しない奴だ。出てけ!」嗚呼これで何度目かな。自分が外で嫌な目に遭ったからって子供に当たってさもう何年言われ続けたかな。僕が・・・の腐った奴みたいだって。そう、僕が自由に好きな事して、好きな事学んでただけなのに僕が学校にいられなくしたの腐った大人とその手下の生徒の奴等じゃん。だから僕はそんな奴等が僕に言葉と肉体の暴力で僕の心も身体も壊して来たからさ遂に僕はそんなつまらない連中と一緒に遊ぶのやめちゃったんだよ。だから僕の言う事まるで信じないで暴力を振るっても僕はそんな奴、例え実の親父でも従う訳にはいかないんだよ。嗚呼、・・親父痛えなっ!何でオレが何にもしてねぇのに殴るんだよ!』僕はやっと僕の夢の扉の鍵のメヌエットを見つけたのにやっと僕とあいつの第二楽章が始まると想ってたのに理不尽な理由から始まったまた単なる虐待としか想えない暴力が僕を襲いとてもピアノを弾けるような状況では無くなってしまったんだ。それに思春期の僕は力もついて背も伸び始めたからだから今迄、格闘技経験のある酒乱の親父であっても僕が思春期のパワーで正当防衛しだしたから今迄のようにやられっぱなしという事は無くだから余計思春期の脆い心壊す者との闘いは終わらなかったんだろうな。あと近隣から何人か様子を見に来ると世間体や外面の良い親父は途端に黙り込んで虐待もやめそして物分りの良い大人に変わってさ親への反抗という偽りの理由をでっちあげたんだ。だからまた僕が親不孝で我侭な問題児だって陰口叩かれたんだ。そんな時、僕はピアノを弾く筈だった白い指が血と汗で塗れている事を知り一瞬、僕の胸に悔しさが一杯込み上げて来たんだ。そう、誰も僕の言う事を信じてくれなかったしあの日、僕の事を親友だと言ってくれた親友のあいつ以外誰も僕を庇ってくれたり、温かい言葉かけてくれなかったな。だから僕は布団を被って、声を上げて、わんわん泣いたんだ!そう、僕が最後の生きる望みのピアノを弾く事さえも否定されてそれに、あいつと再会するための指がこんなに血だらけに成っちゃったって僕は何も食べずにただ僕等が出逢った日を想い出して泣いていたんだ.....。真夏、僕は思春期のもどかしさで一杯だった絶望の日々僕がピアノを弾く事さえも奪われて数日が経った。『嗚呼、僕はピアノ練習をしなくっちゃ。』もう、僕には生きる希望さえも失いかけているというのに。僕と離れ離れに成った僕の親友のあいつに捧げるリサイタルのために僕は閉め切った蒸し暑い部屋で、血と汗に塗れたTシャツの侭で僕は埃の被った、僕の大事な宝物のピアノへと向かった。『僕は勇気を出して、僕の壊れかけた心を癒してくれる“魔法の楽器”の前に再び座ったんだ。それにこの僕の色んな涙思春期のもどかしい想い僕の身を刺すような寂しさも何もかもが沁み込んでいる僕の分身はそうさ!僕のナイトのあいつとの再会を叶えてくれる筈さ!そうだ!僕のムーンライトソナタ、もっともっと上手くなればいつか必ず、この僕の狭い部屋で開けるんだ!僕とあいつだけの、“ピアノリサイタル”あいつとの約束の、僕の生きる目標の演奏会を!』でも、もう下らない学校も冷酷な親もそして僕を問題児としか想わない近所の野次馬も何もかも敵に回した孤独な少年は家でピアノを鳴らしただけでも更に酷い虐待を受けるかも知れないと想った。然し、この狭くて蒸し暑い部屋にあるピアノを見る度にあの日、たった一人の親友のあいつの笑顔そして孤独な少年の僕があいつと誓い合った僕等だけの“ピアノリサイタル”を実現させるという約束が白い身体中傷だらけの僕に、何度も蘇ったんだ。でも、ピアノの鍵盤に手を触れようとした時や少し音を鳴らしただけで実際何度も乱暴な親から暴行を加えられた。だからもう、僕はピアノを弾きたくても弾けないと想った。こんな無力な少年の僕が、家出少年に成って自由に成らない限り。然し僕は子供をまるで出世の道具のようにしか考えない大人の奴隷にそして僕から本当の僕を根こそぎ奪う学校という子供の自由と可能性を何もかも奪うシステムに組み込まれる事を僕は永久に拒もうって僕の行く道を塞ぐ総ての力に闘いを挑んだんだ。だから、こんなか弱い少年は幾等でも消そうと想えば消せるだろうし僕があの下らない学校で何もしてもいない事をでっち上げられ濡れ衣を着せられ終いには僕からは何もしてないのにまるで僕の我侭で大人の命令に歯向かう“危険な問題児”という下らないレッテルをずっと貼られ続けるかも知れない.....。そう、僕がこの街にいる限りもう好きな事は出来ないと想った。『嗚呼僕は、もうピアノ弾けないのかなぁ.....。』そんな時、思春期の男の子に特有のもどかしさは孤独な少年を壊し続ける冷酷な大人に徹底抗戦可能な夢を叶えるエネルギーへと昇華したのさ。『そうさ、僕がこのピアノの前に座る事が僕の自由への第一歩なんだ。そう、例え僕がこの鍵盤で音を鳴らしただけで殴られけ蹴られ血を流しても僕は一生に一度の思春期のエネルギーをあいつとの約束のためだけに使い果たそう。嗚呼、僕はピアノが弾きたいよ。離れ離れに成ったあいつに逢いたいよ!逢いたい、逢いたいよ!だから僕はあいつとの再会のために弾きつづけよう。僕が、機械のような大人にされてしまう位ならもう消されても壊されてもいいよ!だって僕はあいつにピアノを聴いてもらうために生きて来たんだからさ。嗚呼、もう何も怖くないよ!さぁ、僕の指よ!ムーンライトソナタを奏でよ!』僕は魔法の楽器から、僕の夢のソナタの旋律を溢れさせるために僕は遂に、僕から音を奪った“楽器にかけられた封印”を解いたんだ!そう、邪悪な精神の大人が僕の楽器にかけたマイナスの思念の封印を思春期のもどかしさが昇華した夢をかなえようとする勇気という莫大な力は思春期の少年にしては長い、白い指に満ち満ちて僕の総ての指が鍵盤に触れた瞬間今迄僕にピアノを弾こうとする気力を奪って来たものそう邪悪な絶望の封印を瞬時に消滅させたんだ!僕から音を奪った敵、それは絶望だと初めて知った思春期のもどかしさで一杯だった僕は僕がピアノを弾く事で酒乱で冷酷な親父から虐待を加えられてもそして、「男のクセに、音楽なんかするな!」という僕の心に傷を増やす最低な事を言われてもそう、また下らない学校に拉致同然で連れて行かれ中性的な容姿を揶揄され心壊されても僕はもう絶対に従わない、従ってたまるか例え殴られ蹴られても、僕は命尽きる限り僕の大好きなピアノを、僕の親友のあいつに再会するためにどんなに傷を受けても弾き続けてやろうと想ったんだ。『嗚呼、この鍵盤のひんやりとした感触、懐かしいなぁ.....。』そう、ムーンライトソナタ第一楽章・嬰ハ短調の心の琴線に触れるメロディをまるで瞑想でもするかのように奏で出した僕の白い指は、懐かしい感触を一杯想い出させてくれたんだ。そう、あいつとの約束の握手の感触を。『嗚呼、あの頃は寒かったのかな。寒くて手が凍えてたのにあいつの手、温かかったなぁ。嗚呼、あいつと一緒に帰っても「じゃあねっ」って言って中々離れられなかったな。』だって、僕が家に帰るのが嫌な事、あいつはみんな知ってたんだ。だから日が暮れてもあいつと離れられなかった僕といつ迄も一緒にいてくれたんだ.....。僕とあいつとの想い出が嬰ハ短調の物悲しい幽玄な旋律と共に走馬灯の如く僕の胸に蘇っては消えたんだ。ふと気がついたら、僕は涙で前が見えなかったんだ。でも何故か僕は最後迄弾いてしまったんだ。僕の思春期の身体に、一瞬、無上の喜びが駆け巡って僕の頬に嬉し涙の白い一筋の河が溢れたんだ。『あいつ、今の僕の演奏聴いたら、きっと喜んでくれるだろうな。そう、僕はもう目を閉じてでも弾けるんだからさ!嗚呼、もう僕は暗譜しちゃったんだなっ!でも最近弾いて無かったのに、これだけ弾けたって事はもうムーンライトソナタは第二楽章迄、マスター出来る筈だ!嗚呼、僕はやっぱピアノ弾いてる時が一番気持ちいいなぁ!それにあいつとの約束、もう直ぐ果たせるかも知れないなっ!』閉め切った部屋で、汗びっしょりの僕は変二長調の両手音階練習続いて第二楽章、変ニ長調に挑んだ。『今度こそ、僕とあいつの第二楽章が始まるんだ。それに僕が19世紀の西欧の舞踏会場に瞬時にタイムトラベルさせてくれる気品溢れるメヌエット風三拍子。嗚呼、僕等をを舞踏会で華麗に踊る思春期の夢に酔う少年貴族にしてくれる筈さっ』僕にはもう怖れは無かった。もう僕はどんな暴力を受けても僕の唯一の夢のピアノを弾こうと決めたんだ。そう、僕の行く道を決めるのは僕だから。誰も僕の自由に夢を見る権利、奪い去る事なんて、出来やしない筈だって僕は情念の焔を最大限に燃やし尽くしてそしていつ暴力が飛んできても僕はどんな事があってもここから動くまい。僕は命懸けの、ピアノとの対話を開始したんだ。もう、僕は夢を叶える事以外何もするのをやめようと誓ったあのとても暑かった八月のある日室温が30度を越えてもう汗びっしょりの昼下がり地獄のような家の、僕の最後の砦の自室から思春期真っ只中の孤独な少年の僕が奏でるあの不思議なメヌエット風三拍子はまるで少年ファンタジーの世界のような19世紀オーストリアへと僕をタイムトラベルさせたんだ.....。ナイトのあいつが何処かに消えた少年勇者が一番欲しいものそれは、勇気だった。勇気さえあれば夢は叶う僕は確かにそう想ったんだ。To be continued.....