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テーマ:生き方上手(688)
カテゴリ:実家(陽気な父・明るい母・おもろい妹)
帰省して3日め。
父母が「ちょっと聞いといて欲しいことがあるねんけど」という。 母が一冊のパンフレットのようなものを持ち出して、 「あのな、私らこれに入ったからな。いざと言うときも心配いらんから。」 と見せられたそれは、近くの葬祭互助会の説明書であった。 「これで何もかもやってもらえるようにしてあるから、もし万が一の時はすぐにこの担当の人に連絡してや。 ののはな、喪服ひとりでよう着んやろ?そんなんもちゃんと着付けしてくれはるからな。 そういうごちゃごちゃの時はいろんな外野が口出ししてくるもんやねん。そやけどののはなら姉妹二人でしっかりして、お葬式とか法要とかな、なんとか済ませてほしいねん。 事故なんかで私ら二人いっぺんに死んでしもたら、後のことどないしてええか分からんようになるやろ? そやから、互助会に入ってるって知っといてほしいねん。」 話の内容は真剣なのだが、二人ともなにか新しい会に入会したことがちょっと楽しいかのように、にこにこしている。 「それでな、ちょっと気になってる事があるんやわ。」とにこにこしたまま母が続ける。 「お墓とお仏壇のことなんやけどな。 私ら二人が死んでしもたら、お仏壇どないしょうかと思って…。ここ(実家)においといてもだれもおらへんしな。 みな、(娘達が嫁いでしまった)よその人はどないしたはるんやろなぁ。 お墓ももう買うてあるけど、あんたらのとこからそうそうは参られへんやろし。 いっそ『お墓のマンション』みたいなとこへ入ろかとも思てな。 いや、あんたとこの庭に埋めてもろてもええねんけどさ。でも埋めたとこからヘンな木はえてきてもイヤやろし…。」 陰気な話の嫌いな両親なので、ところどころに笑わせようという意図まで見えている。 せっかくなのでところどころで笑いながら相槌をうち、ああ、私もそんな歳になったのかと、しみじみ思った。 父も母もまじめな人だが、あまり信心深い仏教徒だとは思えなかった。 母はミッションスクール出身のお嬢さん育ちで、父と結婚してからも、お墓や仏壇にあまり興味があるようには見えなかったし、父は「死んだ後のことなんか、死んでもたらわからへん。」なんて平気で笑っていたのだ。 でも、実際に死が身近に感じられる年齢になって、ふと後のことが心配になったのだろう。 死んだ後のことは分からんとは言っても、やはりお仏壇やお墓に誰もお参りに来てくれなかったら寂しいなあと思ったにちがいない。 私はそんな父母の話を聞いていて、ふと、両親にとってお仏壇やお墓は、死後に自分では見ることのできない(現世での)自分の姿を見ておくためのものなのかもしれないと思った。 死んでしまったら、今の世界にいる自分の姿は見ることができない。だが、お仏壇やお墓を準備しておけば、それを見ることで、そこに遺骨や魂になって入っている自分を想像できるし、そこにおまいりしてくれる家族の姿を想像することもできるのだ。 だが今の状況では、お墓は遠いし、こまめにお仏壇の世話をしてもらえそうもないと気付き、二人はちょっと心細くなったのだろう。 私はなんとか両親の不安をぬぐってやりたくて「具体的なことは妹とも相談してみるけど、あんまり心配いらんよ。お墓はともかくお仏壇はダンナの両親に頭下げて、私がそばに置いてきちんと面倒見られるようにするから。」と答えた。 こんないい歳になっても、両親をどーんと安心させられる答ができないのはちょっと情けなかったが、今はこれで精一杯だ。 でも、どんなことがあっても、妹と私とで、両親の気持ちを酌んであげられるような方法を考えようと思っている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006年04月10日 14時24分17秒
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