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野の花も日々あれこれ考える

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2006年11月01日
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テーマ:生き方上手(688)
最近ばたばたと忙しく一日が過ぎてしまうことが多く、しばらく、実家へゆっくり電話することができなかったので、久しぶりにご機嫌伺いにかけてみた。

母は元気そうな声で
「わぁ、ひさしぶりやなぁ。ののはなちゃん元気にしてた?たろちゃんやはなちゃんは?」
と嬉しそうだった。

父の様子を聞くと、まあ、あまり大きく変わりはないのだが、リハビリのあとずいぶん疲れるようになったみたい…と言っていた。

「そうや、お母ちゃん『芋たこなんきん』見てる?」と聞いてみた。
NHKの朝の連ドラである。
花子はこのコテコテの大阪のドラマにどうやら母親のニオイを感じるらしく、7時半からの放送分をBSで必ず見てから登校する。

母は
「見てる見てる!あれ楽しいなぁ。みんな大阪弁も上手やし、ほんま楽しみに見てるねん。
昔のこと、いっぱい思い出すわ。あんたらが小学生の時のこととか…。」
と、ニコニコしているであろうその顔が浮かぶような、楽しそうな声で答えた。

そして唐突に
「あのなあ、ののはなちゃん、たったん(私の妹)の小学生の頃のことやけど、あの子が学校行くの嫌やって言うたことあったん覚えてる?」
と、ちょっと真剣な声で話し始めた。


私や妹が小学生だった当時、まだいじめなんていう言葉は使われていなくて、けれどもそういう行為は確実にあった。
実は私も妹も、(全く別の時期に)一時ターゲットにされたことがある。

当時は『いじめ』というようなあいまいな表現ではなくて『無視』と具体的な行為で呼ばれていた。
大抵、クラスの中で力を持っている子供(勉強ができるのもいれば、できない子の場合もあった)が「誰々は調子にのっている。あいつを無視しよう。」と言い、じわじわとクラス全員に浸透してゆく。
そして、しまいには誰も口をきいてくれなくなり、クラスの中で孤立し、なにかするたびにクスクス笑い声が聞こえる、という状況になるのだ。

ターゲットにされる理由は「調子にのっている」とか「偉そうにしている」とか、あくまでもそういう印象の問題であった。
なにか問題を起こしたとか、けんかをしたとか言うことではないので、被害児童はなぜ自分がそんな目にあうのか分からない。
理由がないので謝ることもできず、理由を知る方法はない。
もしも誰かに「どうして無視するの?」と尋ねたところで、誰も本質的になにか理由があって無視するのではないので答えられないし、その質問ももちろん無視されるので、被害児童自身が自分の力で抜け出すことは不可能だった。

私がターゲットになった理由は…まぁ、自分でも今考えると体が小さいわりに態度のでかいところが多々あったし、児童会の役員もしていたし、当時の同級生から見るとうんと難しい本を読んだりしていたので小学生にしては語彙が多く、口論では誰にも負けなかったので「わざと難しい言葉を使って、嫌なヤツだ」というあたりだったと思う。

しかし、妹はおっとりしていて気が優しく、いつも控えめで、目立つようなことは嫌いだったので、なぜ彼女がターゲットにされたのかは今もよく分からない。

母は「実はそんなことすっかり忘れてたんやけどな、今ほら、いじめで死んでしまう子がすごく多いやん。それで思い出して、あの時どうやって立ち直ったんやったかなぁと思ってな。」

どうやら母は、私も同じような目にあったことはすっかり忘れている様子。
「私もおんなじようなことあったやん。」というと
「ええっ?そうやったっけ?う~ん、覚えてないわ…。」と笑っている。


実は、私も妹も、両親のおかげで何事もなかったように当時のいじめから抜け出せたのだった。

学校を休みたがる娘に父は簡単に
「そんな学校やったら行かんでええ。家で勉強しとき。」と言った。
母も別段困ったり怒ったり恥じたりする様子はなく、ただ私たちの健康面を気遣ってくれ、いつも通り(商売に忙しかったので、大いに手抜きではあったが)おいしいお昼ご飯を作ってくれた。
それは私の時も妹の時も変わらずそうであったと記憶している。

私の場合は、担任も一緒になっていじめていた張本人だったのだが、私が学校を休んでいることでおそらく校長や教頭からなにか厳しい指導を受けたらしく、家に「学校に来てくれないかなぁ」と間の抜けた電話をしてきた。
そして再び登校したときには魂の抜けたような顔をしていた。
クラスメート達は何事もなかったように「おはよう」と迎えてくれて、それですっかり解決だった。

妹の場合は先生がもっと良い人で、家までやってきて、休んでいる妹に
「明日からおいで。もうなんにも心配することはなくなったから。」と言ってくれた。
それで、妹はするりと復帰した。

そんなことで解決?と、大人になった今はちょっと腑に落ちないが、子供の世界は案外こんなものなのだ。

「そうやったかなぁ…そんなこと言うたかなぁ。すっかり忘れてるわ。
でもな、確かに私、あの自殺してしまった子たちの親は、なんでそこまで追い詰められてる子を学校に行かすのか分からんねん。
小学校や中学校なんて、家で勉強しても落ちこぼれたりせえへんやろし、もしそれで一年留年しても、そんなん命を落とすことに比べたら大したこととちゃうのになぁ…。
欠席でも転校でも、ほかになんぼでも選択肢あるのに、なんでみんな死ぬまで学校行くのかなぁと思うわ。」
と母は言った。

「あんたら姉妹かて、そうやって昔いじめにあったって言うても、今はちゃんとええお母ちゃんになってるもんなぁ。なにも死なんでもええやんかなぁ。」

母の言うことは問題の本質を突いている気がした。
いじめは絶対になくならないし、それを回避する方法なんてない。
だが、それに負けて死んでしまうのを防ぐ方法はいくらでもあるし、済んでしまえば大したことではなくなる場合もたくさんあるのだ。
ちゃんとした母親になれたかどうかはまだ分からないが、私も妹も明るく幸せに、普通の生活を送っている。

「いじめ」を学校が隠蔽したり、教育委員会が認めようとしなかったり、責任を声高に社会に求めたりする行動が、返っていじめられている子供に「いじめにあったらもうだめなんだ」という印象を与えている部分は大いにあるだろう。
「いじめはどこでも必ず起こるし、未然に防ぐ方法はない」と言うことを、大人たちが認識しなければ、被害を受ける子供達が復帰の道を見つけ出すのは至難の業だ。
充分に回復する道があるのにも関わらず「○○症候群」といかにも恐ろしそうな病名を付けられたために、生きる気力を失ってしまうような、そういう状態にも似ている。

いじめの被害を軽んじて考えるつもりは毛頭ない。
心に一生残る大きな傷を受ける場合も多いだろう。
だが「そんなものは一生の中では大したことじゃないから、心配しなくても大丈夫だよ。」と笑って安心させてやる存在も必要なのではないかと言う気がしてならない。


テレビのワイドショーで教育評論家が「学校が嫌だと言い始めたら、休ませるという決断も大切なことなんです。」なんて言っていた。
八百屋の奥さんだった私の母がおばあちゃんになった今、当たり前に感じていることを、評論家の先生がたいそうにおっしゃり、なるほど、そうなんですねぇ…と感心して出演者達が聞いている。
なんだか物悲しくて滑稽な印象さえあった。





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Last updated  2006年11月01日 14時56分47秒
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