訳あり企業の駆け込み寺的な様相を呈してきているライツ・オファリング。
1.ライツ・オファリングは既存株主にもっとも配慮された増資手法
日本では、公募増資とか第三者割当増資などで、既存株主以外の者が有利な条件(時価よりディスカウントされた価格)で増資に応じるのが一般的。他の者に有利な分だけ(発行条件により程度の差はあれ)、既存株主は割を食うことになる。
(快調に業績を向上させ人気化していたペッパーフードなど、あきれるほどの有利な条件での新株予約権の第三者割当を公表。マイルストーンという会社が引き受けたのだけど、濡れ手に粟で笑いが止まらないだろう。その分、既存株主は気の毒なことである。小型株なので、希薄化をものともせず勢いで突っ走るのかもしれないが・・・)
一方、ライツ・オファリングとは、既存株主に新株予約権を無償で割り当て、株主側に新株予約権を行使するか市場で売却するかの選択肢を与える増資手法。まずは、既存株主の判断に委ねようというもの。他の一般投資家が、新株予約権を市場で購入して増資に応じることも可能。
本来、ライツ・オファリングは、もっとも既存株主に配慮された増資手法であり、普通の企業の増資にこそ、もっともっと活用してもらえると有り難いのだけど、あまり進んでいない。
2.他の手法での増資が難しい企業の駆け込み寺に
本来、ライツ・オファリングを用いて欲しい、普通の企業の増資手法としてはなかなか採用されていないのだけど、
債務超過など業績が不振を極めているとか、何らかの理由で上場廃止の猶予期間に入っているとか、そういう通常の手段では増資が困難な企業がライツ・オファリングを活用している事例が多い。
例えば、最近では、
・アルメディオ・・・時価総額基準による上場廃止の猶予期間(ライツ実施後に無事解除)
・メガネスーパー・・・債務超過による上場廃止の猶予期間(ライツ実施とむりやりな増資により無事解除)
・リアルコム・・・実質存続性の喪失(いわゆる裏口上場)で、2015年6月まで上場廃止猶予のうえで再審査予定
・省電舎・・・20年3月期より連続赤字
・小僧寿し・・・4期連続赤字で売上げも減少
・セーラー万年筆・・・19年12月期より連続赤字
まあ、それぞれの企業にとっては資本の確保が切実な課題だし、(いずれにせよ増資するなら)苦し紛れにMSワラントなどで増資されるよりは、既存株主にとってもはるかに良いのだけど、
3.ライツ・オファリング実施後のダメな子たち
ライツ・オファリング実施後に、これはあんまりだろう、という例がでてきている。
〇メガネスーパー
ライツ・オファリングなどで、大型の増資をおこなったばかりなのに、
またもや、今期も赤字が見込まれる分、債務超過に陥らないよう、前もって増資するそうだ。
・行使価額修正条項付き第8回新株予約権(第三者割当)の発行に関するお知らせ
しかも、今度はMSワラント。
MSワラント(行使価額修正条項付新株予約権)は、権利行使価格が高頻度で見直され、常にそのときの株価以下での権利行使が可能なように設計されている新株予約権。割り当てられた者が、時価より安く株を取得し市場で売却 → 株が下がる → 時価より安く株を取得し市場で売却 → 株が下がる の繰り返しになる。既存株主の大きな犠牲を伴う増資手法である(増加する株数が決まっているため、以前猛威を振るったMSCBよりはまし)。
今回でいえば、引き受け者のマッコーリーは、いつでも直前の終値の90%の価格で新株を入手できるのだそうだ(下限36円)。しかも、3日連続で株価が33円を下回れば、マッコーリーはメガネスーパーに新株予約権を発行価格で買い取らせることが可能というセーフティーネット付き。
もう、本業は、メガネを売ることではなく、増資をすることではないか、と笑えるほどのありさま。
メガネスーパーの経営にあたっている投資ファンドのアドバンテッジパートナーズは、まともな会社なはずなのだけど、
やっていることは、”株式市場を食い物にする人達”と大差ない。
〇小僧寿し
こちらは、さらにひどい。
・ライツ・オファリングで取得した資金は、新規出店などに充当すると言ってたけどウソでした。本当は運転資金にあてちゃいました。
・社長が勝手に会社の口座から金を引き出していて、全容が把握できないので決算の提出は延期します。
もはや、上場企業としてのガバナンスが崩壊している。
4.頓珍漢な方向に東証動く
不振企業の駆け込み寺的な様相のライツ・オファリングについて、東証が規制に動くとのこと。
・我が国におけるライツ・オファリングの定着に向けて
2期連続経常赤字とか、債務超過の企業のライツ・オファリングは認めない方向とのこと。
公募増資や第三者割当増資と比較して、ライツ・オファリングは業績不振企業に利用されることが多く、株主の利益を損なっているというのが規制の理由なのだけど、
そこを規制してしまえば、業績不振企業はMSワラントだとか、さらに既存株主の利益を損なう方法での増資に走るだけなのが目に見えるようだ。(業績不振企業だって、手をこまねいて会社整理や上場廃止の道を進むことはなく、増資に奔走するのが企業の本能。)
株主の利益を掲げるのなら、MSワラントとか、そういう悪辣な手法を全面的に禁止するのが先ではないのか。なんか、観察不足というか、想像力の欠如というか、表面だけをなぞって、事態をより悪化させるだけのような。。。
例えば、権利行使価格は、ライツ公表前の株価の9割以上にしてね(増資の必要額に応じ、権利複数個で1株入手)とか、他の規制の仕方があるのではないか。
まあ、こちとら一般個人零細投資家としては、そのときどきの状況の中で最善を尽くすだけなのだけど。