10分でわかるMMT(現代貨幣理論)-基礎や批判をわかりやすく解説 2019-4-30
(参考) 日本の財政が「絶対破綻しない」これだけの理由。MMTが提唱する経済政策の正当性を理解する 2019-12-26 藤井 聡(京都大学大学院工学研究科教授) 東洋経済オンライン https://plaza.rakuten.co.jp/hannpenn/diary/202001170002/ ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 10分でわかるMMT(現代貨幣理論)-基礎や批判をわかりやすく解説 ――――――――――――――――――――――――――――――― MMT(現代貨幣理論)とは何か? 目次 MMT(現代貨幣理論)とは何か? 国は借金をして何をしているのか? 財政政策で何が起こるのか? 物価上昇2%目標の理由 MMT(現代貨幣理論)の条件 MMT(現代貨幣理論)の経済学の位置付けは? ❶. 古典経済学派と近代経済学 ❷. ケインズ経済学 ❸. マルクス経済学 MMT(現代貨幣理論)への多くの批判 MMT(現代貨幣論)はとんでもない理論なのか? まとめ ――――――――――――――――――――――――――― MMT(現代貨幣理論)とは何か? 現代貨幣理論とは、簡単に言うと「国債をいくらでも発行して良い」という理論です。 国債は国の借金です。つまり「国はいくらでも借金したら良いじゃないか」という大胆な理論です。 MMT(現代貨幣理論)とは? 国はいくらでも国債を発行して借金をして良いという考え方 日本は財政赤字が●兆円で、税金を増やさなければいけない 政府赤字がGDPの2倍で危ない といった議論が良くされていますが、そのような議論を全て無視してしまうような大胆な理論だというわけです。 国は借金をして何をしているのか? MMTは、国はいくらでも借金して良いと言う理論ですが、国は借金をして何をしているのでしょうか? 国は、国債を発行して通貨を獲得して、財政政策を行なっています。財政政策とは、公共事業を行なったり、社会福祉を充実させたり、補助金などを出すことで、経済を刺激することです。 例えば、政府の支出で公園や高速道路を作れば、建設業の雇用が生まれます。 政府が積極的に支出を増やして、公共事業等を行えば、多くの雇用を生み出し、景気が上向かせることが可能です。 財政政策で何が起こるのか? 政府が積極的に借金をして、財政政策を行えば景気が良くなります。つまり「インフレ」になります。 インフレとは? 物価の上昇を意味する。供給よりも需要が高まることで価格が上昇する。 政府が定める物価上昇の目標は2.0%です。国際的にも2.0%前後が望ましいとされています。 物価上昇2%目標の理由 なぜ世界的に見ても物価上昇2%を掲げているのでしょうか? その理由は、適度な消費を促すためです。 逆に物価が上昇せずに下落し続けている状況を考えてみます。 例えば住宅を買おうとしていて、来年には5%値下がりするかもしれないと思えば、今買うのはやめて安くなるのを待ちますよね。 物価下落の局面だと、多くの人が買い控えることになります。買い控えると、さらに物価は下がります。物価がさらに下がると、さらに買い控える人が多くなります。 このような悪循環を「デフレスパイラル」と呼び、消費が停滞している状態を表します。日本でも最近までデフレスパイラルに陥っていました。 一方で、物価が2%程度上昇し続けていれば、適度な消費が生まれ経済が安定します。 今買おうとしている住宅が、来年も少しだけ上昇するのであれば、今買っておいても損はないかなと思えます。この適切な水準が2.0%と呼ばれています。 逆に10-20%近く上昇するハイパーインフレの状況になると、値上がりを期待して過剰に消費が刺激され、バブルとなります。日本が経験したバブル経済は、まさに過剰な物価上昇によって引き起こされました。 MMT(現代貨幣理論)の条件 MMTの理論の適用は、いくつかの条件が示されています。 自国通貨を自国の中央銀行が発行できる日本やアメリカにしか適用できない 過剰なインフレに陥らない限り国債をいくら発行しても構わない つまり、MMTは、自国通貨を自国の中央銀行が発行できるのであれば、いくら政府赤字が膨らんでも、新たな通貨を発行して払えば良いと考えます。 また、政府が支出を増やすことで、過度なインフレに陥らなければ、借金をし続けて構わないとしています。 つまり、今の日本は、政府支出を増やし続けていますが、インフレ率2%に到達していないので、全く問題ないと考えます。 MMT(現代貨幣理論)の経済学の位置付けは? MMT(現代貨幣論)は、とんでもない経済学として批判を浴びています。しかし、経済学の大きな流れを見れば、そこまで突飛な理論でないことを理解できます。 経済学の大きな流れについては、下記のリンクで詳しく解説しています。 わかりやすい経済学。古典経済学から近代経済学まで10分でざっくり解説 経済学は、大きく3つの流れが存在します。 1古典経済学派と近代経済学 ミクロ経済学として体系化 2ケインズ経済学 マクロ経済学として体系化 3マルクス経済学 順番に各経済学の主流派閥について解説していきます。 ❶. 古典経済学派と近代経済学 古典経済学と近代経済学は、アダム・スミスによって初めて提唱された理論です。「見えざる手」という言葉に代表されるように、なるべく政府はマーケットに介入せずに、市場に任せておけば、自ずと最適化されてうまくいくはずだという考えです。 後に、ミクロ経済学として体系化されるわけですが、この学問で言いたいことは、人々が自由意志に従って最適な行動をとっていれば、マーケットはうまくいくし、豊かになれるのだから、政府は余計な口出しはしない方が良いと考えます。 ❷. ケインズ経済学 ケインズ経済学は、簡単に言うと、不況時には政府が積極的にマーケットに介入することで、景気をコントロールすべきだと言う考えです。 ケインズ経済学が生かされた例としては、アメリカのニューディール政策があげられます。19世紀のアメリカは長期にわたる大恐慌で、国民の生活も危ぶまれていました。餓死者も当時多く出したほどです。そのような中で、大規模な公共事業を政府主導で行うことで、雇用を生み出し、アメリカ経済を立て直しました。 ❸. マルクス経済学 マルクス経済学は、皆さんご存知のように、社会主義経済の基礎となっています。この経済学は、ロシアなどでの壮大な実験によって、その問題点が浮き彫りになり、現在あまり研究されていません。 よって、経済学の主要な研究分野は❶. 近代経済学か❷. ケインズ経済学かのどちらかの派閥に分かれています。 この3つの経済学の主要な派閥の中で、MMTがどこに属するのかといえば、間違いなく「❷. ケインズ経済学」です。 大胆な財政出動によって、経済を刺激するべきだと言う考え方です。ただし、ケインズ経済学がMMTと大きく異なる点は、いくらでも借金して良いとは考えていない点です。 ケインズは、不況期には大胆に政府支出を増やすべきだが、経済が軌道に乗ったら、増税などによって、それら赤字を賄うべきだと言う考えでした。 MMT(現代貨幣理論)への多くの批判 MMTに対しては、多くの経済学者たちが批判しています。 例えば、経済学でノーベル賞も受賞したクルーグマンは下記のように批判しています。 「債務については、経済の持続可能な成長率が利子率より高いか低いかに多くを左右されるだろう。もし、これまでや現在のように成長率が利子率より高いのであれば大きな問題にならないが、金利が成長率より高くなれば債務が雪だるま式に増える可能性がある。債務は富全体を超えて無限に大きくなることはできず、残高が増えるほど、人々は高い利子を要求するだろう。つまり、ある時点において、債務の増加を食い止めるために十分大きなプライマリー黒字の達成を強いられるのである。」 ポール・クルーグマン(ニューヨーク州立大学、経済学者) 2019年2月12日 ニューヨークタイムスへの寄稿 次は、パウエルFRB議長の批判です。 「自国通貨で借りられる国にとっては、赤字は問題にならないという考えは全く誤っている(just wrong)と思う。米国の債務は国内総生産(GDP)比でかなり高い水準にある。もっと重要なのは、債務がGDPよりも速いペースで増加している点だ。本当にかなり速いペースだ。歳出削減と歳入拡 大が必要となるだろう。」 ジェローム・パウエル(FRB議長) 2019年2月26日 議会証言 著名な経済学者ロバート・シラーさんの批判です。 「パウエル議長が(議会証言で)受けた質問にMMTについてのものがあって、これは最近出てきたスローガンだ。もしも大衆が望むなら、政府はどこまでも財政赤字を無限に続けられるというものだと思うが、これはこのタイミングで出てきた悪いスローガンだと思う。一部の人々にとって政治的には有用なものた。」 ロバート・シラー(イェール大学、経済学者)2019年2月26日 ヤフーファイナンスインタビュー MMT(現代貨幣論)はとんでもない理論なのか? MMTは、経済学の大きな流れから見ればケインズ経済学を乱暴にしたものと言えます。とんでもない理論のようにも見えますが、多くの点ではケインズ経済学と似ています。 ただし大きく異なる点は、ハイパーインフレにならない限りにおいて、政府はいくらでも借金をして良いという部分です。 政府が借金しても良い理由としては、自国通貨を発行できる、自国の中央銀行を持つ国は、万が一の場合は、新たな通貨を発行して、国債を買えば良いと考えているからです。 しかし、ここには大きな誤りが存在します。 三井住友DSアセットマネジメントの記事にもあるように、国債を直接、中央銀行が購入して、マーケットのお金の量を増やすことは財政法第5条で日本では禁止されています。 財政ファイナンスと呼ばれるこの方法は、アメリカでも議論されていますが、この方法が認められない限りにおいては、MMTの実現は困難です。 つまり、国債の購入は民間銀行によって行われますし、中央銀行は民間銀行の国債を買い取ることしかできません。 民間銀行の国債購入は、皆さんの貯蓄によって行われることになるので、政府があまりに借金を拡大していけば、金利が上昇せざるを得なくなるわけです。 まとめ MMT(現代貨幣理論)は、とんでもない理論だと言われていますが、ケインズ経済学をより拡大した理論だと言えます。 MMTの大きな欠陥としては、中央銀行は、新規通貨を発行して国債を購入することは禁止されているという点です。MMTを擁護する人が主張する、国債は中央銀行が印刷して購入するからデフォルトすることがないという理屈は、誤っているということです。しかし、あくまで現在の法律上、MMTは有効ではないとこの記事では主張するにとどめておきます。 ちなみにブリッジ・ウォーターアソシエイツの代表であり著名な投資家であるレイ・ダリオは、政府がMMTへと向かうことは「避けられない」と述べています。 中央銀行から借金という形で政府が支出を増やす、監視し合うことで、正しい政策を取ることができるという「監視型システム自体」が、もしかしたら最適ではないのかもしれません。