♪ 立冬を過ぎた空から烏合(うごう)の声四季をちぐはぐにしたのは誰だ
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巽が丘駅前に「竹内養蜂園」という養蜂業社の店がある。先週書いた喫茶店の二軒隣にあるのだ。
あのドルシネア姫の御尊顔を拝見するためと、花梨を漬けるための蜂蜜を買うこと、それと言わずと知れたウォーキングのための三つの目的のため、いそいそと出掛けた。前回からちょうど一週間経ったところ。
「毎週月曜日。片道7キロのウォーキングコース」と決めてしまおうかと思ったてみたりして。
歩いていて、確かあの辺りに臭木の花が咲いていた、今頃は濃い紫の実がなってるんじゃないかなんて眺めてみるも、遠目ではよく分からない。実も小さくまだ葉も付いているので全く目立たないのだ。「この辺りには幾らでもあるょ」と、他人に言いふらした責任もあって、確認しているわけだ。
やはり白い花の咲く時期にきちんと場所を特定して、記録しておく必要があるなぁ。
途中でこんな竹藪の光景を目にした。
竹が伐採した竹を支えている
伐採した竹を処理するのは大変だが、こうしておけば整理できるわけだ。間引きに切った竹をこうして片づける事が出来るなら、手入れが出来ていない竹藪を間伐するのにも活用できるんじゃないかな。
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14時15分に家を出て竹内養蜂園に着いたのが15時50分。色んな種類が並んでいて、どれにするか迷ってしまう。奥のショーケースにはローヤルゼリーとかプロポリスの文字が見える。
それで、聞いてみた。
「花梨を漬けるんですが、どれがいいですかねぇ」
「安いので良いし、香りも強くない方がいいかな」と用途を説明する。
「もう花梨の時期ですか」
「それなら 、百花か上百花がイイでしょうね」
「漬けるのは初めてなんです。せっかく有るのでチャレンジしてみようと思って」
「百花ってどういうものなんですか?」
「百花は、色んな花が混ざっているんです」
「上百花は、櫨(はぜ)のものです。ここの人は北海道にも行くんですよ」
「櫨蝋を採るやつですよね」
私もローケツ染めをやるのでこの木のことは知っている。最高級の和ロウソクの材料でもあるんだね。
「そう、あの ”かぶれる” やつです」
ウルシ科の植物なのでかぶれることもある。
「櫨に他の花が混じっているので、百花として出してるんですよ」
「色がずいぶん違いますね。如何にも濃厚という感じですね」
「香りは上百花の方が強いですね」
「じゃぁ・・、百花を下さい」
中くらいの大きさの瓶を選んだ。600g入りで、2,370円もする。これでも一番安いやつだ。そりゃああの小さな蜂一匹のが運ぶ蜜の量なんて知れている。丹精込めて、せっせと集めた蜜を頂くのだ、高くて当たり前。蜜蜂さんに感謝しなければ。
「漬ける時に種をよけてしまう人がいるけれど、一緒に入れた方がいいですよ」
「種には薬効が多く含まれてるらしいんですよね」と知ったかぶりの悪い癖。
「半年ぐらい経ったら実を取り出すんでしたっけ?」
「よくご存知ですね」
「一応、ネットで調べたんですょ」
「半年は漬けすぎです。もっと早く出した方がいいですよ」
「あまり長く入れて置くと渋味が出ちゃいますからねぇ」
そう言われても見当がつかない。「じゃあ三カ月ぐらいですか?」
「そうねぇ、目で見て適当に判断すればいいですよ」
「適当にって言われても、初めてですからわかんないですよ」
「漬かってくると水分が抜けて実がぺしゃんこになってきますから、分かりますよ」
その実の様子を頭に描いているのだろう。言葉で説明するのがもどかしそうだが、何となくイメージは伝わって来た。
「今からだと3月末ぐらいかなぁ」
「出来上がったら、発酵しちゃったりするので、保管は冷蔵庫に入れて置いた方がいいでしょうね」
なるほどと、大きくうなずく。
10分ほど居ただろうか。二つ隣の喫茶店へ移動。
おや? あのドルシネア姫がいない。高齢のママさんが一人で切り盛りしている。
ホットコーヒーを注文し、間が持たないので入り口近くの本棚に雑誌を取りに行く。何という雑誌か忘れてしまったが、手作りライフを提唱、アイデアを紹介するような雑誌があったのでそれを眺めていた。
と、隣に座っていたご婦人が声を掛けてきた。
「読んで下さる人がいるなんて、嬉しいです。私が寄贈した本なんですよ」
常連客でもないのにお客さんから声を掛けられるというのは、そうそうあることではない。
「あ、そうなんですか。面白いですよ」
「私ももの作りが好きですし、こういう本はよく見るんです。いいアイデアが見つかったりしますしね」
「嬉しいですわー。誰も読んでくれないと思ってましたから」
「この近くに良い本屋がありましたよね。気の利いた本が置いてあって好きだったんですが」
「ずいぶん前の話ですけどねぇ、もうないんですね」
「もうずいぶん前に無くなってしまって・・」
「私、本屋が好きなんです」
「本はいいですね。本屋がどんどんなくなっていくって、寂しいですね」
「本当に!」「私とおなじ思いの人がいて嬉しいですゎ」
先に来ていた年配の男性が席を立ち、店を出る様子を見たママさんがとても愛想がいい。常連さんなのだろう。「またねー」とか言い合って・・。この店には何か暖かいものが流れている。
私が、毎日短歌を詠んでる事などを話すとご婦人が、
「イツキとかいう人居ますよね。黒田杏子さんの弟子だったと思うんですが」
「なんか色々と取り決めがあって難しいようですね」
「??ああ、夏井さんですね。あっちは俳句ですね」
「制約がある方が却って入りやすいんですよ」
「・・??」
「たとえば、真っ白な紙を渡されて、自由に書いて下さいって言われても困りますよね。好きな花を描いて下さいとか言われると、案外描きやすいじゃないですか?」
「ああ、なるほどね!」
こういう話になると止まらなくなってしまう悪い癖が出て、ついつい余分なことまで・・
「すみません、帰らなくちゃならない時間なので・・」「ありがとうございました。楽しかったです」
「(こちらこそ)ありがとうございました」
こんな会話をしている間に、ふと見るとドルシネア姫の姿が。喫茶店の什器を整えたりしている。
先週見た時と印象が違う。ちょっと老けた感じと言うか、前より5つぐらい上に見える。ポニーテールはそのままだけど髪飾りを付けているし、顔もなんだか大きく見える。
ちらっちらっと、見ると話に見る。別人かとも思ったが、時間が経つにつれて徐々に雰囲気が変わってゆく。どうしてなのか分からないが、最初の印象とは明らかに違ってきている。まじまじと見ては不審に思われるし、出来るだけ無関心を装いつつもどうしたって目がいってしまう。
確認したい。何が? 外見から知り得るすべてのものを。
6時ごろには家に帰る必要があり、もうここを出なくてはいけない。その間20分ほどの出来事だった。レジへ。
やっぱりドルシネアだ。右の頬に黒子があって、それが顔の印象を強くしている。最近、黒子が個性になっている女優やモデルがとても目に付く。そう思っているところなので余計にそこへ目がいく。
口紅が濃い感じ。どうやら前とは化粧が違うようだ。それでかー。
「日曜日が休みなんですね」
「そうなんですよ。日曜休みなんです」
交わした言葉はそれだけ。その短い間に、私は姫の顔を品定めする様な視線を向けていたんじゃないかと、店を出てから少しだけ気になった。
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前回とは逆コース。佐布里池に到着すると橋の上を跨ぐ高圧線の鉄塔にカラスの群れ。薄暗くなってきている5時少し前。今まさにあちこちから集まって来ているところだ。
これから暗くなる直前に森の中へ入って、休むのだろう。ムクドリと全く同じパターンだ。
フラッシュを焚いたら一斉に飛び発ち、大きく旋回してすぐにまた戻って来た。もし襲って来たら・・。多勢に無勢でボコボコにされ、血だらけになって・・・、なんてことは、そうは起こらない。
昔、北海道中山峠の近くの森。カラスが沢山いて、あまりにうるさいので石を投げつけた。二投目に命中して、そこにいたカラスが一斉に飛ぶ上がって、物凄い声で鳴き叫び始めた。至近距離ということもあり襲ってこないかと、そりゃああ怖かった。ヒッチコックの「鳥」を思い出して・・・。
幸い襲われることは無く、じきに静まった。可哀想なことをしてしまったと詫びながら、亡骸は穴を掘って埋めてやりましたよ。カラスを見るとその時の事を思い出す。
16時20分に喫茶店を出て17時50分帰着なので、7キロほどを1時間半。そんなもんだ。往きと帰りは違うコースを取ったが、ほぼ同じ所要時間となった。20,000歩ちょっとで先週より1,500歩ほど少ない。
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そうそう、往きに出会った立派な石垣のある駐車場。やけに目に付き、いかにも何かを誇示している風で呆気にとられた。
桜だろうか、満開のピンクの花木がその脇にあって遠くからよく見える。近づいてみるとお寺の駐車場で、その寺への階段脇に立っている花だった。
満徳寺という曹洞宗のお寺。どうやら四季桜のようで、これだけ立派に花を付けるのは暖かいからなのか? 例年はどうなんだろう。
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