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歌 と こころ と 心 の さんぽ

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2018.11.21
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カテゴリ:読書

♪ 憧れの空中ブランコ揺れてゐるまだ覚めやらぬ浅き夢なり


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 文学青年でもなんでもなかったN氏は最近になって務めて本を読むようになった。
 川端康成の「雪国」を読みたくなって、PCで図書館で検索してみたら児童書の他はこれしかなかった。特別本として一般図書の書架には並べていないものらしかった。横光利一も読んでみたいと思っていたところなので、お誂え向きだと思って予約し、後日取りに行く事にしたのだった。
 それで先日、図書館へ行って借りて来たこの本が、やけに立派で驚いた。菊版のぶ厚いもので第5集にあたり、●川端康成●横光利一●岡本かの子●太宰治 四氏作品が網羅されている。 


  

 天の部分には金泥が施してあり、表表紙にも箔押しの花唐草模様があしらってある贅沢な本だ。



 ●川端康成 伊豆の踊子/禽獣/雪国/名人/山の音/みずうみ/掌の小説 より/弓浦市/片腕 /末期の眼/横光利一弔辞/美しい日本の私
 ●横光利一 日輪/蠅/春は馬車に乗って/上海 /機械/旅愁 第一篇(抄)/微笑/洋灯/新感覚派とコンミニズム文学/純粋小説論
 ●岡本かの子 母子叙情/鶴は病みき/東海道五十三次/老妓抄/家霊/河明り/雛妓/食魔
 ●太宰 治 思い出/富岳百景/走れメロス/東京八景/津軽/お伽草紙 より/トカトントン/ヴィヨンの妻/桜桃/斜陽/人間失格

 これだけの内容を2週間で読むなんて不可能だし、全部読む必要もないだろう。N氏は取りあえず一番の目的である「雪国」から読み始めた。ノーベル賞作家の文章や如何に?
 彼は直前に東野圭吾を2冊を一気に読んだ後、その筋立てと展開の上手さに関心はしたが、登場人物の心が襞の部分までは描けていないと思った。ミステリーなので必然的に人が殺されるわけだが、その殺人の部分での心模様がすっ飛ばされていて、安易に人が死んでゆく感じがどうにも面はゆいと感じている。
 やはり純文学を読まねば! と、遅れてきた文学愛好爺の彼は思うのだった。

 果たして、冒頭の有名な書き出しはもちろんの事、随所にその繊細で奥深い表現が現れてはその言葉の美しさにただただ感心するばかり。これぞ文学だ! これほどの表現の出来る作家は他にいやしない、いや他に知らないと言った方がいいか。大して読んでもいない文学を、何も知らない彼が言える立場にはないのだ。
 
 松本清張の「砂の器」にしてもこの「雪国」にしても、このころの小説の背景は昭和時代が大きなウエートを占めているのは確か。特に戦後は、小説のテーマとなる様々な問題が人々の根底に、幾重にも渦巻いていた。
 翻って現代を見てみると、複雑になり過ぎた上に表面的な情報が溢れ駄々洩れして押し寄せて来る。そんな中で、すれっからしになった感覚が、刺激ばかりを求めて彷徨っている。虚も実も同じ土俵でルール無視の相撲を取っている。

 
 読書家でもないN氏は、同じノーベル文学賞受賞のカズオ・イシグロの「私を離さないで」もつい最近読んだばかり。こちらは現代か近未来の架空の世界を描いている。新旧入り混じってあれこれと味見している彼は、もはや現代を舞台に純文学を書くのは至難じゃないかと思っている。「私を離さないで」のように架空の舞台設定で書くしかないのかと思えて来たりするのだった。
 もちろん、芥川賞は、毎春秋2名の作家(例外もある)を輩出していて、N氏も毎回、受賞作の載る文藝春秋を買って読んでいる。純文学とは言い難いものも多くあって、もはやその純文学という言葉さえ死語になっていくのかも知れないなどと、知りもしない文学について呟いている。

 池井戸潤が『果つる底なき』で第44回江戸川乱歩賞を受賞したあと、本が思ったほど売れないこと訝っていた。自分の小説が急につまらなくなり、目指すべき小説とは何か、面白い小説とはなんなのか・・行き詰まりを感じていた、と。
 ある時、天啓のように閃いたんだとか。それは登場人物をどう書くかという根本的な部分。それまでの小説が詰まらないのは、人と向き合っていなかったからだ、と気づく。登場人物に一人一人に敬意を払うこと。読者はその登場人物の生き様に感動するのだということ。それはストーリー以上に重要なのだと。それを意識して書くようになってから、ベストセラーがつぎつぎと生まれていった、と。

 人物を如何に描くか。純文学に求められるものを果たして人々は歓迎しているのかいないのか。昭和文学全集など今や読む人は高齢者ばかりで、若い人たちには縁遠いものになってしまっているんじゃないか。さすれば当然、芥川賞に求めれれるものも違ってきているということになる。



 N氏は本を書きたいと思っている。
 何の根拠も、手立ても才能も、何もないのに、だ。運動音痴のジジイが空中ブランコをやりたいと言っているようなものだろう。
 ある作家は、構想5年、執筆3年、手直し1年なんて、執念とモチベーションの集積の結果が小説だというようなことを言う。そんなに長い時間をかけていたら命が尽きる。
 写真画像のピクセルをギュギューっと縮小する様に、状況はそのままに時間を圧縮するわけにはいかないものか・・・・・・
 Nさん、それって、小説になるかも・・・東直子さんが書きそうなテーマじゃない?






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最終更新日  2018.11.21 22:52:36
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◆2014年10月23日から「一日一首」と改題しました。
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