♪ 類が呼ぶ柵なんか捨て去って自然と語り酒と遊ぼう
「吉田類の酒場放浪記」でおなじみの吉田類の著書「酒場詩人の流儀」を読んだ。あの酒場で飲んでるだけの顔の大きないかつい男が何者か全く知らずにいたので、心底驚いた。この本は「新潟日報」の朝刊連載にされた「晴時計」「酒徒の遊行」と、夕刊連載の「酒縁ほっかいど」をまとめたものらしい(2011年~2014年)。スペースの都合で文章は短いが、端的に無駄なくまとめられていて小気味いい。
彼は、海外滞在を経てある時期に旅へと関心が移っていき、北海道のすばらしさを知って以来、北海道の雄大な自然と湧き水の虜になってゆく。大雪山に遊び、登山の趣味もいや増す中で全国を飛び回って、主催する句会や仕事の仲間との交流や旅が、人生そのものの柱になって行く。そこに欠かせないのが「酒」というわけだ。
新聞連載を意識しすぎの感があるものの内容は多彩で、旅と酒と俳句はもちろん、山歩きや渓流釣り、映画や音楽、古代史などにも及んで、その守備範囲の広さと博識なことに驚く。イラストレーターが本業という割にはその手の話はあまり出てこない。
「吉田類の酒場放浪記」(BS-TBS、毎週月曜21:00-22:00)
3歳の時に父親と死別。小学生の頃に絵を習い始める。初めて俳句を詠んだのも小学生の時。かねてから憧れを抱いていた京都に小学校卒業と同時に移り住み、中学・高校時代を過ごす。その後ニューヨークやヨーロッパ等を放浪しながら絵を勉強し、シュールアートの画家として主にパリを拠点に約10年間活動。30代半ばで活動の場を日本に移し、イラストレーターに転身。1990年代からは酒場や旅に関する執筆活動を始めるかたわら、俳句愛好会「舟」を主宰。
また登山も趣味にしており、テレビ番組の企画等で山に登ることも多い。「吉田類のにっぽん百低山」など。独身・一人暮らし。「類」の名前は通称(Wikipediaより)。
【目次より】
I 酒徒の遊行
聖なる酔女/危機と向き合う/心が通う瞬間/ファーブルの丘便り/老ハンターの教え/新潟美人論/天使の分け前/イワナの影を追って/幻からの生還/県民性って何だろう/富者の品性/もっと夕陽が見たくて ほか
II 猫の駆け込み酒場
黒潮の匂う岬/揚羽蝶の幻影/翡翠を抱く姫/流氷に乗った天使/天空の落人ルート/被災地の春雨/美しき菩薩の彫像/酔い酔いて雲の峰/夏空に消ゆ/旅人の視点/ディオニュソスの一夜/古事記伝説の地へ ほか
III 酒飲み詩人の系譜
淡雪の夢/月はおぼろに千鳥足/日本海のエキゾチックな風/ああ、愛しのぐい呑み/四万十川の揺り籠に揺られて/星と通信する男/されど大衆酒場考/歌は楽しからずや/酒縁の到る処に青山あり/でも越後の地は麗しい ほか
IV 酒精の青き炎
神々の遊ぶ庭/めざせ北の酒どころ/かっぽ酒にほろ酔う/寒風に挑む“輓馬"/アルプスの日々/民謡は北前船に乗って/酒精の青き炎/北の大地の光と影/妖精の棲む森へ/白銀の愉しみ/祭りのルーツ/春は小走りに北上す ほか |
俳句が載っているのは最初の章だけで、その後は一切掲載されなくなっているのが残念だ。
飼い猫の話が2度出てくる。ほろ酔いで帰宅中に拾った子猫が寂しがり屋で、一人ぼっちにさせられず一心同体で登山や渓流釣りにも同行し、八ヶ岳、東北、北海道と長距離旅をしている。同行した旅行期間は十数年にもなるという。類は友を呼ぶのか。
後年、仕事の事情が変わって猫を残して外泊すると、そのたびに猫は睡眠も食事もとらないことが判明している。オス猫で毛の色から「からし」と名付け、ある時、「1回きりでいいから人の言葉でしゃべっておくれ。神様には内緒だかね」。すると「にゃもらみにゃらむにゃ」と、およそ猫とは程遠い声を発したという。その後、いたずらっ子のような仕草で膝の上から逃げ去って、それ以後は一度もそんな声は出さなかったと。
独身であるがゆえに許されることも多いだろ。「吉田類の酒場放浪記」ではただ酒を飲んで肴をつまむ姿しかない彼だが、この本のガタイに似合わずなんとも人間味のある話の数々。読み終わった後、俳句と酒、登山と旅という、男の愛するものにとっぷり浸かった人生に、こころがが震えるほどの羨ましさが私の体中に広がっていた。奇しくも、私と同じ1949年生まれ。
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