♪ 重ねきし選択の一つに苛まれ今にしなれば一つのさだめ
最近、読んでいる本に「選択の科学」というのがある。ずいぶん前、黒川伊保子氏の本の中に「マジカルセブン」という言葉が紹介されていて興味を待った。それは「選択の科学」という本に紹介されていると。ずっと気になっていたがなぜか先送りしていて、この度ようやく図書館で借りて読むことに。
ジョージ・ミラー心理学教授が論文「マジカルナンバー7 +-2:われわれの情報処理能力の限界」の中で、自分が「ある整数に苛まれてきた」と告白している。
この「選択の科学」の著者が、ライフワークである「選択」の研究で、幼児を対象にした実験をしていく中で「6」という数字に突き当たる。ミラー博士が関心を持ったのは、7という数字と、人間に処理可能な情報量との関係だった。そこからヒントを得て、さまざまな実験をしていく。
そして選択肢が「6」+-2を超えると途端に結果が悪くなることを実証していく。もっとも知られたものは「ジャムの研究」。
スーパーマーケットでのジャムの実験で、「ジャムの品揃えが豊富なときより、品揃えが少ない時の方が、お客が実際にジャムを買う確率が高い。」この論文が発表された時は、世論でかなりの反発が有ったらしい。
しかし、認められるようになっていく。
人には自分で選択したいという欲求がある。選択肢がある状態を、心地よく感じ、「選択」という言葉は、いつでも肯定的な意味合いを帯びている。選択肢が多ければ多いほど良いはずだと思う。しかし、良い面もあるが、得てして混乱し、圧倒されてお手上げ状態になる。
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幼稚園の3歳児を対象にした実験。
部屋に、おもちゃをこれでもかというほど入れて一人ずつ自由に遊ばせる。半分の子どもには自分で自由に選ばせて遊ばせる。一方の半分には遊ぶおもちゃを指定して遊ばせる。
その結果、一方の集団は夢中で遊び、終了時間が来た時もまだ遊び足りなさそうだった。そして、もう一方の集団は、気もそぞろで、あまり意欲がわかないようだった。選択はモチベーションを高めるのだから、おもちゃを自分で選んだ子供たちの方が楽しんだに決まっている。ところが、結果はその逆だった。選択肢が多すぎて、選んでいる内に嫌になってしまった。
小学校1、2年生を一人ずつ部屋に入れて、マーカーを使ってお絵かきをさせる。一部の生徒には二つの選択をさせる。6つのテーマ(動物、植物、家など)の中から1つを選ばせ、それを描くマーカーを6色の名から1つ選ばせた。残りの生徒には、どのテーマを、何色を使って描くかをこちらで指定した。
この結果、自分でテーマと色を選んだ生徒は、作業にもっと時間を掛けたがり、選ばなかった生徒よりも(独立的な観察者の判定によれば)「良い」絵を描いた。
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ラットを迷路に入れて、真っすぐな経路と、枝分けれした経路のどちらを選ぶかのある実験。どちらの経路を通っても、最終的にたどり着く餌の量は同じ。複数回の試行で、ほぼすべてのラットが、枝分かれした経路を選んだ。
ボタンを押すとエサが出ることを学習したハトやサルも、複数のボタンがついた装置を選んだ。ボタンが1つでも2つでも、得られるエサの量は変わらなかったにもかかわらずだ。
別の実験で、カジノのチップを与えられた被験者は、ルーレット式の回転盤が1つあるテーブルよりも、2つのまったく同じ回転盤のあるテーブルでチップを賭けたがった。賭けることが出来るルーレットは1つだけで、ルーレットは3つとも全く同じものだった。
選択したい欲求は自然なこころの動きであり、生き残るために欠かせない働きだからこそ発達した。線条体のニューロンは、まったく同じ報酬であっても、受動的に与えられた報酬よりも、自分から能動的に選んだ報酬に、より大きな反応を示す。
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心理学に軸足を置きながら、経営学や経済学、生物学、哲学、文化研究、公共政策、医学などをはじめとする、さまざまな分野を参照し、多くの視点でつづられていく。
例えば、ミネラルウォーターとして売られているものは、単なる水道水であるとか、コカ・コーラとペプシ・コーラはほとんど同じ味である。イメージ付けされて、違うと思い込んでいるだけだと。
トヨタ自動車でもあったフルチョイスの自動車。ドイツのメーカーにもあって、実験した。選択肢が多いオプションから順に選んでいき、最後は最も少ない選択肢のオプションへ移って終わったグループと、その逆に最も少ない選択肢のオプションから選んだグループ。どちらも同じ8つのオプションで選んでもらった。
結果は、多い順に選んだ方はすぐに疲れてしまい、既定のオプションですませるようになり、結果的に出来上がった車に対する満足度は、少ない順に選んだグループに比べ、低くなってしまった。好みがハッキリしている場合はそれを指針として進められるため、それ以外に集中できる。選びやすいものから取り組むのが得策という事がわかる。
息子(次男)が車選びになかなか結論を出せずにいる。明確な好みがないため目移りして決められないのだ。それで「まずは排気量、そしてメーカー、その次は車種、そして色へ」と「選択肢の少ないもから順に決めていくといい」とアドバイスしてやった。こだわりがあるものが有ればそれが最優先になるのは言うまでもない。
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心理学から病理学、老人問題まで幅広く、権利と抑制などさまざまな例を引いて、7つの疑問に応えるべく論を尽くしている。
*なぜ選択には大きな力があるのだろうか、またその力は何に由来するのだろうか?
*選択を行う方法は、人によってどう違うのだろうか?
*私たちの出身や生い立ちは、選択を行う方法にどのような影響を与えるのだろうか?
*なぜ自分の選択に失望することが多いのだろうか?
*選択というツールを最も効果的に使うには、どうすれば良いのだろうか?
*選択肢が無限にあるように思われているとき、どうやって選択すればいいのだろうか?
*他人に委ねた方がよい場合はあるのだろうか? その場合だれに委ねるべきか、そしてそれはなぜだろうか?
NHK白熱教室でも話題になったらしい、この盲目の女性教授の研究を書籍化した本書は、多岐にわたっていて、その内容を詳しく述べることはできません。
出版社内容情報「社長が平社員よりもなぜ長生きなのか。その秘密は自己裁量権にあった。選択は生物の本能。が、必ずしも賢明な選択をしないのはなぜ?」
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とに角面白い。思い当たることも多いし、選択の可能性を「認識」できることが選択する以上に重要であることも納得できる。子育てに置いても、自由に選ばせることが良いかと言えば、そうではないことも分かって来る。
人生は「選択」を積み重ねることで成り立っている。その背景には複雑な社会のワナが有ったりして、純粋に自己が反映されていなかったりもする。
その時どきの選択によって、進む道筋が作られていく。生理的な、知的な、宿命的な、必然的な、さまざまな反応として種々の選択をして生きている。
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