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カテゴリ:八房之記憶
僕が好きな少女は、携帯電話の中で着物を着て、寸前の笑顔を見せている。
シャッターチャンスが悪かったのか、成人式の着物が居心地悪かったのか、半端な表情に、その少女が生きている実感が伝わってくる。 距離にすれば800km。 いや、恐らくはもっと走ることになるかもしれない。僕と彼女との距離はあまりにも遠く、ともすれば電子郵便でさえも届かないのでは…と不安にさえさせられる。 しかし人間の叡智は、僕の想いを電波に乗せて、彼女のもとへと送り届ける。その時間、実に短し。この遠い東北の地から、彼女の住む南の果てへ。 なんて幸せな時間だ。不安と安心の入り混じった奇妙な関係。 僕は少女に愛を語ることも出来ず、少女は僕の思いも知らず愛しき人に抱かれ、僕は寂しさを紛らわす為だけに他の女を利用しては吐き捨てて、少女は暖かい家で眠り、僕は書き散らかした物語とともに堅いベッドで眠る。 僕たちは、会うことはおろか、口を開いてもいけない。 僕は、少女への想いを新作の映画に載せる。それは決して仕事のためではない。 そして僕は芸術家でもない。そんなたいそうな者にはなれない。 君に、僕の気持ちと悲しみを伝えたいだけ。ただそれだけ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005/10/07 01:15:39 AM
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