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カテゴリ:八房之記憶
長い時間、電車に揺られることなど、そう滅多にあることではない。
何もしない一時間。いても立ってもいられずに、箱チョコレートと粒ミントを買い込み、ふたりがけのシートに腰を下ろす。 「やれやれ」と思いがけずに独り言が飛び出せば、これも公共車両に乗りなれないものだと、一人苦笑してしまう。 警笛が鳴り、いよいよ電車が動き出す。しかし無粋なこの男は、食べ尽くしてしまったチョコレートを悔やむばかりで、外の景色に目もくれやしない。 会議は、隣県で行われた。凡そ三時間半。僕は何度も咽喉が渇くといっては、会議室を後にして、彼女に電子郵便を送る。 「もう少しで終わるから、どこかで会おう。」 「今日はイタリアンがいい。ワインも飲みたい。」 にやけた頬を叩きながら、席に戻る。 しかし会議が進行していくにつれ、僕の両肩に積み上げられる仕事の量に、次第に今夜の予定も沈められていく。 「今シャワー浴びているから。」 彼女から電子郵便が入る。 しかし僕は極上な気分にはなれない。 厄介なことが次から次へとのしかかる。 眉間に皺を寄せた僕は、厄介な仕事を振り切るように会議室を飛び出すと、さっさと電車に飛び乗った。 「どうしたの?今夜は会わないの?」 彼女から電子郵便が飛び込んできた。 「仕事が舞い込んじまった。また今度。電池がもうないから、帰ったら連絡するよ。」 舌打をして、携帯電話の電源を切る。 今から一時間。僕は沈黙を強いられる。 部屋に戻れば、夜明けまでの仕事。そんな部屋に戻りたくはないのだが。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005/10/25 01:09:21 AM
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