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カテゴリ:八房之記憶
いつまでも続く企画書書きの仕事に、珈琲で一杯になった体を動かそうと、ズボンをはいて外を少し歩いてみる。ついでにフランスパンの補充に、少しばかり足を伸ばそうとしたのがいけなかった。車なら往復15分。しかし歩けば、そこは坂の上にある店。
慣れない坂道にふうふう言いながら、それでも坂の中腹まで登りきる。 足はだるく、すでに戻りたい気持ちで一杯なのだが、ここで引き返してしまっては意味がない。 まだ目的地には遠かろうと坂の上を見上げると、50メートルほど先に、半ズボン姿の少年が立っている。奇妙なことに、彼は左手を天高く上げ、そのまま微動だにしない。まるで何かを勝ち誇っているようにも見えるし、誰かを呼び止めようとしているようにも見える。 しかし彼の勝ち誇るべき何かも、また呼び止められるべき誰かも判らないまま、僕は、彼の横を通り過ぎようと歩を早めた。 すると、突然、彼はその腕をブン!と振り下ろした。風が、僕の髪を揺らす。 キュルルルルルル…彼の手から放たれたそれは、高速回転をしながら、ものすごい勢いで飛び出した。 瞬間、それは何もない空間目指して飛んでいってしまうかに見えたのだが、彼とそれをつないでいる紐のせいで、また彼の手元へと引き戻される。 その少年は、驚いた僕の顔を見て、にやり。 そしてヨーヨーをもう一度まわして、にやり。 半泣きの僕は、さらに歩を早める。 バス停には、マリーゴールドの生首が散らばり、明らかにその犯人だと思える老人が口笛を吹いている。 犬を連れている片目の老婆。子供たちの群れ。坂を駆け上がるバス。龍の門と書かれたポスター。シャッター街、シャッター街、シャッター街。 坂のある町に閉じ込められた僕は、もう後には戻れない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005/10/25 09:28:12 PM
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