​​秩父の山へ帰ろう​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​

翌朝、卯三郎親子を連れ立った新吾の行列が通っていきます。馬に乗っている新吾の様子を見て、半十郎がボーっとしている新吾に話しかけます。半十郎の数回の呼びかけにビクッとして返事をします。蜂須賀家から追っ手が出ている油断は出来ない、と新吾が半十郎に話していると、遠くから馬の蹄の音が聞こえやってきました。
新吾は、「お縫が心配するから先に行け」と言い、新吾は追い返して来るといい、追っ手の方に向かって馬を走らせ追っ手の前にふさがります。「蜂須賀の者達だな」の問いに、北川が、主命により笹本卯三郎を引き取りにきたので引き渡してくれ、といってきました。「渡さぬ、と言ったら」新吾が言うと、高井田、加藤、そして佐々らも馬から降り、剣を抜いて新吾を囲みます。
新吾「やむおえん」
馬から降り立ち向かいます。
　
　　　
　　　　　　
すると、途中で「参れ」という声がした方を新吾が見ると、半分の者達が馬に乗って行こうとしています。「しまった」と追おうとする新吾に、由比の鉄砲と高井田、加藤、佐々の三虎が挑んで来ますが、すべてを峰打ちで倒し行列の方に馬を飛ばします。
　
　
　
　　　　　　　　
しかし、新吾が行列に戻ったときには、北川率いる一隊は卯三郎親子を斬り捨て、走り去って行ったのです。
無残な親子の姿を目にし、「これは・・・」と怒りが込み上げた新吾は、
新吾「この道を行ったのだな。・・・よーし」
と言い、
新吾「二人の無残な姿をみては、もはや我慢は出来ん。奴の気は済んでも、わしの
　　　心はいえぬ」
と、お縫や半十郎が必死に止めるのも聞かず、「江戸へ行けなくてもよい」と振り切って、蜂須賀藩の一行を追って行きます。
　
　　　
追いつき、最後の一人北川を斬りました。
　
　

新吾は、十の死骸を見て「斬った、斬ったぞ」とよろこんでいると、自分に自分が問いかけてきたのです。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
「それで気がすんだか、人を斬って気持ちを直すことが出来たか、新吾の剣はこのようなために学んだのか」
　
　　　　　　　　　　　　　　　　
新吾「違う、違う、俺の剣の目的は、そんなところにはない」
　
　　　　　
「そうか、剣の道は目的は道を極めることにある、だが、現にお前のなしたことは」
​新吾「・・・」​

​​​​​
「滝にあたっての修業も、そのような心がけでは、むだなことだ」
新吾「・・・」
　
「愚か者め、縫や半十郎の止めるのも聞かず、折角の機会を失いおって」
新吾「・・・かまわん、・・・ほっておいてもらいたいのだ」​​

​​​​​​​​ 　
「いいのか、・・・父や母に会えなくとも」
新吾「​俺は会いたくない​、父にも母にも会いたくない、俺は将軍の世継ぎになりた
　　　くないのだ」
　
　　　
「ほんとうか」
新吾「ほんとうだ」

「嘘だ、おまえのいっていることはみな嘘だ」
新吾「・・・」
　
「強がりをいっても、ほんとうは恋しいんだ」​

​​　
　　　　　　　　　　　
「恋しくはないか」
新吾「・・・」​​

​​​​​​​　
「そうだろう、恋しくないはずはない・・・おまえは、淋しい人間だな」
新吾「・・・」
　
　　　　　　　　　　
新吾「淋しい、確かに淋しい。・・・わしは自源流の葵新吾だ。かようなことで、
　　　どうして一真を倒すことができよう。・・・庄三郎先生、備前先生、・・
　　　そーだ、秩父の山へ帰ろう、大台ケ原の道場で修業をしなおす」
そう決意した新吾です。
　

　　続きます。



​​​​

​​​

​​​

​

​​​

​​​

​​​​​​

​​​​​​​​​​​​​​​