1.カネミ油症、41年前のレポート
2.カネミ油症、歯のない子どもたち
‥からの つづきです。
会社に責任ないと認めれば 金を支払う
YYさんも、I Kさんも、いわゆる≪起訴派≫に属するが、
起訴した動機について語ってくれた。
『示談にして、十何万円かの金をもらっても、カラーテレビ一台を
買ってしまったらおしまいでしょ。 先行きの短い私たちはよいとしても
子どもたちの将来を考えるとね‥‥大きくなって、
≪とうちゃん、あの時、どうして金をもらっちまったんだよ≫
と 恨まれるようなことになるかもしれませんし』 と。
集落の人たち大半がむすんだ示談契約を要約してみよう。
重症 40万円
中症 30万円
軽症 20万円
★ 小学生以下は、この70%、老人は80%、
すでに支払われた見舞金 何万円也はこの中から差引く。
ただし、右の金は、油症問題につき、会社には何ら法的責任が
ないことを認め、ほとんど治療が必要なくなったものにだけ支払う。
示談金支払い後は、いっさい金の請求はしない。
もし、あなただったら、どうするだろうか。
食卓をかこんだ家族の顔は、みんな≪ばけ物≫のように
黒く、変色し、吹出物ができている。
痛みとかゆみで、夕べは眠ることもできなかった。
背中や肩、首すじからは膿が出て、ただれてしまった。
衣類やシーツにはりついて、寝がえりをうつのも死ぬ思いだ。
けさも、食欲がない。
何か食べなければと思い、口にいれるのだが、むかつく。
油ものは見るのも嫌になった。
遊びざかりだというのに、子どもたちは全く元気がない。
だるそうだ。 はたして、人並みに育つだろうか。
油症にかかってから、両親ともに働くのも不自由になり、収入もほとんどない。
そのうち、子どもたちに弁当をつくってやることもできなくなるかもしれない。
待つのもくたびれた。
赤ん坊にミルクを買ってやらなければ‥
医者にみてもらわなければ‥
大学病院にかかりたいが、交通費もかさむ。
数日がつぶれる。 途中で、食事もしなければならない。
裁判をして、十年も二十年もかかるのでは、とても辛抱ができない。
いや、今ここで示談をむすんでしまったら、将来、どうなるか。
たしかに、金は今すぐにでも欲しい。
一万円でもあれば、どんなにか助かるだろう。
でも、子どもたちが無事に育ってくれればよいが、
もし一生、身動きのできない体にでもなったら、
誰が責任をとってくれるというんだ。
示談をめぐって、被害者たちは分裂した。
カネミ倉庫と示談交渉をすすめてきた≪患者の会≫
会長のMHさんたち役員は、会社から、金やカラーテレビ、
電気あんま器をもらったのではないか、と 噂された。
示談契約をすすめたMHさんは認定患者ではないが、
おくさんが認定されている。
会社から金をもらったというのが、もし、噂どおり本当だったら‥
黒い赤ちゃんを 三人産んだ
家の前に、夏みかんの木が植わっている UYさんのお宅を訪ねた。
≪起訴派≫の会長をしている TMさんに、
『UYさんは、あなた方に会ってくれますかね。
かなり気性の激しい人だし、今までも報道関係者には、ずい分、
悩まされているから‥』 と 言われていたので、緊張した。
UYさんは、三人の黒い赤ちゃんを産んだ。
B浦では、もっとも早く発症したひとりで、テレビなどでもうつされた。
報道人は 極力さけ、TM会長とも ようやく話をするようになったという
UYさんだが、歯のことから始まってポツリポツリと話し始めてくれた。
黒い赤ちゃんを三人も産んだというので、子どもは三人と思っていたら、
まだ上に三人いた。 計 6人。
全員が油症。 油は 6升、食べた。
まっ黒で生まれてきたKくんは、まもなく3歳になる。
胎内にいる時、母親がカネミ油を食べている。
生まれてからも母乳を飲んだから、Kくんの小さな体内には、
PCBがたくさん入り込んでいる。 今でも皮膚が普通以上に黒い。
特に、目のまわりや歯ぐきが目立つ。
お母さんのそばで遊ぶ Kくんは、とてもおとなしい。
話の途中に、となりの部屋で泣きはじめた赤ん坊を、UYさんが抱いてきた。
色がまっ白で、これが黒い赤ちゃんかと思うくらいだ。
町の助産婦さんの話によると、PCBが母乳とか血液などから体の外に
出ているためか、あとから生まれる子の方が少し軽くなっているようだ、という。
なるほど、この赤ちゃんが、下の三人の子どもたちの中では
いちばん元気のようだ。 母乳を飲ませなかったのはよかったと思うが、
母乳を止めてしまわないで出しつづけていたら、あるいは母体から
PCBが、少しでも出ていったのではないだろうか。
そういう指導が、医師や医療関係者などからなかったのは残念だと思う。
母親に蓄積されたPCBが、Kくんたちに移ったことで、
母体のPCBが減少したとも言えよう。
出産によってのみ、人体からPCBが排泄される。
(しかも、胎児に移されることによって)
この事実を、わたしたち女性は何と受けとめるべきであろうか。
医者は 頼りない
医師といえば、現在、医療制度が問題になっているが、この玉の浦に
おいても、油症問題ではたした医師の役割に対する批判は強い。
はじめの頃、町の診療所では油症の診断をうけても、
別な時に、長崎などの教授にみてもらうと、
『油症とは関係ない』 と されることがあった。
これが、たびたび重なるうちに、診療所の医師は
油症と診断することが、ほとんどなくなった。 大学の先生と違う
診断をしたのでは、信用問題だというわけなのだろうが、結果的には、
油症を発生させた会社にとって、きわめて有利にさせている。
また、めったにしか行なわれない検診の時にも、まだ
終わらないうちに、大学から派遣された医師が記者会見をして、
きょうの新認定患者はいない旨を発表したこともあったそうだ。
被害を受けた人たちにしてみれば、この日を待ちわびて
身体の苦痛や、生活の苦しみを訴え、知ってもらおうと、
どれだけ期待をかけているかははかりしれない。
にもかかわらず、医者の方で認定する気がないのでは、
わずかばかりの治療費すらも会社に請求することができない。
B浦とは反対側にある K浦の集落にすむOZさんの赤ん坊は
昨年7月の検診で、心臓に穴があいていることがわかった。
この赤ん坊も生まれた時、黒かった。
検診の時には、すでに黒味は消えていたが、
医者に見せると、即座に異常なしの診断が下された。
OZさんのおくさんは、翌日、助産婦に黒い赤ちゃんだったという
証明書をつくってもらって、再び、検診を受けた。
そして初めて、心臓に穴があいていることがわかったのだ。
このようだから、他にも、まだまだ想像もできない
症状を持つ子どもたちがたくさんいるかもしれない。
歯についても、油症との関係を指摘した医者は、
今のところ いないらしいが、PCBに
カルシウム代謝を不調にする働きがある以上、
油症が歯の発育に影響していることはまちがいないだろう。
不良品とわかっていて離島に安売り?!
へ つづきます。
【カネミ油症のこと】
カネミ油症、歯のない子どもたち‥