カネミ油症五島市の会の宿輪敏子さんが、
3月21日の判決 が 出る2日前に、
裁判長あてにFAXで届けた文書を
載せさせていただきます。
福岡地方裁判所 小倉支部 第3民事部 岡田 健 裁判長へ
岡田裁判長、突然のお手紙をお許しください。
カネミ油症新認定原告団への判決の日を目前にして、溢れる思いを我慢できず、こうして裁判長宛に、私の思いを書き始めました。
この期に及んで、どんなことを書こうと、判決にはなんの影響も与えないことは、重々、承知しております。 しかしながら、どうか、読んで欲しいのです。
私は、6歳でカネミ油を食べ、1970年に認定された宿輪敏子です。
こんなに早く認定された油症患者でありながら、2000年までPCBだけでなく、その何千倍もの猛毒のダイオキシンを食べさせられた事件であったことを知りませんでした。 父も母も、いいえ、ほとんどの被害者が知らなかったのです。
事件発生から7年後には、既にわかっていたにも関わらず、油症研究班も行政も、もちろんカネミ倉庫も、誰も被害者に周知させることはしませんでした。
当初は、全く想定していなかったダイオキシンという猛毒が検出された後も、なんら診断基準も変えず、真の追跡調査もなされず、何事もなかったかのごとく、只ただ、放置され続けてきたのです。
ダイオキシンが主たる原因であることを、私たちに最初に教えてくださったのは、『黒い赤ちゃん』 を かかれた明石昇二郎や、YSCの方々でした。 また、現在も苦しみ続けている油症被害者の実態も教えていただきました。
その頃の私は≪ダイオキシン≫という言葉は、環境汚染物質として聞いたことがあるくらいで、その毒性など全く知りませんでした。 体の不調も疲れやすさも、奇病も、生まれつきの特殊体質かと思っていました。 当時、皮膚症状があった人だけが認定されていたことから、被害者たちは、カネミ油症は、主に皮膚症状であると思わされてきたのです。
しかし、ダイオキシンの人体に及ぼす影響を調べ始めると、私に起きたこと全てが説明がつくことに驚きました。 そして、被害者の聞き取りを始めると、成長期に暴露した被害者の大半が、私と大変似た症状を持っていることを知りました。 また、私とは全く違う症状や、病も、同時に抱えていることも知りました。 しかし、多くを聞き取るにつれて、私とは違うそれらの病が、多くのカネミ油症被害者に発症していることもわかりました。
また、被害者である従姉妹が、その全身的な病を苦にして、『死にたい』 と 言っていること。 黒い赤ちゃんとして生まれ、高校生で白血病のような病で亡くなった少年。 鼻血が止まらずに病院に運ばれた後、亡くなった中学生の少女。 油症を病んで、割腹自殺をした青年のことなど、次々とカネミ油症のもたらした許しがたい悲劇を知りました。
更に、働き手のご主人も亡くされ、自分が毒を食べさせたと、その心の痛みに耐えながら、貧しさと病苦に苦しむ女性のところに、亡くなった子どもや夫の分も含めて≪仮払金を返せ≫という国からの請求文書が送りつけられており、国が被害者を追い詰めているいる現実がありました。 そのお母さんは、か細い声で、「これは、国が私に 『死ぬれ』 と 言っているのでしょうね・・」 と、ポツリと言われました。 私は、このとき、聞いたこの言葉を一生忘れることはできません。
なぜ、カネミ倉庫は支払能力がないという理由で、賠償金も支払わず、医療費の支払いにおいても、実質、国が支援し、こんなにも恵まれた環境で会社を存続させることができてきたのでしょうか。
被害者の中には、自分や家族の入院医療費が支払えず、借金をしてきた人が大勢います。 借金地獄に苦しむべきは、カネミ倉庫ではないでしょうか。 国に莫大な借金をしてでも、裁判で確定した賠償金を支払い、医療費なども誠実に支払うことが、健康を破壊した油症被害者へのせめてもの償いではないでしょうか。
今回は、初めてカネミ倉庫だけを被告にした裁判が行われました。 これまで、カネカや国を隠れ蓑にし、自分の罪と真正面から向き合うことのなかったカネミ倉庫が、この甚大な罪とどのように向き合うのかを、私は見て来ました。 まず、自社の罪を認めようとしない弁護士の卑劣な言葉に、私は大変、驚きました。 過去の裁判で確定されている罪であるにも関わらず、何とか免れようと、あらゆる手段を講じるカネミ倉庫を見て、この上なく空しく、悲しい思いでこの裁判を見ておりました。
カネミ倉庫のこれまでの被害者に対する接し方も、大変、ひどいものでした。
理屈が言える被害者には医療費を支払い、言えない人には支払わない。 強いリーダーがいる地域と、いない地域での医療費の支払い内容も全く違うなど、被害者を完全に差別してきたのです。 私も、過去にそうされた一人でした。 当時の2陣の団長に交渉してもらって、やっと支払ってもらいました。 最近、メディアの注目を集めるようになってからは、誠実を装うようになりましたが、どんなに酷い会社であるか、私は良く知っております。
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カネミ倉庫は、誠実とは程遠い許しがたい犯罪企業です。
なぜ、それまで流通していなかったのに、毒にまみれた油だけが五島で販売されたのか。 福岡では、健康に良いと一段高い値段で売られていた油が、なぜ、奈留島や玉之浦では大安売りされたのか、文書で聞いても、「そのような事実はありません」 と、真実を決して明らかにしません。‥ ( 略 ) ‥
岡田裁判長、どうか、新認定の被害者が、長年、認定されてこなかった無念と、甚大な健康被害をご理解ください。 裁判長が、カネミ油症被害者の人権を侵害するような、あんな酷すぎる和解勧告を出されたとき、私は血の気が引く思いがしました。 なぜ、これまでの医療費が30万円なのですか? 仕事ができなくなった私の従姉妹も原告におりますが、その医療費は莫大です。 働けなくなった補償は、なぜ、ないのでしょうか。
岡田裁判長、被害者の人生を破滅に追い込み、子や孫の人生までも狂わせてしまうようなこの食品公害事件に、どうか、正義ある判断を下していただきますようお願い致します。
ダイオキシン被害の真実がわかってきた今、病のために人生を台無しにされてきた被害者の中には、社会を変えるような裁判を起こさなければ、このようなことがまた起きると、差別を恐れず、顔を出して立ちあがろうとしている勇気ある被害者も現われてきました。
初期の段階では、大変、わかりにくい慢性毒性による食品公害を繰り返さないために、国や企業が有効な対策を講じ、被害者には最低限の補償がなされる仕組みを作るべきだと私は思います。 次世代にまで影響を及ぼす環境ホルモン被害に時効なんて存在してはなりません。
裁判長が万が一でも、カネミ倉庫が主張している≪時効≫を認めるなら、それは、すなわち私たちの子どもたちも含めて、カネミ油症被害者の救済の道を一切、閉ざしてしまうことになりうる大変なことです。 ‥ ( 略 ) ‥
昨年、制定されたカネミ油症被害者のための法律は、甚大なダイオキシン被害に対して、あまりにも貧弱なものであることは、ご承知のことと思います。 超党派の議連の先生方もよく理解してくださっており、3年後には被害者の福祉の向上の面から、この法律を改正することができるという条文を添えていただきました。 この裁判の判決が、3年後の法改正にも大きく影響を与えるものになり得るものであることもご承知ください。
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司法の判断は、後世に良い世の中を残して行くためのものでなければなならないと、私は思っています。 21日には、私も判決を聞きに行きます。 正義ある審判が下されますよう、神に祈っております。
以上、カネミ油症五島市の会 の 宿輪敏子さんが、
判決の出る2日前、裁判長あてに届けた文書です。
宿輪さんの訴えも空しく、判決は ≪棄却≫ でした。
日本の裁判所は犯罪企業を守る所なのでしょうか。
【カネミ油症のこと】
私たち国民は、カネミ油症の判決を どう思うか?