カネミ油症、『排除』 のための検診か?
【その1】 からの つづきです。
全被害者に認定を
厚生労働省 ≪治療研究が目的≫
検診は九州大の医師らを中心に構成され、厚生労働省が所管する研究団体 「油症治療研究班」が
年間2億円の研究費の中から、約7千万円を使って実施している。
古江増隆班長 は 『新たに油症認定されるには、検診を受ける必要があるが、
私たちの検診の目的は、本来、認定患者さんのためだ。
未認定の人を阻むわけにもいかないので受け入れてはいるが・・・』と、
検診の趣旨が未認定患者の救済とはほど遠い現実を説明する。
厚労省の担当者に至っては、
『検診の目的は、認定患者の健康状態を把握して、治療方法の研究につなげること。
未認定の人たちを新たに認定する目的の検診ではない』 と はっきりと線を引く。
こうした研究班や国の姿勢は、認定数に反映されている。
1068年の事件発生のころこそ、一定の認定をした。
それでも被害を出した人の二割に満たない。
その語は 『狭き門』 になる。
昨年度は250人の未認定患者が検診を受けたが、認定はわずか16人だった。
体調不良や差別・偏見への恐れなどさまざまな理由で検診を受けられず、放置されてきた人が圧倒的多数だ。
認定は油症治療研究班の医師らが診定会議で決めるが、その判断に疑問を抱く声も根強い。
15歳で発症し、三年前に認定された 福岡県大牟田市のMYさん(58)は、
『全く信用できない。もう娘には検診を受けさせたくない』 と憤る。
MYさんの長女(34)は皮膚症状や子宮筋腫などの症状があり、
検診では基準を上回る高濃度の血中ダイオキシンが検出されたが、認定されなかった。
『娘は体調が悪いなか、会社を休んで、熊本から福岡まで来て受信した。
13本も試験管に血液を採取されて倒れた。
そのうえ、数値が高くても認めない。
到底、科学的とは思えない』
全被害者に患者認定を
カネミ油症関東連絡会共同代表で、認定患者の前島 太さん(46)は 『自分の血中ダイオキシン類は一般人並に下がった。
もし、自分がこれから検診を受けたとしても認定されないだろう。
油症研究はいまだに途上だ。 科学的証明が不十分なのだから、
本来は被害届を出した全員を認定するべきではないか』 と 話す。
台湾では1979年、カネミ油症と似た油症事件が発生した。
『油症学フォーラム』 を主宰する 元九州大大学院准教授(環境分子疫学)の 長山淳哉氏は、
『台湾では体調が悪い油症患者のもとに医師が検診に出向いている。これが当然あるべき姿だろう。
日本の治療研究班の動きは、被害者の救済につながっていない』 と指摘する。
調査を怠った国にも責任
カネミ油症の場合、司法判断では国の責任が明確に認められていない。
だが本当に国や行政に責任はないのか。
医師の津田敏秀・岡山大大学院教授(疫学)は、
『国や自治体が食品衛生法に違反したことが、カネミ油症の被害拡大の根本的な原因。
重大な責任がある』 と 力説する。
食中毒では通常、原因食品を食べて健康被害が出れば、自動的に患者として認定される。
都道府県には 患者把握の調査が義務づけられ、大規模になれば、国にも調査義務が生じる。
ところがカネミ油症事件では、行政が具体的な対策に動いたのは発生から約半年後。
さらに油症治療研究班に被害調査を一任し、国が前面に出ることはなかった。
『本人だけでなく、いまや子や孫にも被害が出続けている。
現在からでもカネミ油を摂取して健康被害が出た人全員を患者認定するべきだ』
デスクメモ
カネミ油症でも水俣病でも、子々孫々の代まで災禍が続く。
世間の忘却が苦しみを膨らます。
公害事件の最新かつ最大の案件が福島原発事故だ。
他の事件よりひどいのは、国どころか、加害企業の責任すらごまかされている点だ。
責任のうやむやは、将来の救済を直撃する。
逃げ切りを許してはならない。 (牧)
カネミ油症事件
カネミ倉庫(北九州市)製の米ぬか油が原因の大規模な食中毒事件。
油の製造過程で、猛毒のダイオキシンが混入したことが後に判明した。
吹き出物や内臓疾患、骨や歯の異常など症状はさまざま。
本人だけではなく、母体を通じて次世代に健康被害が起きている。
2012年成立の被害者救済法により、認定患者には
カネミ倉庫が医療費の負担と年5万円、国は年19万円を支給している。
認定患者は2210人(5月末現在、生存者は約1600人)にとどまっている。
【カネミ油症のこと】
カネミ油症の出張検診を厚生労働省にお願い 【その1】