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音楽雑記帳+ クラシック・ジャズ・吹奏楽

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2024年10月31日
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カテゴリ:クラシック音楽

最近売り出し中のドミンゴ・インドヤンの指揮するロイヤル・リバプール・フィルの演奏するラテン・アルバムを聴く。
ドミンゴ・インドヤン(1980-)は2021年からこの楽団の常任になり、これまで数枚のアルバムをリリースしている。
彼は有名なエル・システマというベネズエラの音楽教育プログラムで教育を受けた一人。
代表的な演奏家としてはグスターボ・ドゥダメルが有名だが、そのほかにも今売り出し中のカナダのモントリオール交響楽団の指揮者ラファエル・パヤーレ(1980-)もベネズエラ出身で、奇しくも同い年だ。
優秀な指揮者が輩出しているのはベネズエラだけではなく、数十年前からフィンランドで優秀な指揮者が輩出されている(現在も進行中)ことも有名だ。
どちらの国も教育のシステムが優れているのだろう。
ドミンゴ・インドヤンはアルメニア系のベネズエラ人で今回はお国の音楽を特集している。
筆者は髭ずらで眼光鋭い風貌を覚えているだけで、音楽を聴くのは初めて。
ベネズエラの管弦楽曲がまとまって聴けるアルバムは寡聞にして知らないが、今回のアルバムは貴重なアルバムとなるだろう。
全て知らない作曲家ばかりだが、ベネズエラでは重要な位置を占めている作曲家たちのようだ。
20世紀半ばまでの音楽が5曲と2000年代の曲が1曲という構成。
どの曲も映画音楽を聴いているようなカラフルで壮大な音楽で、ベネズエラの風土を感じさせる民族的な香りがあり、とても楽しめる。
南米の作曲家たちの音楽と言えば暑苦しさを連想することが多いが、ここで取り上げられている作品にはその暑苦しさを感じない。
むしろ、そよ風が吹いているような爽やかさを感じる。
これは国民性なのだろうか。
フアン・バウティスタ・プラザ(1898 - 1965)の「Vigilia(1928)」(夜警)はスペインの詩人フアン・ラモン・ヒメネスの詩「El dormir, ¡ay de mí! se me ha olvidado」から着想た、内面の深い孤独感と夜の静寂を描き出している音楽とのこと。
最初こそ静かな曲調だが、途中から劇的な展開となり、おやっと思ってしまう。
木管が多用され、涼やかな弦とのコントラストがまことに気持ちが良い。
レスピーギのオーケストラ曲を聴いているような気分になったのは、彼がローマで音楽教育を受けたことと関係があるだろうか。
エベンシオ・カステリャーノス(1915-1984)は2曲取り上げられている。
「Santa Cuz de Pacairigua」は、グアイレ川沿いの町、グアレナスにあるSanta Cruz de Pacairigua教会で、地域の人々が、サン・ペドロの像を掲げながら、太鼓のリズムで踊り、盛大に祝う伝統的な祭りを描写した交響詩。
ドゥダメルの演奏(DGG)で聴いている筈だが、記憶にない。
宗教儀式や祭りの際に使われるアフロベネズエラの音楽的要素が色濃く表現された活気に満ちて明るい音楽だ。
特に立ち上がりの速い、沸き立つようなリズムが実に素晴らしい。
「El Río de las Siete Estrellas」(七つの星の川)はベネズエラの象徴的な川であるオリノコ川と、その流れに秘められた国の歴史を描写している。
タイトルにある「七つの星」は、独立戦争時代に立ち上がった7植民地州を表す国旗の七つの星(現在は8個)を象徴し、各星がベネズエラの独立にまつわる異なる歴史的エピソードを表している。
この曲は、詩人アンドレス・エロイ・ブランコの影響を受け、先住民の悲しみや征服、布教、新生共和国の誕生、敗北、闘争、そして自由の到達といった歴史のエピソードを描いた作品だそうだ。
夜空を思わせる静かな導入から始まり、劇的な展開を経て勇壮なエンディングに至り、自由を得た喜びが溢れる感動的な音楽だ。
イノセンテ・カレーニョはベネズエラの民族音楽を取り入れた作品で知られるそうだ。
「マルガリテーニャ」は、1954年に作曲された交響詩で、カレーニョの故郷であるベネズエラのマルガリータ島の穏やかな海、砂浜、波の音、海風のそよぎが反映されている。
主題は「マルガリータ島は涙が真珠に変わった」という民謡の一節から着想を得た陽気なテーマだ。
映画音楽のようなストーリ性の感じられる雄大な音楽で、エンディングの剛直な持続力が迫力満点だ。
生で聞いたら、興奮すること請け合い。
アントニオ・エステベスの「Mediodía en el Llano」(草原の正午)は、ベネズエラの広大で静寂な草原地帯「リャノ」の熱さと静けさが支配する真昼の情景を描写した交響詩。
澄み切った高弦の美しい旋律とそれに絡む木管のサウンドが絶妙だ。
アルバムの中では6分ほどの短い曲だが、安らぎが感じられる佳曲だ。
ユーリ・フンの「Kanaima」はベネズエラの先住民ピモン族の伝承に登場するスピリチュアルな存在や復讐の精霊を指し、古代の儀式的な踊りや呪文のような雰囲気の音楽だ。
世界遺産のカナイマ国立公園などの情景もイメージしているとのこと。
同じリズムが続き、旋律がやや粗野に感じられるため、他の曲に比べると幾分単調に思える。
最後に驟雨のような音だけになるが、これはどうやって出だしているのか興味がある。
インドヤン指揮のロイヤル・リバプール・フィルの演奏は、未知の作曲家たちの作品を躍動的で深みのある表現で描き出していて、実に素晴らしい
ということで、ベネズエラの作曲家の作品の素晴らしさを伝える稀有な名盤として、多くの方にぜひ聴いていただきたい。

Domingo Hindoyan:Music From the Americas Vol. I(Onyx ONYX4251)24bit 96kHz Flac

1.Juan Bautista Plaza(1898–1965):Vigilia(1928)
2.Evencio Castellanos(1915–1984):Santa Cuz de Pacairigua(1954)
3.Inocente Carreño( 1919–2016):Margariteña(1954)
4.Evencio Castellanos:El Rio de las Siete Estrellas(1946)
5.Antonio Estévez(1916–1988):Mediodía en el Llano(1950s)
6.Yuri Hung(1968-):Kanaima(2004)

Domingo Hindoyan
the Royal Liverpool Philharmonic Orchestra

Recording: Liverpool Philharmonic Hall, 8–12 July 2023





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Last updated  2024年11月06日 22時15分33秒
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