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吾が輩は野良猫である

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カテゴリ:ニュース

 

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 22日正午、日米通算4,000本安打を達成した「イチロー」の偉業を伝えるニュースで沸き返っていたその矢先に飛び込んで来た一報は俄かに信じ難い内容のものだった。

 「今入って来たニュースです…歌手で宇多田ヒカルさんの母親の藤圭子さんが西新宿のマンション敷地内で倒れているのが見つかり、病院へ搬送されましたが、間もなく死亡しました。関係者によれば、飛び降り自殺を図ったものと思われます。」

 このニュースを聞いた時、わたしは8年前の記憶が生々しく蘇って来たのである。うつ病を克服し、社会復帰を果たしたばかりのわたしは西新宿にある某リース会社に勤めていた。

 昼食を摂る為に外に出てみると、青梅街道沿いにTBS、朝日、日テレ等の報道車が一直線に並んでいる光景が眼に飛び込んで来た。ただ事ではない騒然とした気配に、ビルの窓から身を乗り出して様子を伺っている人も多く見受けられた。

  会社に戻りヤフーで調べてみると「ポール牧自宅マンションから飛び降り自殺」の文字が踊っていた。当時のお笑い番組では高視聴率を維持していた「エンタの 神様」にゲスト出演し、「指パッチン」を披露していたばかりだったが、仕事が減り始めた事で悩みうつ状態になりその果ての結果だった。

 人に笑いを提供し元気を与えてくれる「お笑い芸人」その本人が仕事で追い詰められ自ら命を絶つと言う何ともやりきれないニュースであった。

 そして奇しくも同じ場所、日時までもがポール牧さんの時と状況が酷似しており、偶然とは言え巷では同居していた30代男性との関係や他殺説まで飛び交い始めているようだ。

 1969年に「新宿の女」でデビューし、18歳とは思えぬ「大人の女」の魅力と心の底から振り絞るようなハスキーボイスが印象的で、まさに彼女の歌声は「怨歌」だと音楽関係者を言わしめた昭和を代表する歌手の一人であった。

 華やかな芸能界にあって、どこか影の部分も併せ持つ所なども彼女の人気を支えていた。70年に発表した「圭子の夢は夜ひらく」が空前の大ヒットとなり、一躍トップスターに踊り出る事となったが、それ以降も話題の絶えない歌手人生を送っていた。

 わたしは「自殺」と言う言葉に人一倍敏感であるが、それはわたしの母が福島の地で服毒自殺をしている影響が大きい。そしてわたし自身も過去に一度だけ自殺未遂を経験している。

  2003年の丁度今頃の季節だったと記憶している。うつ病になりかけていたわたしは、何日も眠れぬ夜の中でもがき苦しんでいた。睡眠障害はうつ病の最も典 型的な症状であるが、当時のわたしはそれを病気と認めたくなかった。つまり自分は「うつ」ではないと決め込んでいたのである。

 それは病気の悪化を招くばかりで、己との葛藤の日々は家族や周囲の人たちも巻き込み、押し寄せるストレスの波に呑み込まれて行くばかりであった。

 家族全員が静かに寝込んだ深夜、処方されていた抗うつ剤と睡眠剤を水ではなくウイスキーで飲んでしまったのである。しかもストレートでコップ一杯分を一気飲みであった。

 アルコールと一緒に睡眠薬を飲む事は非常に危険を伴う事を承知していたが、眠れぬ辛さがそれを上回っており、耐え切れずにアルコールに手を掛けてしまったのである。

 芸能人仲間の間での藤圭子さんの評判は、「忍耐強い」と言う事であったが、それは日本人特有の性質で「美徳」とさえ捉えられている。然し、その裏を返せば「ストレスを内に秘める」体質と言うことになる。

 日本人の自殺者が年間3万人にも及ぶのは、この「内に溜め込むストレス」が要因の一つともなっているのではないだろうか。

 健康体であるならば、スポーツで汗をかいてみたり、好きな趣味に没頭する時間を持てればそれがストレスの捌け口となり、健康的な日常生活を送る事が出来るだろう。

 人は誰しも光と影の部分があり、普段は表向きの昼の顔、然しもう一つは人に知られたくない夜の顔。芸能界と言う世間一般とはかけ離れた別世界では、その二つの顔が顕著に現れ、時には自分自身を破滅の道に追い込む危険性をも孕んでいるのかも知れない。

 謹んで藤圭子さんのご冥福をお祈り申し上げます(合掌)。






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Last updated  2013.08.27 18:11:31
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