ゴースト 第2章 [命を継ぐもの]
「佐藤先生」新入生の担当クラスの名簿の中に忘れられない名前があった。それを見たとき、彼はやはり心の揺れを覚えずにはいられなかった。「高橋 悟」・・・同姓同名か・・・。彼はアパートの窓を開けて、4月の空気を身体に憶えさせるかのように深呼吸をした。「花冷えというのかな?」迷子になった冷たい空気は彼の鼻腔を刺激して、季節の変わり目であることを意識させた。ふっ~と吐く息はもう白く空気を染めることはなかった。4月の夜空も変わり行く季節を彼に教えるように、星の位置を変えてゆく。早いものだな・・・お前が亡くなってから・・・もう8年か。生まれたばかりの子供でも、もう小学生になるんだなぁ~。俺も年を取ったよな。(笑)あれから・・・俺は・・・生まれ変わったと想う。マスコミがお前を英雄扱いするものだから、陰口を叩く奴まで出てきてしまって・・・俺はそんなことを言わせないためにも変わる必要を感じた。お前の死を決して汚してはいけないと想った。お前の死を無意味なものにするわけには絶対いかないと。・・・今想えば少し自意識過剰だけど・・・だけど目標を持った人間は強くなれるよ。お前のおかげで俺は勉強にスポーツに、それこそヒーローになるために頑張ったよ。俺はお前のおかげでこういう人間に成れましたって言ってやりたくてさ・・・バカみたいだろ。俺は何のために生まれてきた?あと何年生きていられる?死ぬまでに何をする?何をしたい?・・・お前のことを考えて、考え抜いたよ。そして自分の好きなこと、自分のやりたいことを見つけるために何でもやった。まぁ、それもヤッパリお前のことが影響したよな・・・良い意味でさ。迷いが無いって幸せだよな。目標のない勉強は身体に毒だと思うけど、やりたいことがハッキリしていれば嫌な勉強も堪えられるよ。お前のことを考えて、お前の姿を見つめていけば、俺は何でも出来るのかも・・・ちょっと依存症か?(^^)俺はね、子供達のために役に立つ人間になりたいと思ってさ。そのための勉強もしたし資格も取った。ここまでわき目も振らずに一生懸命走ってきたよ。でもこれからだ、すべては。俺は頑張るよ、お前の分まで、お前のために。星が瞬いて彼の言葉に微笑んでいるようだった。****************************************「あの先生、ちょっとかっこいいわね。」「どれどれ・・・。あらっ、本当ね。先生にしておくのはもったいないわ。」「そうそう、誰かに似てない?ほらっ、TVに出ていた・・・?」「そうね・・・OXとか?」「・・・年がバレルわよ。」佐藤先生を見たお母さん達が騒いでいた。その横でお父さん達が苦虫を噛んでいた。(笑)入学式が終わった後、クラスのホームルームが行われた。連絡事項の説明が終わった後、佐藤先生は話し始めた。「みなさん、入学おめでとうございます。これから新しい生活が始まります。先生はみなさんと一緒に勉強したり運動したり、遊んだりしていきたいと想います。どうぞ仲良くしてください。」「は~い!!!」「みんなお利口だね。それでは先生が今から話すことはちょっと難しいかも知れないけどちゃんと聞いてくれるかな?」「は~い!!!」昔、先生は一番大切な友達を事故で亡くしました。彼はどうして自分が死ななくちゃイケないのか分からなかったと想います。でも先生はその友達のおかげで命があります。先生は彼に助けてもらったこの命を大切にして生きなければなりません。彼の分まで・・・それ以上のものとなるように・・・努力して生きなければなりません。それが先生の使命です。人間は生まれてくる時は何も持っていません。そして死ぬ時も何も持っていけません。持っていけるのはカタチの無いものだけです。どうか心の中に宝物をいっぱい持つようにしてください。家族や友達や好きな人を大切にしてください。かけがえの無い宝物なんです。どうかそのことを忘れないでください。先生も友達のことを死ぬまで忘れません。彼に対して恥ずかしくない人間として生きていきたいと想います。いつまでも僕達は友達のままなんです。みなさんにも是非そういう友達を作って欲しいと想います。そうしてみんなと仲良くして欲しいと想います。それが先生の願いです。・・)続く。