テーマ:東海テレビのお昼ドラマ(184)
カテゴリ:昼ドラ
翌朝の未明。
千津さんの呼ぶ声と、部屋の扉を強く叩く音とで俺は目を覚ました。 シャツを羽織ながら扉を開けると、真っ青な顔色をして千津さんが言った。 「サロンが荒らされてるの!」 とりあえずの身支度を整えてサロンに向かうと、 調度品や骨董品、そして時計など全ての金目の物がごっそりと無くなっていた。 千津「さっき岩田さんも来て、仕入れ業者に渡す為に用意しておいた50万円が無くなってるって。 何て事かしら、昨日は鍵をちゃんと閉めたはずなのに・・・」 槐「だんな様には?」 千津「槐さんの前に知らせたから、そろそろいらっしゃるかと」 槐「では、私は車庫を見て来ます。車が盗まれてるかもしれない」 サロンを出ると、レイさんがやって来て言った。 レイ「私の加奈子が荷物ごとそっくり消えちゃったんだけど、何処にいるか知らない?」 槐「・・・加奈子さんが?」 俺は思い当たる節があり、車庫へと急いだ。 不破専用のベンツやBMWは無事だった。 しかし、国産車が一台消えていた。草太がいつも載っていたオフロード車。 単なる物盗りなら、この中から国産車だけを盗んでいくわけはない。 俺は夕べの草太の言葉を思い出した。 目を輝かせて草太が言った言葉・・・ 『命を賭けられる女がいるって事はすごく幸せな事だと思わない? 一緒に地の果てまででも行ける、そんな女に出会う確率なんてそうそうないと思うんだよね』 消えた車のあった位置に、その車に付いていたはずのナンバープレートが落ちていた。 俺はボートハウスの扉を開けた。 草太の大切にしていた、ロシニョールのボードが消えている。 夏だと言うのに、スノーボードを持ち出す理由は無い。 俺はつぶやく。 「・・・馬鹿なガキだ。そんな感情はまやかしだと、きっとすぐに気付くはずなのに」 サロンに戻ると、草太と加奈子を除いた山荘の住人が全員集まっていた。 その中で、類子が中央に立って一人後ろめたいような顔をしていた。 槐「失礼します」 敬吾「ああ、お前どこに行ってた」 怒りをこらえてソファに座っている不破に、俺は報告した。 「車庫を調べましたら、車が一台ありません。いつも草太が乗ってた車です。 念のため彼の部屋を見てみたら、彼の持ち物も消えています。 加奈子さんの姿も見えないようですし、あるいは二人で・・・」 千津さんが顔色を変えて言う。「草太が?あの女と?」 敬吾「今すぐ警察だ。すぐに通報しろ!」 千津「ちょっと待って下さい!これは何かの間違いです!」 敬吾「いいから早くしろ、槐!」 千津さんは不破の前で頭を下げる。 「お願いします、だんな様!」 その時、類子が声を発した。「お待ち下さい!」 類子の声に驚く一同。類子は申し訳無さそうに口を開く。 「・・・私、嘘を付いていました。 部屋から盗まれたというネックレス、実は私が草太さんに差し上げたんです。 ですから、どうしても警察に届けるというなら私も同罪です。 私はあの二人が何をするか承知の上で、黙って見逃したんですから。 まずは私を警察に突き出して下さい」 レイさんが、そして千津さんが驚く。 敬吾「面白いじゃないかよ。槐、警察だ!」 不破「うるさい!じゃあ何か、あんたはわしが買ってやったあのネックレスを、 草太に惜しみなくやったと言うのか!」 類子「そうです」 不破「あのネックレスがいくらだか知っとるのか」 類子「いいえ。でも、あの石の数と大きさだと、2000万位かと」 不破「3000万だ」 千津さんの顔色が真っ青になる。 不破「それが分かっとってくれてやるとは、欲のない女だ」 類子「申し訳ありません」 不破「もういい。この件はこれで終わりだ。警察には知らせるな」 不破は立ち上がり、部屋を出て行った。 千津さんがその場に崩れ落ち、岩田さんが千津さんを労わる。 敬吾「槐、警察に通報しろ。この際この女にギャフンと言わせてやる」 レイ「およしなさいよ。仮にも貴方の義理の母親なのよ」 敬吾「誰がこんな女!」 槐「レイさんの言う通りだと思います。 警察沙汰になったら、敬吾さんと澪さんの結婚に差し支えますから」 「・・・くそっ!」悔しそうな敬吾。 不破が本社での会議に出席する為、俺は玄関に車を回した。 玄関の中に入ると、そこには不破と類子、川嶋さん、そして項垂れた千津さんが立っていた。 槐「車の用意が出来ました」 不破「夕方には戻る」 川嶋さんと共に不破が出掛けて行くのを、類子と千津さんが見送った。 後部座席のドアを開けると、不破は座りながら俺に言った。 「草太と加奈子が出来ておったという事か。沢木、お前知ってたか?」 槐「薄々と気付いていた程度ですが」 不破「まあ、いい。俺には興味の無い事だ。 虫けら共が鼻くそを持って出て行った。それだけの事だ」 不破を見送って玄関に戻ると、千津さんが嬉しそうに類子に頭を下げていた。 千津「これまで以上に私も精一杯お勤めます!では、仕事がありますので、これで」 類子「ご苦労様」いそいそとその場を去る千津さん。 俺は類子に近づいて言う。 槐「息子をだしに親を手なずけるとは、たいしたもんだ」 類子「これで虫入りスープを食べる心配はないわ」 槐「それにしても草太の奴、車から足がつかないよう 偽造のナンバープレートまで用意していたようだ」 類子「意外と知恵が回るのね。 おかげで加奈子さんもいなくなってくれて、警察どころか感謝したいくらいだわ」 槐「3000万のネックレスも惜しくはないか」 類子「まあね」 俺と類子は顔を見合わせて微笑んだ。 部屋に戻ろうとワイン蔵の扉に手を掛けると、中から人の話し声が聞こえてきた。 それがレイさんと敬吾だと分かると、話し声がよく聞こえるよう俺は中に足を進めた。 悔しそうな敬吾の声。 「親父の奴。あんな女に3000万のネックレスとはな。 生きてる間、楽しい事が一つもなかったお袋を思うと、はらわたが煮えくり返りそうだ!」 籠のワインがぶつかり合って音を立てる。 レイ「ワインを壊さないでよ。高いんだから。 それにしてもあの女、草太に気前よくくれてやるなんて。 それが本当なら、よほど人のいいバカか、ずば抜けて悪賢いかどちらかね。 それを確かめる為にも、いっそあの女と仲良くしてみてはどう?」 敬吾「・・・仲良くって?」 レイ「決まってるじゃないの。義理の息子の貴方と過ちでも犯してごらんなさい。 人のいい馬鹿なら罪の意識に耐え切れず自分から出て行くでしょうし、 悪賢い女なら敵に回そうなんて思わず、さっさと貴方、相手の懐に飛び込んじゃいなさい。 いずれにしても、貴方に損はない」 敬吾「なるほど」 レイ「幸い、今日は恒大さんもいないことだし。やるなら早いうちよ」 俺はワイン蔵を出て類子に電話を掛けた。 敬吾達の企みを類子に知らせると、類子は意外に冷静な声で言った。 「ふーん。なら、簡単じゃない。向こうは夕方までに仕掛けてくるんでしょ? だったらこっちからおびき出してやる。 槐、澪さんに電話を入れてくれる?きっと、貴方にとってもまたとないチャンスよ」 また勘違いか、という思いが頭を掠めるが、そんな事はどうでも良かった。 今は目の前の問題を解決するのが最優先だ。 俺は類子に言われたように、千津さんに真紅の薔薇を沢山買ってくるよう伝えた。 昼下がりの日差しがカーテンを隔てて柔らかくバスルームに舞い降りる。 類子が薔薇の花びらを敷き詰めたバスタブに、薔薇のエッセンスを垂らしていた。 その光景を見て俺は言う。 「薔薇風呂か。その昔、クレオパトラが永遠の美を求めて愛用したと言う。 カエサルでさえ堕ちた香りだ。きっと敬吾もあっけなく堕ちるだろう」 類子「当たり前よ。私は敬吾なんかよりもっと大きな敵を相手にしてるんだから」 類子は振り向いて言う。 「そろそろ入るから出てって。不破の部屋ででも事の成行を見守るのね」 (2/2に続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 15, 2007 09:21:19 PM
コメント(0) | コメントを書く
[昼ドラ] カテゴリの最新記事
|
|