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ひよきちわーるど

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2006.03.09
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カテゴリ:娘に

いぬふぐりはこべぢしばり春の野を

      おほふこまかき花のかずかず


                久我田鶴子






ちょうど11年前の今頃
産院からの帰り道にイヌフグリの花を見つけ
「・・・もう春だな」と思ったことを覚えている。

土手や畦道に群れて咲く その蒼さ。

「星の瞳」との異名の通り
その蒼い瞳をまたたかせているかのよう。





結婚前、夫から「露草のようだ」と言われたことがあり
(誰ですかね 笑っているのは)

それから夏が巡るたび 
露草を見ては胸をときめかせていたものだけれど

最近になり どうやら彼は
「イヌフグリ」を「露草」だと思いこんでいたことが判明(笑)。


露草を見るたびに胸をときめかせていた この十数年にも及ぶ想いを
一体どうしてくれるのだと思ったのだけれど

道端に咲くこの小さなイヌフグリの花を見て
彼の目に 私はこんな風にうつっていたのかと思った。






・・・・11年前の春の日
道で見つけた小さな蒼い花が心に残り

以来、その花を見るたびに
あたたかな春の陽光、土埃、春の風が思い起こされ 

そして その時まだお腹にいた
今は10歳になる我が子が思われるのだ。





月満ちて生まれてきた娘は昼夜逆転。
大のミルク嫌い。
一晩中の夜泣き。人見知り。

昼夜逆転も数週間などという可愛いものではなく、約1年続いた。

ミルク嫌いならば母乳を飲ませれば良いではないかと
なるところだろうけれど 
私は母乳の出もそれほど良くはなかったのだ。

一晩中泣き続けるわが子を抱き 
睡眠不足のため意識は半ば朦朧としており

子育てというものは理論通りになるものでは決してないこと、
これまで積み重ねてきた知識など何の役にも立たない、
いのちを預かるということは何と重いことか ということ、

その時の私を支えていたものは
せっかく生まれてきてくれた我が子を
絶対に守り抜こうという思いだけだった。




大のミルク嫌いの我が子は、哺乳瓶を見るなり大泣き。
絶対にミルクを飲もうとしないのである。

このままでは栄養不足になってしまうと思い
とにかく母乳を飲ませようとするのだけれど なかなか出ないのである。

やがて2時間も経つ頃には母乳を飲むのにも疲れ果て
娘は泣き寝入りをしてしまう。

その寝入った頃に 左手で娘を抱いたまま
右手でミルクを作るのである。

不思議なことに 寝入ってしまうと
無意識のうちに哺乳瓶のミルクをごくごくと飲んでくれるのだ。

「眠っているときがチャンスだ」と勇んでミルクを作り
まどろんでいる娘の口に哺乳瓶を入れるのだけれど
タイミングが少しでも悪ければ 彼女は「ピクッ」と起きてしまう。
そしていつもの大泣きタイムの到来なのである。

大泣きする娘にまたもや母乳を上げ
そして2時間経過し 再度そーっとミルクを作る。

一晩中その繰り返し。




それまで生きてきた中で最も大変で 最も体力を必要とし
そして自分がどんな人間なのか とことん考えさせられた数年間だった。

昼も夜もないそんな生活のなか
1人のいのちを預かることの何という重さ。
そしてちからづよさ。




慢性的な睡眠不足と疲れの中
それでも、わが子の泣き声をきくと
たちまちのうちに胸が張ってくる。

こくこくと母乳を飲む我が子を見て
・・・・今、私は「春の季節」を生きているのではないか とふと思った。




万物をはぐくむ春。
生きとし生けるものが声を上げ 天に向かう春。

1人の命を守り 懸命に育てていく行為そのものが
まさに「春」のようだと思った。



生まれた時あんなに細かった腕も脚も
日を追うごとに大きくなっていく。

睫毛も生えていなかったのだけれど
いつの間にか生えそろっている。

気付けば 首周りも太く大きくなり
抱っこするたびにその重さが腕に伝わる。




まるで 時が来れば芽吹き 花を咲かせ
いっせいに葉を茂らせていく大樹を思わせた。

子どもはそのいのちの中に
つよい生命力を秘めているのだと感じた。






今でもイヌフグリの花を見かけると
あの頃のことが懐かしく思い出される。



産院にて「順調ですよ」と先生に言って頂き
胸に灯りのともった思いで帰途についたあの日。

初めて歩き始めた1歳の娘の手を引き
横断歩道を渡った春の日。

「ひとりでありゅく。」と言って
私の手を振り払った2歳の我が子。



あんなに小さかった子が
今では畑に向かう畦道でイヌフグリの花を見つけ
「可愛い花や」と言っている。

「ママ、畦道から落ちひんように
 気をつけて歩かなあかんで」と気遣ってくれる。






娘に。

あなたがいくつになっても
その中に まだ小さかった頃の面影が見え隠れしている。

その目元に 仕草の中に。



あなたが私のもとに来てくれたことで
私の人生はどんなに豊かになったことだろう。

あなたは一体どこからやってきたのだろうと
思うことがあるのだよ。




この春の花 イヌフグリ。
ママが「地上の星」と秘かに呼ぶその花とともに

あなたはこれからどれほど多くの春を迎え
思い出を築いていくのだろう。












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Last updated  2015.10.29 10:40:38
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