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ひよきちわーるど

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2006.03.21
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カテゴリ:短歌

大和はも歌の渚ぞ打ち寄する

     声なき声に樹も山も歌


           櫟原 聡





数多ある現代短歌の中でどの歌が最も好きですかと問われれば
迷うことなくこの歌を挙げることと思う。

全ての歌を読んだわけではもちろんないので
(もしかしたら今後変わっていくのかもしれないけれど)
現時点においてはこの櫟原氏の歌が最も好きである。

好きというと語弊があるかもしれない。
むしろ どうしようもなく惹かれると言った方が正しいだろうか。







春の日にようやく花開く桜花。
その花を意識し始めたのはいつのことだったかと思う。



・・・・8歳になったばかりのちょうど今頃の季節。
交通事故による4ヶ月もの長い入院生活を終え
ようやく我が家に戻ってきた頃のことだった。

事故に遭う前にはあれほど速く走ることができたというのに
治療のため 今では右脚の方が少し長くなりスムーズに歩けなくなっていた。

そして右手には 正視できぬほどの傷跡が残ってしまった。




学校に行っても、4ヶ月間のブランクはまことに大きく
やがて皆の勉強に追いつくことは出来たのだけれど
まるで浦島太郎のような気持ちだった。

階段の上り下りにもお友達が気を遣ってくれ
そして重いランドセルを持ってもらうこともあった。

みんなに申し訳なく また有り難く
いたたまれない気持ちになっていた。






桜の美しさに出逢ったのも そんな時のこと。

幼い頃に通っていた小学校は城跡に建っており
大手門が学校の正門になっていた。

大きな石の階段をのぼり
苔むした石垣を眺めながら敷地の一番奥にある校舎まで。

学校の裏には搦手門も残されており
運動場の隅には鐘突堂が建っていた。




大きな石垣の上には桜の木々が立ち並び
春になるたびに美しい花を咲かせていた。

風が吹くたび
桜の花々がいっせいに舞い散っていく。

風の強く吹く日にはまるで吹雪のように。
穏やかな風の日には 淡雪のように。


石垣の下から桜の木々を眺めるのが好きだった。
飽かず眺めていた。







4ヶ月もの入院生活のなか 実に多くの人々に出会った。

優しく助けて下さった人。
本好きの私のために 本を読むための台を作って下さった人。
(当時ベッドに固定され身動きが取れず 唯一の楽しみが読書だった)

実の親のお見舞いに来て「早く死ね」と罵った人もいた。
前日まであんなにお元気だったのに急にお亡くなりになった人も。

夜中と言わず早朝といわず「家に帰りたい」と泣き続けた人も。

4ヶ月もの間 余りに多くの人に出会い
そしてまた余りに多くの出来事にぶつかって
私自身、少し驚き 疲れてしまったのかもしれない。



自分の右手に目を落とせば 事故の前にはなかった傷跡。

・・・正直に書けば
8歳とは言えどやはり女性としての心は既に持ち合わせており
これから先、あまりお洒落など出来ないなという思いと
何とも言い表すことのできない気持ちとでいっぱいになっていた。








幼い頃を過ごした飫肥城跡の桜は
そんな時に出逢った花だった。

花びらが風にのって柔らかに舞い降りた。
石垣の下から飽かず見上げる私を優しく見つめ返してくれていた。




・・・入院中様々な出来事に遭い
退院したあとにも何かと不自由な状態であり
ましてやお洒落など到底望めない状況でもあった。

そんな時 祖母は私の右手を見ながら
「心はきれいでいなさい。」と励ましてくれた。

お友達が「○○ちゃん、つよいね。」と言ってくれた。




自分に降ってくる桜の花を受けとめながら
その花びら1枚1枚が まるで人の優しさのかけらのようだと思った。

周りの人々の1言1言が花びらとなって
その時の私を温かく包んでくれていた。




桜はその散り際の潔さをよしとされていた時代もあったけれど
本来 あくまで生き抜いていこうとする象徴であった。

確かに他の植物に比べ花の時期は余りに短い。

けれど花の散ったそのすぐあとから
来年咲くべき準備を既に進めているのである。

冷たく厳しい冬を乗り越え
その無骨な感じの幹からあれほどまでに美しい花を咲かせる。

再生と死の姿を
繰り返し私たちの前に見せてくれているのだ。










大和はも歌の渚ぞ打ち寄する

         声なき声に樹も山も歌






大和の国誕生以来 繰り返し打ち寄せる波の如く
数多のうたびとが現れ出でては「和歌」を守り続けてきた。


歌に優劣などありはしない。

生きゆくものみな
我が生を高らかに詠いあげるという一点において
生まれ出る歌全て 珠玉の宝である。







空をゆく雲も 風になびく葉も歌をうたっている。
私たちに語りかけている。

この世は生きゆくもので溢れている。






咲き誇る桜も 青柳も
いずれ淡い緑の葉を繁らす樹々たちも

その生の大音声の中
私たちに 生きよ、と語りかけている。















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Last updated  2015.10.28 15:27:03
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