あくい
こんにちわ。一週間ぶりですね。 ネタが無いんでショートショートを。人によっては不快感を催しますのでご注意下さい。あと、特に何があるわけでも無いんでご注意下さい。 『悪意』 私は今、一冊の本を持っている。それは物理的な意味で、だ。決して家に置いてある特定の本を指して言っているのでは無い。 妙に古めかしくて仰々しい装丁のその本は、突然目の前に現れた。 私が机に向かって数学の宿題をしていた時の事。参考書を開こうと右手を伸ばしたその先。その本はまるで、そこに有ることが当然の如く存在していた。 「魔法の本・・・」 見覚えの無いその本を片手に、私は言いようの無い圧迫感に襲われていた。妙な感覚だ。これは良くない感覚だ。今すぐこの本を捨てて、この本の存在など忘れて宿題に戻るべきだ。 日々の退屈。その中に舞い降りた一つの奇跡。・・・・・・。見覚えのない本が突然現れたのだ。奇跡と呼んでも差し支えないはず。とにかく、退屈の中にあってはスリルを求めがちだ。映画にあるような、派手なアクションシーンや冒険活劇。そんな有り得ない非日常を追い求めがちだ。この本は一見すると、それらの有り得ない非日常への誘いの様に思える。だが、この本はそんなスリルとは無縁のものだ。きっとそうに違いない。だから、この本は見なかったことにしていますぐ捨てるべきなのだ。 私は窓を開けて、その本を思い切り投げ捨てた。幸い、家のすぐ前には路地を挟んで川がある。流れに任せてどこまでも言ってしまえばいい。 だが。 「・・・・・・・え?」 今、確かに『願いは叶うだろう』という、重くておぞましい声が聞こえたような気がした。私が特に何を願ったわけではない。でも、仮にこの本が深層意識を読み取って本当にかなえたい願いを叶える様なものだったとしたら? 恐ろしくなって、私は頭まで布団を被って寝た。 翌日。 「ねえ、包丁知らない?」 眠い目をこすっている私に、母親からの問いかけ。そんなの、知るわけが無い。 そして、何が起きるわけでもなく、私は学校へ登校していた。 特になにも変わった様子は無い。いつもの学校だ。登校している生徒もいつも通り。 夢だったのだ。そうした安直な発想は出来ないが、少なくとも実害が無いのであればそれで良い。まだ不安はあるものの、私は胸をなでおろし、教室へ。 「どうしたの? なんか元気無いけど」 アヤが何時もと違う様子の私に気づいたのだろう。有り難い友人だ。 でも、大丈夫。特になんとも無いから。 憂鬱な私は、その親切な友人を適当にあしらってしまった。ごめん。 窓にもたれながら、その窓に反射した教室の風景を見て思う。 「願い。叶わなかったな」 特に気持ちを込めるでもないその呟きは、窓に湿気を残す結果だけを残した。叶わなくて、良いのだ。 ・・・その日、一人の生徒が来なかった。私が嫌いだった娘だ。殺されたらしい。体中滅多刺しらしい。人間がやったと思え無いほどグチャグチャになっていたらしい。頭と四肢と内臓がそれぞれ違う場所から見つかったらしい。 猟奇殺人だ。犯人はまだ見つかってないらしい。学校へも、たった今連絡が入ったと。 その日、学校はお開きになった。 翌日もまた一人死んだ。 その翌日は二人。 そしてまた一人。 一日に一人は学校の生徒が殺された。 学校は当分の間休みになったし、毎日警察が慌しく動いていた。 だが、事件は突然終わりを見せた。 ある日を境に生徒は殺されなくなり、警察が無能であるという結果と、多くの悲しみを残して事件は終わりを見せた。 生徒が殺されなくなって一ヶ月。PTSDで登校できない生徒もたくさん居る。でも、学校は再開された。 「どうしたの? 気分が悪いなら、無理して登校しなくても・・・」 そう言ってくれるアヤも、気分が良い様には見えない。あんな事件があったのだから当然だが。 有り難う。アヤも無理しないで。 私は窓際から、窓に反射した教室を見た。ずいぶんと少なくなったものだ。 ・・・・・・私は途中から気づいていた。気づいてしまった。気づきたくなかったけど、気づいてしまった。 生徒を殺していたのは、私だったのだ。魔法の本は本物だったのだ。私は生徒達を殺している間だけ記憶を無くしていたのだ。 何時の間にか部屋の押入れに存在していた血まみれのガタガタになった包丁の処分を考えながら、私は呟いた。 「願い。叶えちゃったな」 特に気持ちを込めるでもないその呟きは、窓に湿気を残す結果だけを残した。 ・・・窓に反射した教室の風景。アヤの机の上に存在する一冊の本に眼が行った。 それがあの本だと気づいて、私はその場で胃の中のものを全部吐き出した。 気づいてしまったからだ。 あの時、あの本を手にして感じた圧迫感。嫌な気持ち。焦燥感。 アレはあの本から発せられたものでは無い。私自身の心の現われだったのだ。 だって、アヤが手にしたあの本の、なんと美しい事か。 生徒達が殺された事件に、魔法は無かった。 ただ、私の悪意だけが・・・・・・。-----------------なるべく文字数が少なくなるように描きました。怖いのは心であるという事で。仕事しんどいなあ。早く仕事内容覚えてしまおう。アリソン、リリアとトレイズに続く作品、メグとセロンより、メグミカです。時雨沢さんの作品の中で一番好きかも。